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閑話 とあるギフトホルダーの苦悩

短めです。

俺は第三世代のギフトホルダーとして生まれた。祖父がギフトホルダーであったが、母と父は至って普通のどこにでもいる様な人達でしかない。そんな両親なので子供がギフトホルダーだと知った時には大喜びしたそうだ。


しかし俺の能力はどこにでもあるような能力で対して強力なものでもなかった。最初の頃はそれでも良かった。生まれつき強力な能力を持っている場合もあるが殆んどの場合は成長とともに威力・精度が上がるものだからだ。


国際基準で二と判定された能力では超能力開発幼年学校に入学する事は可能だが、期待されないのはいうまでもない。しかも今年はあの倉橋大河の息子が入学してきた。今までの俺は普通の会社に入って普通の人生を送れれば良いと考えていたが、大河の息子である大志は既に自衛官による訓練を受けているようで動きに無駄がない。自分のギフトであるサイコキネシスは手を使わないで物を移動する事が出来たが、必ず視認していなければならず運べる重量も十Kg以下で何もかもが中途半端な能力だ。強力なギフトを持つものが羨ましいと思うが、既に現実は見えている。


普通に結婚して子供を育てるのは悪くない選択ではあるが、今は親の期待がとにかく重い、自分の人生くらい自分で決めたいと考える事は悪い事だろうか。ノーマルと同じ様に過ごす事など遠慮したい。


平凡が一番だと言う奴がいるがそれは余裕のある人間が言える台詞だと言うことに気付いている人間がどれ程いるか疑問だ。両親は共働きで忙しそうにしているが生活は決して楽ではない。政治家が悪いなどというつもりはないが生活苦で自殺する者がいる一方で本当に困っている人に受給されるべきはずの生活保護を不正受給している人間を見ると吐き気がする。


ギフトホルダーは能力が確認されて以降、不遇な時代を送った経緯がある。同じ人間が罪を犯したのにギフトホルダーだけが厳罰に処されるのは納得がいかない。ノーマルによる弾圧が今のウロボロスという怪物を産みだしたのに地位を向上させようと行動に出た彼等はテロリストとして扱われている。


確かにテロに走ったというウロボロスの行動を認める訳にはいかないのは子供である自分でも分かることだ。だがどんな手段を使ってでも訴えたい事がウロボロスにあるのだろう。


ウロボロスの情報はほとんどない。日本がテロの標的になった事で報道が過熱したが、どんな人物が組織を率いているのかすら分かっていないし、ギフトホルダーの存在自体がまだ多くの謎に包まれている。外宇宙から来た隕石が要因だが何故、地球に降ってきたのかも分かっていないし、衝突するまで衛星が察知できなかったことも謎とされている。


第二のプロテウスの火だと言った人類学者がいるが一部は事実なのだろうが、人間同士で争う切っ掛けを与え戦火を徒に拡げた。神様というのが本当にいるのだとしたらろくでもない奴だろう。


これから僕が進む道がどうなるかは全く分からないが日本にもウロボロスに所属するテロリストが潜伏しているだろうし、賛同した日本人がいないとは限らない。ノーマルに毛が生えた程度の能力しかないが地道な努力さえ惜しまなければ弱い能力しかなくても使い道はいくらでもある。


その為には訓練あるのみだ。まだノーマルの方が人口的には多いが厚生労働省が発表した新生児のギフト保有率は上昇傾向にある。国連は真剣に火星移住計画が成功したらギフトホルダーの隔離政策をとることも辞さない勢いらしい。


イギリス艦隊に所属していた人間の多くが戦艦と運命を共にしたのだから仕方がないことかも知れないが犯罪を犯した者でもない限りはギフトホルダーの反感を買うだけで実現化するかも分からない代物だ。火星に住む事による悪影響も考慮しなくてはならない。


現状では火星に行けるのは宇宙飛行士のみだ。人体にどんな悪影響があるか分からない所に長期間住むことは現実的ではない数十年、数世代が暮らしてみなければ本当の意味での悪影響など科学的に証明できないからだ。宇宙はとても広い。人間が一生をかけてでも移動出来ない位には。何時かは人類も自由に惑星を行き来できる日がくるのだろうか。


僕にはこれと言った特技はないが小さな頃から星を眺めるのがとても好きな子供だった。天体望遠鏡など高価な物は買えなかったが普通に眺めているだけでも満足できた。宇宙という大きな存在を感じる事で、自分の小ささが気にならなくなるのは不思議と心地の良い物だ。僕の将来は誰にも分からないだが宇宙は不変のままそこにあり続けるだろう。


十数年振りに読んだ当時の日記は振り返ってみるととても恥ずかしいものだった。だが当たり前の様にあった日常がこれほど有難いものだったのかと実感させられたのもまた事実だ。


後に火星移住者として一陣に混じり過酷な環境で奮闘しつつも若くして亡くなった一人の飛行士の物語である。


「先輩、本当に行っちゃうんですね」


「ああ。昔から星を眺めるのは好きだったし誰も火星には行きたがらない。政府としてもノーマルとギフトホルダー両方の被験データが必要だから募集枠も多いし、食糧などの生活に必要な物は国が用意してくれる」


「以前から聞いていましたけどそこまでして火星に行きたいんですか」


「地球は色々とゴタゴタしているだろう。それに苦労するかも知れないが地球に居ては味わえない事が火星では体験できるかもしれない。それだけで行くには十分な理由になる」


「変わった人だとは思ってましたけど先輩は夢を持ってて羨ましいです」


「おい。しっかりしてくれよ。士官学校に入って自衛官になるんだろ。高い志を評価していたが俺の気のせいだったのか」


「先輩が地球にいない間は日本を何としてでも護ってみせますよ。ただ先輩には帰る場所がある事だけは忘れないでください」


卒業式に交わされた約束は護られることになったが先輩が地球に帰還することは無かった。火星特有の疾患で多くの人が亡くなった。機材も設備もない環境で医師達は懸命な処置をしたが病は人を選ぶ事はなく、火星病と名付けられた病は移住者の四割を死に至らしめたが数年に渡る研究で死の病ではなくなった。


人類にとって生存圏を拡げるという偉業を達した人達の裏には多くの困難と死が付きまとっていた。星が好きで火星に移住する事を決意した少年の名は後世に引き継がれる事は無かったが少年は普通の生活を送るよりかは充実した生涯を送った事は間違い用のない事実であった。


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