六十二話
艦隊の全滅の報告を受けたイギリス政府は批難声明を発表した。
「この様な事態になったことを誠に遺憾に思う。ノーマルにとってギフトホルダーは敵ではない。共に繁栄していくべき盟友であるはずです」
この発言には各国も賛同した。ギフトに依存する様な社会構造にはなっていないが優秀な人材は多い事に越したことはないのが現実だ。確かな才能がある者のギフトホルダーとそうでない者のノーマルの溝は深い。様々な理由から争い事となるが、人が多く死ぬ事になる戦争は誰だってやりたくない。親しい者が傷付く事を看過できる人間などそう多くはいないのだから当然だ。
ウロボロスの思想はいうまでもなく危険なものだ。全滅したイギリス艦隊には男性もいれば女性もいた。ノーマルもいればギフトホルダーもいた。一発の核が全て灰塵としてしまったのだ。
「偵察隊の皇二等特尉より入電。イギリス艦隊は核攻撃により全滅の模様。至急、合流ポイントの指示を求めています。」
「分かった。合流ポイントをイギリス艦隊との中間地点に設定。戦闘態勢発令を発令する。」
「了解。コードレッド発令。各員は所定位置にて戦闘態勢に移行せよ。」
とんだ災難続きだと自嘲する大河であったが、災難が降りかかってきた以上は火の粉を払い憂いの元を絶つだけだ。
「全艦転進。核攻撃に留意せよ。」
「飛行部隊を展開させます。」
「頼んだぞ。自衛隊が被害を被ることだけは何としてでも避けたい。」
今頃は速報が流れているだろう。イギリス艦隊が潜水艦を除いて全滅したと言う事実は否定できないし国際世論を動かすだけの力がある。
「敵対勢力を発見した場合、即時攻撃に移れ。テロリスト共を野放しにしておく必要は一切ない。遠慮なくやれ」
衛星電話を通じて中曽根から指示は入ってきている。いくら穏健派といえど限度と言うものがある。今回のウロボロスの行動はその一線を既に越えており躊躇する必要などなかった。
「ヤマタノオロチ隊には重火器を装備させ甲板待機。戦力は使わない事に越したことはないが向こうはこちらに容赦などしないだろう。各自、生き残る事を優先させろ」
「了解。」
「木野二佐は電子戦に備えてEMCジャマーを展開させる事に専念してくれ。昴の指揮は俺が執る」
戦闘態勢に完全に移行した自衛隊艦隊。流石のウロボロスでも完全装備をした自衛隊艦隊に攻撃を仕掛けるとは思えないが油断したイギリス艦隊が既に攻撃され、戦闘能力を無効化されてしまっている以上はこの措置は当たり前の事だ。
「合流ポイントまで一時間弱です。」
「分かった。各員には負担をかけるが文句の言えない状況だ。後で特別手当てを申請するから我慢して貰うしかないな。」
「所属不明の船舶と戦闘機が接近中。対応を願います」
「停船を呼び掛けろ。応じなければ主砲による攻撃を仕掛けろ」
「所属不明艦に告ぐ。直に停船せよ。」
停船命令に従わない船は主砲発射態勢に移行している。
「撃て」
既にロックオンしていた護衛艦の主砲が火を噴く。
「全弾命中。敵船舶は沈黙しました。」
「ヤタガラス二個分隊で制圧作業に移れ。指揮は柳に一任する」
艦に搭載された小型挺で船舶に対して接近する。船舶は完全に沈黙していたが少しの油断が思わぬ被害をもらたらすのは戦場では当たり前の事だ。
「柳一等特尉。生存者を発見。既にGID錠にて拘束しております」
「椎名。捕虜の管理を任せる。抵抗しないように薬で動けない様にしておけ。何か異常があったら連絡しろ」
「了解。」
十中八九、相手はウロボロス所属でテロリストにジュネーブ条約は当てはまらないが政治的な配慮をする必要性を柳は認めていた。
「残りは、制圧作業を続行しろ。念のために操舵室を押さえるぞ。ついて来い。」
柳達の行く先をさえぎるかの様に現れるテロリスト達。
「発砲を許可。確実に当てろ。」
被弾したテロリスト達を慣れた手付きで拘束していく。
「完全制圧したら応援を呼ぶ。それまで生き残れる事を祈るんだな」
「柳一等特尉。操舵室まで制圧が完了しました。」
「分かった。念のためにテレポートが使える隊員はCGIDを展開しろ」
船に爆発物が仕掛けられていないとは限らない。証拠を残さない為に自分達が乗る船を自沈させる事をウロボロスが躊躇う筈もない。
「制圧するぞ」
操舵室のドアを蹴り破り侵入するがあったのはGID装置と一ヶ所に固められたC四爆弾のみで解除している時間と装備はない。
「退避。」
自衛官が持つCGIDは最新式のもので仕掛けられていたGIDの効力を無効化した。柳は捕虜をとっている時間がないと判断して連絡をいれる。
「隊長。爆弾が仕掛けられていたため制圧を放棄して撤退しました。こちらの人的被害はゼロです。」
「良くやった。帰還を許可する。」
小型高速挺が船舶から離れた時に仕掛けられた爆弾が爆発し、拘束していたテロリストを連行する余裕がなかったため船と運命を共にする事になった。
「狂っていやがるな。そこまでして叶えたい理想は一体どこにあるんだ」
一人の自衛官が呟いたその一言は全自衛官が想いを共にしているが今更なにを言ってもウロボロスは理想を実現させるまでは凶行を止めることは決してないだろう。自衛隊艦隊の防空圏に侵入した敵航空戦力はその真価を発揮する前に全機撃墜されていた。自衛隊の戦闘パイロットの腕もそうだが十機中五機を撃墜したのは柊率いるヤマトプロトワン部隊だ。
電子制御された艦砲の的中率も高いがいざというときの要になるため練度が高かったことが要因だろう。船や戦車と違い戦闘機は三次元の動きをするがその戦闘機に砲弾を当てた事実がそれを物語っている。
「ヤタガラスの収容を確認。指示を願います。」
「予定通りの進路をとる。襲撃が予想されるため油断するなと全艦に通達しろ」
戦闘があった事で予定より遅れてしまったがイギリスの生き残り部隊と無事に合流する事が出来た。
「臨時指揮権を持つアダムス中佐であります。貴官の応援を有り難く思います。」
「倉橋陸将補だ。アダムス中佐。貴国の状況は他人事ではない。他国の指揮権を持たない故、イギリス政府の見解を聞きたい」
「イギリス本土より増援が来る予定となっていますが、撤退せざるおえないでしょう。本国は既に批難声明を発表したそうですが国民がウロボロスを滅ぼすまで戦闘を続行すべきだと言うのは仕方がないことかと。」
「日本だけではなく世界が選択を迫られている時なのだろう。貴国の健闘を祈る。」
内閣により増援部隊が来るまでイギリス潜水艦の護衛を求める声があったが軍を軍が護衛することなど無能を認めている様なもので有難い申し出だと言いつつも断固拒否の姿勢をイギリスは見せた。国の威信もあるためアダムス中佐には申し訳ないがイギリスが拒否した以上は無理矢理、意見を通す事を日本政府が躊躇った結果。
少ない人員で脅威に対して対抗せざるおえないアダムス中佐には同情するが今言っても相手が気を悪くするだけだ。出来る事と言えば食糧や弾薬を融通することだけだったが倉橋の申し出にアダムス中佐は感謝の意を示した。
「協力を感謝します」
「いえ当然の事をしただけです。気になさらないで下さい。」
「そう言って戴けると助かります」
そう言い残してアダムス中佐は昴を後にした。
「問題は一応片付いた。コードイエローに移行。現領域から離脱する。」
「了解」
――昴、格納庫――
柊は実戦を経験した緊張感から解放されて思わず溜め息を吐いていた。
「コードイエローに移行した。初めての実戦で良くやった。」
部下達も初めての実戦で疲労していたため機内待機の二名を除いて交代で休憩をとることに安堵した。実戦を得るまでは精鋭ではあるものの実験部隊として活躍の場が無いことを悔やんでいたものも多くいたのだ。旧式アーマーは動きが鈍く脱出が叶わずに死亡した仲間を見たことがある隊員ほど顕著で機動力・継戦能力の高いヤマトプロトワンを中々、実戦投入しようとしない幹部に対して不満を持っていた者すらいた。
自衛官とて人間だ。殺し合いという殺伐とした戦場が好きな者はいないし、仲間の自衛官が死んで行くのを黙って見ていられる筈もない。他国の人間とは言え罪のない人間が殺される現状を変えたいと考えて自衛官に志願した者もいる。命令違反をしてでも出撃しようとした部下に説教をしつつも柊はそんな部下達を死なせる訳にはいかないと常日頃から考えていた。
――中東、某所――
「イギリスに打撃を与えたものの日本はほぼ無傷か。やはり倉橋という男は侮れんな。」
「しかし、足止めには成功しました。現在進行中である作戦に自衛隊は干渉できないでしょう」
その日、中東のとある国家で軍事クーデターが起きた。以前からウロボロスに関与していると考えられていたが確固たる証拠が無くては他国に対する内政干渉となるため各国は監視をするだけに留めていた。
それはギフトホルダー至上主義を掲げるウロボロスの理想を実現する為の大きな一歩であり、現状に不満を持つギフトホルダー達はこぞってウロボロスに参加する事となった。
国連加盟国は、クーデター政権を認めず、国としても認めていない。ウロボロスの賛同者達からすれば国連が認めなくても問題はなかった。認めないのであれば認めざるおえない状況を作り出してしまえば良いのだ。
ノーマルは見せしめという理由だけで老若男女、問わず処刑台の露として消えていった。看過できないと国連決議で軍が派遣されることが決まった頃には既に数千もの死体が積み上がっていたのであった。




