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六十話

大河たち自衛官は苦戦を強いられていた。出だしから記者を二名拘束して到着予定が遅れたのだ。記者の二名は海上保安庁に身柄を移送され、公務執行妨害で立件するかを検察庁と協議中だ。


間の悪いことに旗艦である昴にインターネット回線を通じてハッキングをかけようとした者がいた。橋本が雄三の指揮の下で対抗したが、混乱していたこともあって一時電子機能の十五パーセント低下したのだ。その隙を敵は巧みに利用して自衛隊を追跡しているらしい。索敵範囲外であるが、そうしないと昴に電子戦を仕掛けられ接近する前に無効化されてしまうことを避けていることから相手は実戦経験がある軍隊なのだろう。日本はPKO活動において単独で行動する。


日本の自衛隊は他国の軍の指揮下に入れない。単純に物資の補給や地雷の排除などの戦闘外の作戦行動であれば問題になることはないが、戦闘には専守防衛を基本としているため自軍を危険に晒すことになる。指揮官の判断次第では先制攻撃を仕掛けることもあるが、不明機に対して威嚇射撃をした様に日本は開戦に対しては消極的だ。米軍なら嬉々として敵軍を殲滅するような場面でも自衛隊はなるべく捕虜を取ろうとする。人命優先と言えば聞こえが良いが、ただトップが責任逃れをしているのに過ぎないのだ。自らを囮にしてでも情報を持って帰る。日本領海を出た時点から胸騒ぎがしていた。


「橋本一尉。指揮官に対して双方向通信の準備を頼む。もちろん秘匿回線でだ。」


「一分、時間を下さい」


「倉橋だ。諸君らも分かっていると思うが今、何者かに旗艦である昴が捕捉され、位置情報を敵勢力に対して発信し続けている。相手の作戦の裏をかき殲滅する。」


「内閣の承認は受けているんですか。避けられるのであれば隊員をわざわざ危険にさらす必要はないと考えますが」


皇はなるべくであれば戦闘を行いたくないハト派に所属している。総司令官である大河が責任をとるとは言え、今回の派兵で海自の責任者は皇だ。責任を取らされる事態は何としても避けたいのである。


「中曽根総理は決定権を俺に委譲し既に内閣の決議も終えている被害を出したら責任をとるのは総司令官である俺だ。君達には何の責もない」


「分かりました。艦隊に直に迎撃態勢をとらせます」


「艦内チェックを頼む」


大河の予想が正しければ身内に裏切り者が潜んでいる可能性が高い。今ある地位を捨ててウロボロスに寝返って利点があるとは考えにくい。


「コンディションイエロー発令。繰り返すコンディションイエロー発令。」


海自に所属する鶇は護衛艦【蒼龍】に配属され、皇の下で任務についていた。昴の後方に配置され大河がの目の届きにくい箇所をフォローするのが役目だ。二足歩行型戦術兵器(アーマー)やパワードスーツが納められている格納庫を守るのが鶇の任務だった。


「止まれ。コンディションイエローが発令された時点で一般隊員の立ち入りは禁止されているはずだ。所属官名を名乗れ」


「はっ。三等特尉殿。第七艦隊所属。叶三曹です。」


「人が来るとは聞いていない。三曹と言ったが、二曹の階級章をつけているお前は何者だ。」


艦内に備えつけられた緊急発令ボタンを鶇は押す。


「格納庫にて緊急事態発生。MPは直に急行せよ」


艦内では拳銃の使用は制限されており、スタン弾を使用する特殊銃が使われていた。スタン弾は当たれば確実に相手の意識を奪うように設定されており絶縁体で覆っていないかぎりは有効な武器と言える。


鶇はスタン弾が命中したのにも関わらず動いている敵に動揺し、被弾してしまう。同じく重要地点である格納庫に配置されていたヤタガラス隊員は艦長の許可を求めずに実弾を発砲することにする。


「跳弾に気を付けろ。」


防弾ジャケットに弾が当たったため負傷した様子の鶇だったがヤタガラス隊員はこの場をまず制圧しなければ救護に駆けつけても無意味だと判断した。敵はタクティカルナイフを引き抜き接近戦をヤタガラス隊員に挑む。


「舐めるなよ」


ヤタガラス隊員は当然、近接戦闘(CQC)のエキスパートだ。血の滲む様な訓練をしてきたし、実戦経験も豊富だ。


繰り出された突きに反応してソードブレイカーで対抗する。刃を折るまでには至らないが、相手の態勢を崩した時点で勝負は着いている。GID錠を付け身柄を拘束することに成功した。


無線連絡を受けてCICまで連行することになったしかし、歩き始めた所で侵入者は泡を吹いて倒れる。


「本部。至急、衛生班を要請する。」


「本部。了解」


青酸カリを飲んだらしく折角、情報を得る事をができなかった事を悔やむ。


「終わった事は仕方がない。簡単に医官に司法解剖させて手がかりを何としても掴むんだ。」


「了解。しかし得られる情報は僅かな物となるはずです」


「分かっている。混血が進んでいるため純粋な民族と言うのは今の時代ならあり得ん。だが少ない情報でも今は必要だ」


担当した医官は、司法解剖を直に行う。防衛省に登録されている情報と照合が行われるが該当する自衛官はいない。となれば可能性があるとしたら拘束した際に記者と入れ替わったか、出発の直前に入れ替わったったのだろう。


CIC直通の無線をとって大河に報告する医官。


「倉橋陸将補。報告します。司法解剖の結果ですが、奥歯に仕込んであった青酸カリによる自殺だと推測されます。犯人は自衛官ではなく、何者かが入れ替わった模様です。」


「そうか。個人用のナノマシンを解析する権限を与えるので、不審人物がいないかの確認を行ってくれ。」


「了解しました。」


日本領海内での妨害に続いて、艦内でのこの騒ぎだ。現地に到着するまでに解決しないとならない。官邸にも報告しなくてはならないだろう。実に厄介だ。林檎誘拐事件がウロボロスによって手引きされたものであれば、ギフトホルダーを疑わなくてはならない。


今回の派兵に志願した自衛官の二割はギフトホルダーだ。ヤタガラスやヤマタノオロチを除けばギフトホルダーの殆んどが、指揮官として行動する。統帥権は内閣総理大臣である中曽根が持っているが、実際の指揮は当然、自衛隊幹部が執る。


ヤタガラス隊員等の特殊部隊員の分隊・小隊長以上の多くは一等特尉以上の階級で一般隊の臨時指揮権を持っている。特殊部隊の隊員は徹底的な身元調査が行われているが、ギフトホルダーであっても士官学校への入学を認められずに防衛大学を経て自衛官になるものもいる。


警察庁の協力のもと行われるが、完璧ではない。国家規模の権力があれば経歴ぐらいなら詐称する事が不可能とは言えない。潔癖さが求められる職業ではあるが、自衛官になるための必須条件に日本人であることは含まれていない。日本に帰化した外国人でも自衛官になることが可能だからだ。


国民番号に照会をかけ、犯罪歴や家族構成等を調べる。アクセス権限があるものは限られるが、セキュリティホールを突かれてデータを改竄される可能性やアクセス権限を持つ者を脅迫している場合や戸籍を買い取ってなりすますなど可能性を考えたら切りがない。ギフトホルダー全員を疑えば良いかと質問されれば答えは否である。まだ確認はとれていないが、ウロボロスに所属する日本人のギフトホルダーがいないとは限らない。ノーマルであっても旭会の様にギフトホルダー排斥を表明している過激派の存在もある。


日本では融和派が圧倒的な支持を受けているがアメリカでは建国から続いている国民性なのかギフトホルダーを優遇する多くの政策を実施している。中東の多くは懐古派・原理主義者が多く、ギフトホルダーを異端者として扱っている国も多い。科学的な根拠を持ったダーウィンの進化論をなかなかキリスト教が認めなかった様に頑なにギフトホルダーを否定する者が多いのだ。


猿やチンパンジーと人類のDNAがそこまで差がないようにギフトホルダーとノーマルのDNAにの誤差も0.000一%以下のものでしかない。当然、血液型さえあえばギフトホルダーの血液をノーマルに輸血する事も可能で逆も然りである。


特別な宗教観や差別意識がなければ、ノーマルもギフトホルダーと同等に扱うのが主流である。だが白人が黒人を奴隷にしていた歴史があるように、他者より優位に立ちたいという欲求は人類の根源にあるものであり自然界では弱肉強食は当たり前の事だ。


人類の歴史は数千年にも及ぶがギフトホルダーの歴史は公になってからまだ百年足らずでしかない。ノーマルが暮らしやすい様に設計された法整備はある意味では当然の成り行きだ。人口比ではギフトホルダーの率が上昇してはいるが全体からみれば極僅かな物だ。


ギフトホルダーが一騎当千の力を持っていても絶対数が少ないのであればノーマルの手によって殲滅されるだけである事は容易に想像が出来る。大河がとしては仲間である自衛官を疑う事などしたくはない。任官後に何らかの感銘を受けて宗旨替えを行う可能性もある。可能性を考えたら切りがないが一%でも可能性があるのなら備えるのが、指揮官としての大河の役目である。


「全隊員に通達。分隊規模で隊員に異変がないか相互チェックを受けさせろ。精神汚染がないかはナノマシンから確認するため医官の問診を受けさせるんだ。」


「倉橋陸将補。内閣危機管理室より入電。そちらに繋ぎます。」


「倉橋です。内部に侵入者がいる可能性があり、対応に当たっています。手短にお願いします。」


「こちらは警察庁長官の上木田だ。海上保安庁より記者一名の身柄引渡しを受けた。その女性記者は確かに会社に在籍しているが、上司の話では過激派でもなく真面目に仕事に打ち込んでいる。社内での評判も悪くはないから逮捕されたと聞いて驚いている様子だった。」


「こちらが海保に引き渡したのは男女一名ずつだったはずです。男性の記者はどうなったんですか。」


「護送車に乗っていたのは女性一名だけだ。海保に問い合わせて見るが確かに二名だったのだね。」


噂に聞いてはいたが本当にこの男は無能なようだ。引渡しの際には複数の人間を用意して一定の階級以上でないと閲覧が不可能な文書と一緒に引き渡す事になっている。逃走の防止と省や庁を跨いで引渡しが行われるため責任を明確にするためだ。


「はい。隊の記録にも残っていますし、海保がちゃんと証言してくれるはずです。隊の確認に時間がかかるためこれにて失礼します。何かありましたら一報を入れて戴けると助かります。」


これ以上は話していても時間の無駄だ。防衛大臣室に直通電話を繋ぐ様に部下に指示してから少し状況を整理することにした大河であった。


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