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五十八話

大志達には久々のログインであったが今回、初めてログインする三人がいたため連邦府に来ている。崇人たかひと、郁、烈音れおんの三人はVRゲーム自体これまでやった事がなく、全くの初心者だ。現実と変わらない体型でアバターを作成し、顔も変えていない。顔や体型をいじる事も出来るが、変えない方が無難だ。体型を変えれば動きに支障がでるし悪影響を考え性別を変えることは出来ない。顔を変えれば全体のバランスが崩れ容易にいじっていることが分かる。


とにかくチュートリアルを終えないと話にならないジョブは個人の自由にしている。崇人は軍人【司令官コマンダー】を郁は軍人【偵察兵】を烈音は軍人【ソルジャー】をそれぞれ選択したらしい。偵察兵は索敵範囲が広く隠密行動に長けた職業だ。ソルジャーは良くも悪くも平均的な戦闘能力しかないが、ペナルティを受けずに様々な武器を扱うことが出来る。


例えばスナイパーライフルを使用する際には命中に対する補正はないが狙撃手(スナイパー)以外には命中力が低下するので馬鹿には出来ないジョブとなる。しかも司令官(コマンダー)程ではないがNPCの兵を指揮する場合に士気の低下を防ぐ効果などがある。


「仙崎先生。本当にゲームしているだけで単位が貰えるんですか」


「米田さん。勿論だよ。時任校長が成績優秀者のみならず、自力でソフトを手に入れた者にも認められているよ。認められるには教師が必要になるから君達の担当になったんだよ」


「分かりました。ソフトまで用意して頂いてありがとうございます」


米田のギフトは潜入工作に向いており、自衛官になる事を志していたので表向きは学校が用意した事になっている。要なら五人の子供達を見ながら戦闘を行う事も不可能でないしHPが0になっても害がある訳ではないので問題ない。


「三人はチュートリアルを受けて終わったら連絡してください」


大志達、四人は武器屋に寄ることで時間を潰す事にした。今回はNPCの店ではなく、プレーヤーが運営する個人運営だ。NPCの店の武器の品質は一定以上に保たれてはいるが、高品質な武器や掘り出し物を探すには適していない。


「ここかな。この辺りは入り組んでいて少し分かり辛いって言われたけど、こんなところで客は来るのかな。」


「こんなところで悪かったな。生憎、腕は良いんで客には困ってねえよ」


出店しているプレーヤーがたまたま店先の掃除をしようとしたところで先程の大志の一人言を聞かれていたようだ。


「初心者用の武器ってありますか」


「置いてはいるがナイフくらいしかないな。」


「それで充分です」


変異獣と戦うには普通のナイフでは役不足だが、普通の獣を倒すにはそれで事足りる。


「ナイフを三本、必要なんですが」


「震動剣でなくていいのか。その辺の獣でもレベルが低いと危険だぞ。」


「はい。サブウェポンですし、普通の獣に銃弾を使ってたら経費で足が出ますし、スキルを上げておきたいので」


「分かった。ここにあるのは一本、十万イェン以下の物ばかりだ。グリップはカスタマイズするなら五千イェンだ。」


一本、二十万イェンを超える物もあるが材質の違いや特殊ナイフとなる。大志が手にとったのは耐久性には優れるが防錆加工がされておらず、手入れを怠ると切れ味が極端に落ちる。実継と苺の二人は無難にステンレス製のナイフにした。ナイフだけで二十万イェン近くかかったが必要経費として割りきった。店を出るぐらいに実継に崇人から連絡が来て急いで連邦府に戻ることとなった。


「狩り行こう」


そう宣言したのは要だ。戦闘を行わないプレーヤーもいるが、軍人のジョブを取ったのに戦闘をしないのでは意味がない。


「この辺りはあまり強い生物はいない。変異獣が出てきたら見学していて貰って構わないよ。」


首都、東京エリアにはそれほど強いMOBが出ないように調整がされている。首都エリアは多くのプレーヤーが安全に活動できるようにしてゲームを楽しんでもらうのだ。辺境の惑星であればこの限りではないが、多くのプレーヤー誘致するために惑星を実効支配しているギルドが積極的に安全を確保しようとしている。


「小型のMOBに対して銃撃しても良いけど訓練の為に出来る限りは節約するようにするんだよ」


「「はい」」


山林エリアに来た一行は目標を探すために索敵している。【偵察兵】のジョブを持つ郁を中心に索敵範囲を広げていく。


「あそこに猪がいます。」


要と大志は既に気付いていたが敢えて警告していなかった。要の指示のもとフォーメーションを組んでいる。最後尾にいるのは郁と苺だ。要は戦闘に参加しない為、中衛として周囲の警戒に当たる。烈音がここで焦って勝手に銃撃を始めてしまう。


「村中くん。勝手に攻撃し始めるな。」


要が注意するが銃弾は猪の脇を通過して命中していない。


「実継。バックアップを頼む」


一人で猪に向かってしまった烈音を追いかけて、大志はナイフを投擲する。なんとかナイフを当てる事は出来たが硬皮に阻害されて深手を与えるまでには至らない。


このままでは埒があかないと考えた要はライフルを構え、猪の頭部に向けて銃弾を発射していく。なんとか烈音に当てずに猪を仕留める事に成功した。大志は品質の低下を防ぐ為に血抜きを行っている。


「村中くん。こっちに来なさい」


大志は声だけで要がかなり怒っていることを察する。負傷者がいなかったため苺は大志が処理しているのを見学している。大志は烈音が焦りを感じている事に気付いていた。彰達と距離をとり始めクラスで少し浮き気味になっている。だがそれと今回の行動は別問題だ。


ゲームとは言え適性試験でもあるのだ。要が担当する生徒は自衛官を目指している。指揮官となる要の指示を聞かないで仲間を危険に晒す者など厄介者でしかなく、命の危険がある戦場に立つ可能性がある自衛官になる者としての資質を疑わなくてはならない。


「今まで何の為に授業を受けてきたんだ。」


一年生とは言え、指導すべきところは厳しく指導をする。教師としては嫌われる事も仕事である。甘やかしたまま自衛官になろうとされても隊に迷惑がかかるだけだし本人の為にもならない。


「大志がフォローしなければどうなっていたか分からない。大志に思うところがあるのかも知れないがそんな様では士官学校に推薦することは出来ないし、教師として実習の許可は出せない」


「仙崎先生。すみませんでした。」


「初めてだからこれ以上は言わないが気をつけろ」


「はい。」


要は良くも悪くも優秀な指導者だ。切り捨てる事はしないが、劣等生に対して厳しい態度をとる。優秀な者には更に厳しい態度をとるため烈音は期待されていない訳ではないのだ。


「一旦。街に戻るが血の匂いに惹かれてMOBが発生するかも知れないから、各自で警戒し特に米田さんはこの際だから可能な限りスキルを上げておくと良い。」


仕留めた猪を要が担いで移動する為に行動に制限がかかる。銃は余裕がある大志に持たせる事にした。街に移動する一行たが、血の匂いに惹かれた変異獣キラーベアが間の悪いことに出現した。


猪を地面に置いて大志から銃を受けとる要。


「大志・山崎くんは着いてこい。小沢くんと村中くんは米田さんと木野さんを守れ」


距離を詰められた状況では、銃を使うには微妙な距離になる。


「要さん。牽制射撃をします。」


猪を倒すために銃を撃っていた大志はマガジンの交換を手早く行う。前回戦った時にも感じたことだが、特定の部位に当てないと効果が薄い。止めを刺すには火力が不足するが足留めするだけなら充分だ。


要は銃を撃ちながら接近し。太股に納められていた震動剣を取り出す。大志も購入したばかりのナイフを投擲した。初期装備のナイフに比べて切れ味が良く、猪の硬皮を貫くことが出来る。顔面に向けて投擲すれば当たらなくても隙が出来る為に要を援護するにはそれで充分だ。


大志が作った隙を利用して接近することに成功する要。殺傷範囲(キリングレンジ)に入った要は遠慮ない一撃をキラーベアに放つ。反撃と言わんばかりに剛腕が要が先程までいた場所を通過するがそこには既に要はいない。


「これで止めだ」


震動剣がキラーベアの頸動脈を切り裂き辺りには鮮血が舞う。年齢制限によって鮮血が見えているのは要だけだが、大志は決着が着いた事を悟っていたが、警戒は解かない。


「もう大丈夫だ。回収業者に連絡してくれ」


キラーベアを倒したのはこれが初めてではないので手慣れた感じで大志は連絡する。業者は街に近い事もあって十分くらいで到着するらしい。毎回、業者に頼むと経費がかさむし、徒歩では移動に時間が掛かる。中古のトラックであれば五十万イェン出せば購入できるので、早めに購入しようと考える要であった。


――ミテネ連邦府――


ギルド本部を兼ねる連邦府では、月に一度行われる定例会議の真最中だ。


「マスター。最近、キラーベアに対して損害を出さずに仕留める初心者(ニュービー)がいるらしい。まだギルドに所属していないらしいので勧誘して見てはどうだろうか」


「サイトの話ではギルドに加入する意思はないらしい」


サイトはミテネ連邦における治安担当のギルド幹部だ。


「戦闘を直接見たが、引率していた男はただ者ではないだろう。確実に警察か自衛隊の関係者だろうな」


サイトはギルマスにも明かしていないが、警察官として働いている。機動隊の隊員としてみた所見では特殊部隊に所属していても不思議ではない。


「それに一緒にいた少年の話では、ギルドを設立するつもりらしい。どういう理由で一緒にいるかは知らないが、子供が三人いたことから保護者なのだろう」


「なら今のうちになんかしらの手を打っておくべきではないか。」


発言したギルド幹部に対してギルマスはこう答える。


「弱小勢力のうちに叩いておきたい気持ちは分からないでもないが、うちのギルドに対して相手にならないだろう。少なくとも惑星を所持しているぐらいのギルドでなければいくらでも対処できる。」


ギルマスの発言を受けて暫くは様子を見ることになる。それがどの様な結果を生むかなどこの時点では誰も想像していなかった。


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