五十七話
遂に自衛隊が中東に派遣される日がやって来た。大河を総司令官とする自衛官達は出発式のセレモニー中だ。
「日本は窮地に立っているのかも知れない。だが我らには国を守護する自衛隊があり、国の為に働く多くの者達がいる。中東で起きている紛争は他人事ではないのだ。日本の平和が続くように切に祈る。」
演説したのは中曽根だ。国連の壇上で演説したときと同じようにノーマルとギフトホルダーが互いを滅ぼしあう世界など来て欲しくはない。多くの日本国民は中曽根と想いを同じにしており支持している。派遣される事となった自衛官の身内は心配をしながらも、志願した身内を誇りに思っていた。セレモニーは厳粛な雰囲気の中、進行していく。大河からしてみれば三ヶ月の長期出張だが、行く場所は紛争地域だ。楓は夫の身を心配していたが毎回、無事に帰ってきたのだ今回もきっと大丈夫だろう。
昴を旗艦として補給をしながら中東へと向かう。今回のPKO活動は治安回復の為に政府から依頼されたもので国連安全保障理事会で決議されたものだ。食糧支援などの人道支援を行う。自衛隊が駐留しても不自然でない状況を作り内情を調査するのが目的だ。大河の命令が自衛官に下達される。
「出るぞ。分隊長は既に人数確認を終えているな。木野二等特佐。乗艦が終わり次第、出発する」
「了解。」
軍隊の中では星の数より飯の数と良く言われるが雄三は大河の実力をを認めている。
「ヤタガラスは旗艦である昴に二個小隊が乗艦。後は命令通りに割り振られた艦に乗艦しろ」
ヤマタノオロチが配備されているとはいえ昴は電子戦艦だ。外装は分からない様に偽装しているとは言え、気を抜く訳には行かない。目的地に着いてからが本番なのだ。帰りの足がなくなるということは新たに増援を要請しなくてはならないが敵勢力が殲滅する機会を逃すはずがない。
「柊三等特佐。来てくれ。」
「お呼びでしょうか。」
「ああ。昴が急襲された場合、頼りになるのはヤマタノオロチ隊になる。常に三名は確実に搭乗機待機とし交代で休憩をとってくれ」
「はっ。了解しました。」
出立式は日本国内に放送されており、多くの国民がこれから戦場へと赴く自衛官を見送りに来ていた。正直な所、ウロボロスは中東に辿り着く前に自衛隊を攻撃してくるだろう。対空装備を備えた護衛艦がつくが水中戦となった時に備え潜水艦も一挺配備されている。
ステルス潜水艦は長期間の潜行が出来るよう超電力コア搭載の新型艦だ。楓が理論を必死になって説明していたが内容は半分も理解する事ができなかった。大志はギフトによって内部構造をある程度、理解しているみたいだが論理的に説明するには専門用語が多い過ぎる。
簡単に説明すると原子力潜水艦より静音性に優れ、メルトダウンの様な危険性がないという事だ。囮として使用する場合や、示威行為として音を出す分には構わないが、戦場で騒音を撒き散らしてたら攻撃して下さいと言っているような者だ。敵に察知されずに接近し必中の攻撃をする事が求められる潜水艦に欠陥があると死ぬのは自分達、自衛官だ。
莫大な建造費がかけられた兵器が破壊されては国民に言い訳はできない。今回の主目的は確かに中東におけるウロボロスの活動拠点を探る事にある。大河は指揮官として今回の派兵で自衛官を死なせない責任がある。ある程度までは内閣が責任を分担してくれるだろうが死者を出せば今回の派兵の正当性が失われる。
「全自衛官に半減休息を通達しろ。ソナーや目視による警戒を怠るな」
「半減休息発令。対空・対艦・対潜警戒を怠るな。」
今回の陸自のトップは大河だが、海自のトップは雄三ではない。皇一佐が派遣されノーマルであるものの艦隊の指揮を務める。特佐である雄三は大河の直轄部隊となり、皇の指揮系統から外れる。陸海空の三幕がそれぞれ将補を自幕の指揮官として派遣しようとしたが指揮系統が混乱するとして大河だけ派遣される事となった。皇は大型空母の指揮を取りそこに空自トップである神保一佐が乗艦している。
トップガンばかりを連れてきては、日本の領空を護る事が出来なくなるのでパイロットの年齢は低めだ。戦闘時は日本のトップガンの一人でもある速水一等特尉が隊の指揮を執りギフトホルダーには最新兵器をノーマルにはパイロットの安全性が高い戦闘機を充てた。
余程の事がなければ有人隊は出さずに無人機で対応する。決まったプロトコルでしか行動できない機械と違って人間は咄嗟の判断をすることができる。機械は与えられた条件の中で最適解を出し行動するため判断ミスは起こりにくいという利点がある。無論、遠隔操作される機体と併用する事で最大の結果を残すことが出来るのは現代戦において定石となっている。厄介なのは並行思考と機械操作のダブルホルダーが操作した機体だ。今回、自衛官の中から二名。命令を出して連れてきた。上司からの打診という形で行われたが、上官から頼まれて嫌と言える下士官はまずいないので強制と言っても過言ではない。
二人が任務で普段、使用している機体を持ち込み予備機体も何機か用意されている。一機が高価ではあるが墜落した場合、爆破処理を行う。軍事機密の塊である機体を自衛隊の管理下におけないのであれば当然の処置だ。特尉である彼らは結果さえ残せれば順当に出世する。二人は安全圏からの任務だけでなく駐屯地を出て任務にあたる事を志願したが、虎の子である彼らは既に二交代制でのシフトが作成されており大河は駐屯地から出すつもりはない。
「レーダーに感あり。友軍機では無い模様」
「緊急発進をかけろ。」
命令したのは、大河だ。
「了解」
「警告後。牽制射撃を開始。当てるなよ。」
「準戦闘態勢発令。(コードイエロー)艦員は直に所定位置につけ」
訓練通りにやれば問題はないはずだ。
「所属はまだ分からないのか。」
「はい。国籍を示すような信号は一切、発信していません」
「わかった。皇一佐に繋げ。」
通信手は指示された皇一佐へと通信を繋ぐ。
「繋ぎました。どうぞ」
「倉橋だ。既に命令が届いていると思うが、所属不明機が接近している。速度からヘリの様だが武装していないとは限らない。慎重に対応してくれ。」
「了解」
「牽制射撃開始。」
警告をしたが返答がなく仕方がなく武力行使することになる。距離が近ければテレポーターによる急襲をかける事もできたが、本隊を危険に晒す訳にはいかない。GIDでギフト対策がされている可能性もある。
「接敵します」
武装はしていない様だが、日本の領海において自衛艦に異常接近したヘリを見逃す訳にはいかない。
「海保に連絡をとれ。」
「了解」
「身体検査を忘れるな」
男女一名だが明らかに民間人で武装していない。報道記者の腕章をしており、ジャーナリストなのだろう。
「君達の行動は明らかに法律違反だ。こちらは威嚇射撃をしたことを謝罪しないし然るべき場所に抗議させていただく。」
この一時間の停滞が悲劇を生むことなど知らずに記者は答える。
「中東に自衛隊を派遣されるのは、合憲とは言えやり方が乱暴だとは思わないのですか」
「私には派遣が正しいものだとは思えません」
「君達の意見は聞いていない。手段を間違えれば訴えている内容がいくら正しくても理解されないことを知った方が良い。記者二名を連れていけ。監視下に置く事を忘れるな。」
記者の二人は船室へと連れて行かれる。銃を持った保安員はなるべく威圧感を与えない様に女性自衛官を手配した。
「ジャーナリストは厄介だな。信念で無理を通そうとする。撃墜を命じられたら命の保障など誰にもできんし、自衛隊としても牽制射撃をしなくてはならん。」
「そうですな。しかもあの会社は自衛隊に否定な記事を書くことで有名です。問題にならないと良いのですが。」
「問題などにはさせんよ。我が自衛隊は国民に愛される軍隊だ。撃墜されなかっただけましだと思って欲しいがそれは無理だろうな。」
「倉橋陸将補、海保から連絡が来ました。高速挺で三十分ほどで到着するとの事です。」
「分かった。コードブルーを発令し、周囲に警戒しろ。」
三十分後、海上保安官が到着し身柄の引渡しを行う。内閣には既に報告済みで、国枝も対応してくれるだろう。
「出発するぞ。予定より遅れているが、安全を優先して構わん。」
無事に日本領海をでたため、少し気が緩んでいるのか、休息している自衛官は雑談に興じている。
――都内某所――
「作戦は上手くいったようだな」
「はい。独善的な者ほど今回の件では上手く踊ってくれましたよ。自分達が騙されているとは思ってもいないでしょう」
「テロ事件で多くの同志が死亡した。一矢報いなければ無駄死にだし、倉橋には借りがある。中東で死んでくれることを願っているよ」
「とりあえず作戦の成功を祝って一杯飲みませんか。いいお酒が手に入ったんですよ」
一室ではグラスの当たる音が木霊していた。
――超能力開発幼年学校――
生徒たちは明日から授業が再開されるため、学校に戻ってきたが要は所用があって帰るのは深夜近くになりそうだ。寮に設けられている談話室にはお土産を持ってきた生徒が交換しあっていた。都内に住んでいる三人はお土産を持ってきていない。だが大志には切り札がある。
「崇人くん。急に呼びだして悪いね」
「暇だったから構わないさ。実継から良い話があると聞いているが早速で悪いが話してくれないか。」
「崇人くんはVRゲームには興味はある?」
「機械が高いからやったことはない。もしかしてブループラネットが手に入ったのか。」
「良く分かったね。まだ公開されていないが祖父は学校に教育目的でVR機の導入を検討しているんだ。利点は多いが根強い反発が保護者から上がる。機械だけあっても使用する人間がいなくては意味がないから促進用にいくつかの有名タイトルを購入してくれる事になった。その一つにブループラネットがあるだけだよ」
「良く手に入ったな。入手困難でネットではプレミアがついてるくらいだぞ」
「祖父は大臣をやっているんだからそれぐらいのコネはあるよ」
「それもそうだな。いつからプレイ出来るんだ。」
「二週間もあれば設置できるはずだよ。アップグレードに伴う追加パックの販売もその頃だから丁度いいでしょ」
転売を行うものが後を立たず、それだけ人気作だということだが、たまたま運良く手にする事が出来たと誤魔化せない訳ではない。米田先輩に悟られずに渡すのは困難だが、要を通じて渡せば問題はないだろう。
「ただ分かっていると思うけど所有権は学校に属するから転売は不可能だよ。賞品であれば、個人所有になるけど流石にそこまではできなかった。」
「売るわけがないだろ。RMTも出来るし、月額料も最初は無理かも知れないが直ぐに払えるようになるはずだしな。」
小学生なので自分で自由に出来るお金は殆んどないと言って良い。後は崇人が両親を説得するだけだが問題は無さそうだった。
「何れはギルドを作る積もりなんだ。名前はまだ決めてないけど加入してくれると嬉しい」
「勿論だぜ。大手にも負けないギルドを作ろうぜ。」
名前は決めていないと周囲に話しているが実は既に決めている。強くならないと意味がないため発表していないだけだ。
「引率に要さんが来ないとログイン出来ないから訓練後に週に何回かログインする形になると思う。」
「仙崎先生がなんで引率してくれるんだ。ブループラネットって年齢制限はないはずだろ」
「要さんは父の元部下だろ。母さんとも知り合いで、母さんはVRゲームがあまり好きじゃないから監視役として一緒にログインして貰ってるんだ。それに十四歳以下は成人(十八歳以上)の付き添いがいないとログインできないんだよ。」
「そうなのか。知らなかった。」
「RMTが出来るタイトルは全てそうなってるよ。自衛隊でもVR訓練が行えるように十四歳が下限年齢になっているんだ」
「そうなのか。良い話だというのは本当だったみたいだな。幼年学校の生徒は優秀なのが多いし、将来に向けてコネを作っておくことは良いことだからな」
そうなのだ。否定的な意見は多いが、VRゲームには国境はない。有名プレーヤーも社会的に地位がある者ばかりだ。ギルド運営にも現実世界で役に立つし無駄はない。弾薬から武器の値段。経費はいくらでもかかるか計算できない人間ではギルド運営は出来ず、小規模ギルドであればそれで問題はないが大ギルドを目指している身としてはそれでは足りない。崇人を仲間に引き入れたのは、戦闘能力を買っているからだ。事務に向いた人材も必要になるが暫くは要さんに頼るしかない。
遊びに付き合っている要だが、要もゲームを楽しんでいる。息抜きも必要だし大志のこれからを考えるとこれくらいの事はなんでもないことだ。後にブループラネット内で永きに渡って語り継がれるギルドが誕生するのはもう少し先のことであった。




