五十六話
大河が会議に出ている頃。九重に案内された大志達は資料庫へと案内されていた。紙媒体で記録されているものは少なくほとんどが記録媒体に収められている。
「二足歩行戦術兵器の資料はないの?」
大志は九重に訪ねるが苦笑いされた。
「大志君。アーマーの詳細スペックは防衛機密で閲覧許可は降りませんよ。機甲科か整備科の隊員でない限りは知ることなどあり得ません。」
「演習を公開してるなら少し位なら良くないですか。父さんに聞いて見てくださいよ。」
「倉橋陸将補は只今、会議中です。聞いて見ても許可する訳ないですよ。それより戦闘機に興味はありませんか」
九重は広報部に来るまでは空自の隊員で女性パイロットをしていた経緯を持つ。第五世代戦闘機の試作機【心神】を語らせたら一時間どころか何時までも喋り続ける事が可能だ。
「心神について語らせたら私に敵う者なんていませんよ。国産ステルス戦闘機が日本の歴史を変えたと言っても過言ではないでしょう」
敵に補足されないで対空・対地攻撃が出来るのは当時では大きなアドバンテージだった。ステルス技術と索敵技術はイタチごっこだが技術革新を招いた事は歴史が証明している。アメリカが第六世代として戦闘機に人工知能を搭載して敵を攻撃するシステムの構築をしたが失敗に終わっている。GPSを元に目標地点を設定し、攻撃する訳だが、民家を誤爆したりハッカーに操縦権を奪われたりする事件が相次ぎ、計画は凍結された。
「自衛隊もロールアウト間近な機体がありますし楽しみですよね」
「そうですね」
相槌を打ったのは、実継だ。実継は航空機よりアーマーに興味を持っていたが歳上である九重を立てる為に話を聞いている。苺はというと育った環境からか戦闘艦に興味があり、戦闘機についての知識は全くなく興味無さ気にしている。我を忘れたいたことに気付き冷静さを取り戻す九重。
「陸自や海自にはない魅力が空自にはあるのです。」
九重は自衛隊に入隊してから彼氏がいない。友人からは航空機オタクと呼ばれ、合コンをしても空回りしている。
「皆。自衛官の関係者なのよね?良い男知らない?」
内心では子供に聞くことじゃないだろうと総突っ込みだが苺は律儀に答える。
「鶇お兄ちゃんなら九重さんと年が近いはずです」
「何?苺ちゃん詳しく。」
いとこであること今年任官した新米三等特尉である事を白状させられる苺。
「木野二等特佐の息子さんかぁ~~。競争率は高そうだけど優良物件であることは間違いないわね。」
獲物を補足した補食者の眼がそこにはあった。
「恐いです。」
その頃、基地待機となっていた鶇は部屋の掃除をしていたが悪寒がした。
「気のせいか。いま凄く嫌な予感がしたんだが。今日は早めに寝た方が良さそうだな。」
鶇の呟きを聞いている者は何処にもいない。だが九重の牙は着実に鶇へと迫っていた。
「男女比は当然、男の方が多いんだけど見た目だけで中身がないのよね。」
大志は広報の仕事をしなくてはいいのかと考えていたがそもそも二人に案内するのがメインな為、口を挟めないでいる。九重は容姿が良く男にナンパされないのが不思議な位だったが、性格が男を遠ざけているのだろうと思った。
既に一時間以上、経過しているが大河達の会議は終わりそうになく子供である三人はかなり暇そうにしている。明らかな人選ミスだろと思いながら一方的に話を続けている九重の会話に相槌を打っている。九重の上司が様子を見に来た時にはやけに疲労している三人の子供を見つけその理由に心当たりがあるせいかお茶を入れてくるように九重に指示をだした。
「悪かったね。九重三尉には悪気はないんだが、うちの男共が容姿に気後れして話しかけられない臆病者だからな仕方がない。」
男女比が極端な自衛隊では女性は売り手市場となる。言い方は悪いかも知れないが女性であればとにかくモテる。一般社会に出れば綺麗な女性は多いが、自衛隊という規律の厳しい監獄で囚人ばりに働いていれば美的センスが狂うらしい。中には隊外に彼女がいる自衛官もいるが彼等から言わせてみれば顔面偏差値の高い勝ち組にだけに許された特権だという話になる。
士官学校を卒業した自衛官はエリートであり、背広組なんか目じゃない程の高級取りが多い。とある女性誌では結婚したい男性職業アンケートで二位に輝いている。
「大志君。倉橋陸将補の部下である。柳一等特尉が迎えに来ている。これからの予定はあるのかね」
「はい。基地を見学して帰る予定です。」
「分かった。会議も一度、休憩を挟むようだし出るためには署名が必要になるから忘れずに貰っておくんだぞ。」
「九重さんお世話になりました。また何かありましたら宜しくお願いします」
「分かったわ。自衛官になったら会いに来なさい。良い男になってたら相手にしてあげるわ。」
「大志君には必要ないです。鶇お兄ちゃんを紹介するので結構です。」
苺に生贄にされた鶇。
「そう。なら良いわ。苺ちゃんちょっとこっちに来てくれる?」
九重は楽しそうに何かを呟く。苺の顔は赤くなるが気にしたら負けだと思う。
「大志。柳に迎えに越させたから基地を見学して帰ると良い。」
「分かった。父さんはどうするの?」
「会議が長引きそうだから下手したら帰れないで泊まりになるかも知れない。楓にも伝えておいてくれ。」
防衛省を後にする大志たち一行。
「忘れ物はないな。隊車で来たから乗り心地は悪いかも知れないが我慢してくれ」
防弾仕様で一度に多くの人間を輸送できるように設計されているため快適性を犠牲にしている。
「柳さん。出張はどうだったんですか。」
「後輩に稽古をつけただけだぞ。稽古後はゾンビが大量発生したが何時ものことだ」
柳の訓練を受けたのは特殊部隊に所属する戦闘員だ。見切りは身体強化率は低く、動きが見えていても反応できなければ意味がない。それを埋めるのは柳一刀流の刀技だ。相手の力が強いのであればそれを利用すれば良いだけだ。力で刀を振るうのではなく技で制するので素質がなければ修める事は出来ない。柳が公務中でも帯刀出来るのは、ギフトを発現した際に相性が良く、柳一刀流が多くの者に認められた刀技であるからだ。
「良かったら大志にも教えてやるぞ。お前なら銃弾逸らしくらいは出来るようになるだろう」
「柳さんまだ死にたくないので遠慮します。」
最初はゴム弾などの非殺傷兵器で行われるが何を考えているのか、最終的にはVR上とは言え痛覚制限をきって練習させるのだ。ギフトは発現できるはずもなく、純粋な刀技だけを見る為に行われるのである。偶然が重なれば一回弾くことは不可能ではないかも知れない。当たり前の様に銃弾を弾く姿を見せられれば尊敬を通りこしてただ呆れるだけである。
「ギフトを発現させれば一時的には出来ないこともないですけど反動が大き過ぎます。身の丈にあった格闘術で実力をつけてからにします。」
「そうか。苺ちゃんは合気道と相性が良さそうだし、実継くんはそもそもあまり運動には向いてなさそうだ」
「柳さん。言い過ぎですよ。要さんがそこの所は上手く対処してくれているはずです」
「大志も容赦がないな。確かに運動は得意じゃないけど鍛練はきちんとさぼらずにやっているよ。寧ろ大志の方が一般の感覚と言うものを学んだ方が良いと思うぞ。」
確かに常識がないのは自覚しているが育った環境がそうなのだから仕方がない。同じ新入生と組手をやらされた時には拍子抜けした。身体強化のギフトを持つその生徒は力に振り回されているだけで体力を無駄に消費しているだけだ。身体強化は確かに持続性の高いギフトだが、肉体に影響を与えない訳ではないのだ。脳にも筋組織にも負担を強いる。強化率が高いほど大きな力が出せるが、その反動もでかくなるのだ。
「実継くん。要さんが教えた電脳の技は君にはまだ早い。肉体が機械でない以上はどんな反動がくるか分からない。切り札を持つことは重要だが自衛官になるなら自分の身は最低でも自分で守れるようにしておかなければ話にならないよ」
「はい。仙崎先生にも杉崎先生にも試合後に叱られました。父さんの拳骨は痛かったです。」
「小澤三佐か。あの人も遠慮がないからな。」
実継の父はノーマルであるものの堅実な指揮をすることで有名で他人に厳しいが更に自分には厳しい男だった。防衛大出身でいくらでも出世する機会があるというのに現場から離れようとはしない。
自衛官も色々な事情を持ったものがいる。純粋に自分の能力を発揮させたいという者から、安定した職に就きたい者など人によって異なる。一般人ではギフトを発現することを制限しているため比較的制限が緩く才能を存分に発揮できる公務員は人気職だ。なにより給料が高いのだ。
「苺ちゃんは将来なりたい職業はあるのかな。あるなら早めに行動した方が良い。」
「まだ決まってはないです。お姉ちゃんがどうなるか分からないのに私だけが浮かれている訳にもいきませんから。」
「そうか。何かあったら要さんや周囲の大人に相談すると良い。必ず力となってくれるはずだ。」
目の前に航空基地が見えて来た。駐屯地ではなく基地にしたのは今回、子供たちに戦闘機を見せる為である。高火力のアーマーによって単独では制空権を確保することは難しくなったが、需要がなくなるということはない。陸自も多くの輸送機や支援機を所持しており、無駄にはならない。空自による横槍がなかった訳ではないが、必要に駆られての選択だ。
「九重さんみたいな人ばっかりなのかな。何か嫌な予感しかしないけど。」
「柳一等特尉。お待ちしておりました。受付はこちらになります。」
「ああ。俺は公務で来ているから直ぐに終わるが子供たちは見学者として来ている。手続きを頼む」
大志は慣れているが他の二人はまだ慣れておらず、手間取っている。
「終わったのか。」
「はい」
「許可は得ているから戦闘機でも見に行くか。」
微妙な顔をしているが九重の影響がまだ残っているのだろう。
「欠陥機と言われていたが完成していたから第六世代機はとんでもない代物になっていたはずなんだ。撃墜されても人が死なない。ゲーム感覚で戦争をされても困るが、パイロットの生存率が上がることは良いことだぞ」
「無人兵器は対人戦で脅威になるよね。それはいいの?」
「良くはないがそれも時の流れなんだろう。ノーマルよりギフトホルダーの方が優位に立てるように仕方がないことだ。」
「この機体はもう動かないんですか」
「そうだ。人間の支配下に置けない兵器など害悪でしかないしな。」
「なんかもったいないですね」
実継が持つ電脳があれば危険がなく、攻撃出来るが相手の力量が上回っていた場合は確実に牙を自分達に向けて剥くことになる。人が完全でない様にギフトも人が発現させる以上は完璧には程遠いのだ。
「国防費が使われているから気持ちは分かるが、信用できない兵器は無い方が良い。」
信頼できない兵器で傷つくのは自衛官であり護るべき市民だ。柳が言うことは最もだ。
「奥に航空学生が使用するシュミレーターがあるみたいだ。やってみるか。」
別の事に興味をひかれた二人は、柳の話を深くは考えていない。
「柳さん。しょうがないですよ。実継はまだ現実を知らないんですから。避けられる二人とは違って俺は事実を知った時から覚悟はしていますよ。家族は勿論のこと日本も護ってみせますよ」
「生意気いうな。二人が迷子にならないうちに追いかけるぞ。」
こうして大志の休みは過ぎて行くのであった。




