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四十九話

トイレ休憩に入っていた鶇は殺気を抑えて近付いて来る者に気付いた。先程、車内で自己紹介を終えた大志より二・三歳年上の男の子である。


要から渡された銃携帯許可書とヤタガラスの部隊章だ。男の子はこちらを挑発しているらしいが、少年に負けるなど鶇の実力を考えるとあり得ない。詳しいルール説明は行われていないが、三チームに別れて富士山を踏破する。護衛対象となる者がチーム内に一人は存在することから撃破されると何らかのペナルティがあるのだろう。大河は飯を食べてくると到着そうそうにどこかに行ってしまった。


要もついて行ってしまい、鶇は今、一人である。椎名と大志は人混みに紛れながら鶇を監視している。訓練は既に始まっており、部隊を離れる事を選択してしまった鶇は孤軍だ。初めて訓練に参加する者が陥りがちな罠だ。


騒ぎを起こさないように近付いて行く隆太に対して警戒心を強めた鶇は大志達と合流しようとする。士官学校で行われた訓練のうちの一つに同じように護衛と要人役に別れて目的地まで移動すると言う訓練があった。車内で渡されたバッチを見て気になったのだが、大志が持っているものと渡されたバッチの色は違う。


近付いてきた少年がつけているバッチも色違いで訓練では敵同士となって戦うのだろう。訓練はもう始まっていると考えるのが妥当だ。近付いてくる者を警戒し、慎重に行動する。突如、背にナイフが当てられ携帯が鳴る。状況を見ていた大志は呟く。


「息子を囮にして対象に悟られない様に近づくとか、柳さんも本気だな」


「大志。はっきり言うと油断した鶇くんが悪い。少しずつヒントを与えながらここに来たが、彼が気付いたのは隆太に殺気を飛ばされた直後ぐらいだろう。それからは周囲をまんべんなく警戒していたが一般人になりすました柳の手によってワンキルだ」


話ながらも警戒をとかない要。護衛対象がスリーキルされると待っているのは地獄だ。訓練自体がきついのに更に追加訓練とか冗談ではない。


「相手の顔が分からないのは急襲する側には有利になるから仕方ないだろう。受ける方は全方位警戒しないといけないし部隊章は訓練期間中は外せないからな。」


「つけてないと警官に問答無用で職質されるんだっけ?」


「そうだ。管轄している警察署は毎年の事だから大丈夫だと思うが、念のためだ。」


「偽造される危険性はないの?」


「正式には存在していない部隊の物だし毎年、変えているから確率は低いだろう」


富士山の麓には、部隊章を着けた男達が待機していた。


「隊長達はあとどのくらいでつくんだろうか。誰か聞いているか」


誰も頷かない。時間まではまだあるが、早めに行動することが習慣となっている自衛官としては少し疑問に思う。


「異常事態が起こったのかも知れないが隊長がいれば大丈夫だろう。」


――――


「本部応答願います。」


滝本巡査は今年配属された新米警察官だ。ベテラン巡査部長は最初の銃撃で倒れている。既に止血用ナノマシンを投与しているが、処置までに流した血は戻って来ない。


「こちら本部。静岡〇一何が起きた。」


「所属不明勢力から銃撃を受け、巡査部長が負傷。直ちに応援と救急車の手配を要請します」


「本部了解。静岡〇一には、現場待機を命ずる」


パトカーから発信する信号が正確な位置を教えてくれる。指令本部は警察庁に報告し、対応を問う。十分くらい経っているが、進展はない。救急車では間に合わないと判断した消防は、ドクターヘリの手配を済ませ現場に急行させている。静岡県警の幹部は訓練を予定している自衛隊特殊部隊の存在を思いだし、防衛省に問い合わせる。


「大臣。静岡県警から緊急通達が来ました。こちらの書類に目を通して下さい。」


国枝は顔をしかめる。


「道庁人質事件の後始末がまだ済んでいないのに次から次へと立て続けに事件が起こるとはな。」


「大臣。そう言う時勢なのでしょう。多くの火種を抱えながら今まで慎重に行動してきたに過ぎません。」


「それもそうだな。済まない。」


国枝は書類に目を通して、少しの間、思考のため身動き一つしない。


「大河に連絡をとるしかないだろうな。」


大臣室に備え付けられている暗号通信が可能な電話機をとる。


「大河。悪いが富士山の麓で事件が発生した。火器があることだし可能なら制圧して来てくれ。」


「国枝さん。またテロですか。大志と隆太がいるので普通一個小隊。派遣してくれませんか」


「分かった。ヤタガラスは一個分隊、追加で派遣する。それまでは普通科分隊を送る。手持ちの戦力で持ちこたえてくれ。」


合流していた訓練参加組は強制的に敵対勢力も分からないまま戦闘に入ることになる。


「椎名。来てくれ。」


「隊長なんですか。」


「現時点にとどまり隆太と大志を護衛してくれ。」


防弾盾に身を隠しながら、現状の認識を確認する。作戦が立案され、装備品の最終チェックに入る。


「椎名。引き渡しの際には必ず連絡を入れろ。敵勢力に渡したとなっては話にならん。国枝さんを通じて確認を取る」


「了解。合流はどうしますか。」


「発信信号を元に来てくれば良い。誤射を避ける為に近くになったら一度、連絡をいれろ」


慌ただしそうに準備に取り掛かる自衛官達。出撃は近くスナイパーライフルを持って来なかった事を後悔するが、アサルトライフルだけでも持ってきていた事に無理矢理でも持たされて来て良かったと考える大河。一人に対して一挺あり弾薬も数回の戦闘であれば耐えられるくらいには予備がある。


「鶇くんには済まないが君には私の指揮下に入ってもらう。実践は初めてかも知れないが、ヤタガラスに所属する者は歴戦の兵士ばかりだ。分隊長の柳をつけるから指示にしたがってくれ」


「はっ。了解しました。柳分隊長、指揮の下、作戦行動に入ります。」


命令を復唱して敬礼する鶇。実践経験はなくても銃は二年も触っていれば慣れるものである。十八歳で射撃訓練が始まるが狙撃兵(スナイパー)に推薦されるほどの腕前だ。急襲班の援護射撃ぐらいならこなせるだろうとの判断だ。ヤタガラス隊の全員がスナイパーとしての役割を果たせる位の実力を持っているが、要が抜けた穴は大きい。要の後継者として経験を積ましたいと考えており、ヤタガラスは鶇を取る気だ。


三幕の力関係もあり、実現も不可能ではないが、結局の所は本人に決定させる事になった。柊は機甲部隊にも対物狙撃銃を扱える者がいれば安全性が増すとの考えの元、鶇を取るつもりで木野家の持っている権力も魅力的であることは否定できない事実ではあるが個人として鶇を部隊に欲しがった。


「作戦開始だ。柳は部隊を率いて威力偵察だ。拘束出来るのが一番だが無理なら確実に戦闘不能にしろ。」


「了解。」


この場には大河を指揮官とする本隊が残る。大志と隆太を除いて十五名しかいないが、中隊規模出なければ足止め位は出来る。全員を生きたまま確保するとなると難易度は上がるが無理なものはヤタガラスであっても不可能だ。向こうも銃を撃って来ている以上は撃たれることを覚悟しているだろう。


銃を持たない者を射殺したとなれば問題になるだろうが今回はあてはまらない。自衛官となった者には、人を殺害する覚悟を持つ必要がある。警察官にも同じ事が言えるが、対象を逮捕するのと制圧するのとでは意味が異なる。


警察の手に負えない場合、自衛隊に出動命令が下るためだ。通常時には警察権を持たない自衛官では、不審者に対する職務質問すら違法行為になる。


MUCDは軍用の者ではなく、一般人が持つスペックとほぼ同機能ぐらいのものでしかない。椎名は機械オタクで自分用にカスタマイズしているとはいえ本格的な能力を持つクラッカーがハッキングを仕掛ければデータを抜かれる恐れがあるためVRインプラントを使用する。


「こちら柳。指定位置へ向かっていますが、今のところ襲撃はありません」


「引き続き警戒に当たれ。」


大河はギフトを発現させ見える範囲では、脅威がないことは確認済みである。身体強化と併用することでアマゾンの部族もびっくりの視野を持つ。臨時指揮所として椎名の車を使用している。クラス三の銃弾に耐えられるのは椎名の車しかなかった。


破損したら命を護ってくれた代償として新車くらいプレゼントするつもりだ。そのくらいの蓄えはあるし普段まったくといって良いほど質素な生活をしているので何の問題もない。


「こちら柳。武装勢力を確認しました。二十名ほどではありますが、兵士としての経験があるものは数名だと考えられます。」


「分かった。可能なら制圧しても良いが無理だけはするな。」


「了解」


柳は鶇にバックアップを命じて作戦を練る。確実性がないまま攻撃するのは愚かだ。周辺の波長を確認したが敵勢力はGIDを使用しているみたいだ。山中なので設置型ではないはずだ。電源を確保できない状態で電池残量を減らす行為は如何なものかと思うが、戦闘経験が浅い者は安心を求めて使用していると柳は推測した。


無論、罠だという可能性は残る。命がかかっている以上は迂濶なことは避けるべきだ。対象を殺害する事には躊躇しない柳だが、任官したばかりの鶇がいる場所で凄惨な事をなるべくであれば見せたくないと思う。


柳のギフト【見切り】は近距離戦において無類の強さを誇るが、視認できないものには効力を発揮することは難しい。柳が愛用している特注の刀は隊舎に置いたままで訓練用に刃を潰した刀しかない。打撃武器としては有効ではあるが、決定打には欠ける。


「全員。注目」


「柳分隊に所属している奴は分かっているとは思うが、油断はするな。鶇くんは後方支援。残りは俺についてこい」


これから殺し合いが始まると言うのに柳達は至って冷静だ。それもそのはずである。相手は拳銃くらいの装備しかなく、殆んどの者が警戒するに値しない。厄介なギフト所有者がいないとも限らないが可能性は低い。


「自衛の為の発砲しか認めない。非殺傷兵器で戦闘能力を奪え」


命令を受けて直ぐに行動する自衛官たち。日頃の訓練の賜物か動きに無駄がない。


制圧(クリア)


完全に制圧したが、予想とは外れ何人かを取り逃がした。


「隊長に報告。県警に人員を送って貰え」


「分隊長」


柳は油断していた訳ではないが、気を失っていたはずの人物が放った一撃が肩を掠めていく。


「気をつけろ。こいつは俺が相手をする。他の奴は拘束しろ」


命令に従い、GID錠をかけていく。縛っておきたい所だが時間がないため増援が来るのを待つ。


柳は人形使い(ドールマスター)と呼ばれるテロリストが日本に密入国している可能性があり、公安の刑事と共に調査をしていた。林檎誘拐事件にも関与していた可能性が指摘されており、人間の意識を奪い、人形の様に操る事からつけられた字だ。


「厄介な相手が出てきたものだな」


GID錠がかけられギフトは封じている。既に関節を数ヵ所外し、本来であれば動くだけで痛みが伴うはずだった。


「痛覚を無視させられているのかも知れないな。操られた一般人である可能性が高く、出来ることなら拘束したいが無理かも知れんな」


「脅威度の高い奴から戦闘能力を奪え、ドールマスターに操られている可能性が高い。一度、撤退するぞ」


やることが決まれば、後は実行に移すだけである。鶇は緊張から視野が狭くなっていたが、後方にいたことで操られた人間が柳達に向かって何かを投げつけようとしているのが見えた。柳分隊の一人が警告を発しようとするが間に合わない。


「グレネー・・・」


いち早く反応した鶇は手にしたアサルトライフルで投げようとしている男の右手を撃ち抜いた。遮蔽物は多いが距離は近く風のない状況では訓練された者であれば自然に体が反応してしまうレベルで行動できる。


「よくやった。今度こそ撤退だ。」


柳達は一度ひき相手の出方を伺うのであった。


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