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一話

入学式も無事に終わり大志は教室へと移動していた。ギフトホルダーの数が少ないため三十名の二クラス制だ。要に促されて出席番号順に自己紹介をしていく。


内容は名前と好きなものぐらいだ。ギフトホルダーは国に登録義務があるが他のホルダーに対して情報を漏らすことは軍務につかないものでも致命的になりかねないので他人に漏らさないのが一般的だ。小さな子供とはいえ各家庭で一般常識となりつつあり親が子のギフトを知っていても外部に漏らすことはない。ギフトホルダーが確認されるようになってから日本で制定された【才能保持者保護法】で決まっている。


当初は突如めざめたギフトを悪用し犯罪に走るものがいたが正義感あるものの協力により司法機関に引き渡された。ギフトを犯罪に悪用した場合、通常の犯罪より罪が重くなる傾向があるのはこうした過去を戒める意味合いが強いといえた。


大志も無事に自己紹介を終え次の者の紹介に移った。教師だけではなく生徒も親である大河を尊敬するものは多い。さまざまな紛争地域へ自部隊を率いて赴き人道支援をしてきたのは一度きりのことではないし大河がいるからこそ周囲の敵性勢力・敵性国家は日本をテロの対象としない。迅速な行動、自己のギフトを使いこなし優秀な部下を持つ指揮官がいる国をわざわざ攻めようとはしないのが普通だ。大河が有名なだけならまだ良いが今日の入学式に参加していた母の楓も脳科学の研究をしておりギフトの解明に努め、保存されていた隕石に含まれている物質から脳が変化しもたらされた能力がギフトであることを突き止めた。


この研究は外部には発表されていない。当時たまたま近くに自衛隊を派遣していた日本が得た隕石の一部を流用して得た研究成果であり、米国・ロシア・中国なども同じ研究をしている可能性があり同様の結果にたどり着いていると考えられているが国防にも密接なギフト能力の情報を他国へと漏らすわけがない。今はギフト保持者同士が結婚し子を成すことで、高確率でギフトホルダーが生まれることも分かってきているがそれを解明したのは楓が所属する【才能研究機関】の同僚であり遺伝子を専門に研究している科学者である。


楓が有名なのは製薬会社の研究員として開発した薬が頭部に外傷を負い神経が切れてしまい後遺症に悩ませられるもの達を救う特効薬となったからだ。まだ正式に発表されておらず今後も発表される予定のない【記憶忘却薬】も楓の功績となっている。薬の量を調整することで前後一週間以内の記憶を奪うことができる薬だ。一般向けにはPTSDの特効薬として開発され、裏では守秘義務を守るためにも研究・開発された薬である。シナプスに作用し記憶にとどめることを阻害する薬で才能研究機関の研究員は所属が他人にばれたときに使用するため所持を義務付けられている。拷問やギフトにより研究内容を他国のものが奪おうとしても物理的に消してしまえば奪うこと自体ができなくなるわけだ。

大志の事を両親の七光によって入学したと思い込んでいるのは出席番号が大志の一つ後ろの佐竹彰(さたけあきら)だ。ダブルホルダーということもあって将来を期待されてはいるものの性格がどうしようもない。自分が他人より優れており、自分より下の人間に敬意を払う必要がないと考えている節すらある。自分の能力に向いている自衛隊への入隊を望んでおり、大志が大河の息子だと知ると途端に攻撃的になった。


彰は確かに才能にあふれる少年であることには間違いない。ギフトによる【身体強化】は、既にかなりのものだし実弾が撃てる年齢ではないため実感をもってはいないが【射撃】の能力も成長すれば兵士として戦場で生き残ることは可能だろう。ただ能力はともかく兵士止まりなのは、他者を見下す性格によるものだ。


対して大志はこのまま順調に進めば優秀な指揮官になることも不可能ではない。ギフトによるものだが陸自レンジャーでも空自パイロットでも海自艦長でも選びたい放題だ。彰が持っている射撃も優秀なものではあるが目視できるものにしか効果がなく、歩兵として活躍することが限度だろう。現代戦での肉弾戦でも実践を経験してきた大河を始めとする陸上自衛官により鍛えられているため八歳ながらギフトを持たない暴漢なら撃退できるぐらいだ。


担任となった要も大志に戦闘技術を叩きこんでおり、それがある意味で普通になってしまっている大志にとって彰は敵ではない。英才教育はトリプルホルダーだと判明した六歳の頃から始まっており超能力開発幼年学校に大志が入りたがらず普通の生活を送りたいと考える様になった原因とも言えた。親に無理やり入れられた学校であるが大志は真面目な性格から自分の成績を維持しながら同級生に勉強を教えていた。


自衛隊に入ることはすでに覆しようがない事実だ。幾ら本人が望んだとしてもトリプルホルダーともなれば普通の生活を送れるはずがない。潜在的に敵は多く、ギフトを持たない普通の人からしてみれば自分にとって脅威になりうる存在が街中を普通に歩いているのだ。幼い頃には能力を抑える装置【GID】を身につけることを義務化しているが成人して能力が安定化し自制心があると認められたものは身につけていないことも多い。


なるべく敵は作らない方が良い。この学校には少なくない数の自衛隊に入隊するものがおり、この頃の人間関係が、入隊後の派閥関係になることも考えられると味方は多い方が良いのだ。優秀なものは特に自陣営に入れておいて損はない。父である大河もそうして要と出合っていることを考えると無駄ではない。自衛隊もギフトホルダーを国防のために欲しており自衛隊士官学校を卒業した時点で三等特尉として部隊内で経験を積ませる。表立っていないが大河が指揮官を務めているギフトホルダーのみの部隊【ヤタガラス】の次期指揮官として望まれる大志にとって重要なことだ。日本には大志以外のトリプルホルダーは二十人に満たない。ギフトは後天的に得ることもあるがダブルホルダーがトリプルホルダーになることはまずないと言って良い確率らしいので内定しているようなものである。


大志の身柄は国がSPを配置して護っている。トリプルホルダーに対しての義務で成人して能力・人格的に問題がないと国が判断しない限りは解かれることはない。移動に特化したギフトホルダーが就任することが多いが基本的に寮暮らしとなる為、要がいれば十分だと判断された。


学校内に配置された警察官・自衛隊員は有事の際には要の指揮下に置かれる。ダブルホルダーにも一定の配慮はされるが優先されるのはやはり稀少なトリプルホルダーとなる。


順調に味方を増やしていく大志に対して、彰は常に大志の次のニ位ということに不満をもっており、戦闘に向いているギフトホルダーを集めて襲撃する計画を練っているほどでどうしようもなかった。その機会は体育の時間に訪れた潜在的な危険を併せ持つギフトホルダーには幼年学校で護身術を習得することが義務付けられている。ギフトによって護身方法も異なるためグループ分けが成される。


彰は村中烈音むらなかれおん鶴若小次郎つるわかこじろう河石心愛かわいしここのなどと仲良くなり派閥を作ろうとしていたが、結局のところこの三人も他の人に相手にされずに彰がダブルホルダーということがあって表面上ついてきているコバンザメにしか過ぎない。利害があっていればいくらでも協力できるが自分の利益に反したらすぐ相手を裏切る。彰もそんなことは百も承知していたが、彼らを利用しつくしたらスケープゴートにする予定だったので問題がなかった。


八歳と若いだけあって考え方が甘い。ギフトホルダーは先天的に大脳の一部が肥大化して知能の発達も早い。だが所詮は小学生ぐらいの年齢で適切な判断ができるわけもなく、担任である要には見抜かれていた。自衛官は今でも男性の比率が高く優秀な女性隊員がいない訳ではないが男社会な事は間違いない。


体力を余らしている男は直に争う。入隊直後では訓練で余力が残るような鍛え方を教官はしないが、一年もすると訓練自体が普通にこなせるようになる。余った力を趣味で解消すれば良いが暴力に走るものもいる。二十一世紀でも徴兵制がある国や軍隊・警察などでは暴行死・いじめによる自殺などは発表されていないだけで普通に起こっていることなのだ。


問題が深刻化する前に解決するのが要の役目であり暴走するギフトホルダーを出さないようにすることがこの学校の責務であるので要は頭を悩ませることになる。


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