四十三話
初めてブループラネットに接続したとき大志は驚きを隠すことができなかった。この世界は現実世界と遜色がなく知らない者からしてみたら見た目だけでは判断できないだろう。それもその筈であるここは現在においても最新の技術が使われ構築された世界で視覚はもとより聴覚・味覚でさえ完璧に近い再現が行われている。
基幹システムを作った人間は本物の天才でどの様にして壮大なこの世界を創り上げたのかは謎である。原理は分かっていなくても身近に使われているものなど幾らでもあるがここまで制作過程・技術を産み出した人物の頭の中身を覗いてみたくなるのは仕方のないことだ。ブループラネットでは種族を選ぶことが出来るが人種を選ぶことにした。惑星も数百ある中から地球を選択しプレイすることにした。現実に同期した世界を歩んでいるがこの世界には既に日本はない。それどころかアメリカ・ロシア・中国もない。あるのは惑星最大規模を誇る有名ギルド【ミテネ連邦】が地球を実効支配している。
惑星の支配権は各ギルドが握っており、様々な権益をギルドにもたらしてくれるが、どの惑星でも共通通貨であるイェンしか使用することが出来ない。由来は考えるまでもなく日本通貨の円から来ている。日本が初めてリリースされ全体の比率から見てもトッププレイヤーが多い日本だが、プレイヤー人口が少ないことと交渉下手なことからRMTで月に数十万円稼ぐプレイヤーは少なく副業だったり、企業広告として使われる場となっている。
惑星の支配は新たにすることは難しい現状でいまある星の資源をやりくりして他ギルドから奪うしかなくなっている。防衛する側のギルドからしてみれば自分達が開発してきた星をみすみす手放す訳がなく、侵略する側からしてみれば敵対関係にあるギルドでもない限りはリスクに対するリターンが割にあわない事も多いので大規模侵略は年に数度あれば良いというほどに落ち着いている。
大志は作成したアバターの確認を行い、ステータスのチェックを行う。出てくるのは単純にHPバーだけで詳しいステータスの確認は出来ない。職業欄も今は職に就いている訳でないので空欄だ。確認をしているとこのゲームを始める切っ掛けになった実継が携帯端末に連絡を寄越してきた。現実感を損なわないように腕時計タイプの投影機型である端末は実継の姿を写す。
「大志。無事にログインしたんだね。近くにいるはずだからこの辺りで一番高いビルの連邦府まで来てくれるか」
要件だけを伝えてすぐに通信を切ってしまう実継。苺もログインしているはずだが、VRゲームを殆んどしたことのない彼女は戸惑っているかもしれない。しょうがないのでダイブ前に交換していたフレンドリストから苺の通信端末を選択して落ち合うことにする。
「苺。実継から連絡が来たガイドカーソルに従って目的地まで自力できてくれ」
「分かったよ大志くん。」
多機能な通信端末は思考では動かすことが出来ないものの現実世界の物と操作方法は変わらないため苺でも扱うことが出来るはずなので目的地の連邦府に向かって歩き始める大志であった。現実時間で五分程の距離で目的地地に着く大志。実継は待ちきれなかった様子で大志に話しかけてくる。
「大志。遅いぞVRには慣れているんじゃなかったのか」
苦笑しつつも律儀に答える大志。
「母さんの方針でVRインプラントは使っても良いことになっているんだけどゲームは禁止されてたんだ。俺にとっても遊ぶ目的でインしたのは初めてだよ」
その言葉に驚きを隠せない実継。
「楓さんて複合企業の研究者でこのゲームの出資会社のひとつだよね。息子をログインさせない何て心配症過ぎないか。」
実継が言っていることは最もで表向きは倉橋家が運営している企業の株式の数%を国が所有し、ブループラネットに限らず少なくない金額を日本政府はつぎ込んでいた。公平性を保つためにRMTを認めているゲームは常任理事国により管理され現実世界に悪影響を及ぼさないため経済学者による管理を行っている。一円=百イェンなので現実世界に与える影響は少ないし、VR上の争いには国際法が適応されるため個人間の問題に国が介入することはまずないと言って良い状況と言える。
「確かに家の経営している会社が出資しているけど全体からみれば微々たるものだよ。人気ソフトだからコネを使っても手に入れることはできなかっただろうし、父さんも母さんも経営には関わっていないから無関心に近かったよ」
「それもそうか。大河さんは元々、自衛官を目指してたと聞いているし、楓さんは研究一筋っていう感じだな」
特に用事もないはずなのにあっさりと見学許可がおり息子に会いに来てしまう行動力に頭痛がしてしまう大志。チーム対抗戦の景品としてソフトを手に入れた三人であったがVR機は小学生が買える程まだ安くはない。VRインプラントには対応していないため機械を購入する必要があったがソフトを手に入れたことを知った祖父の源三が三人にプレゼントしてくれたのだ。苺が誘拐された訳ではないが、気分転換に必要だと考え木野家に見舞い品として贈った。毎回、通院することも不可能ではないが苺も林檎、同様にカウンセリングを受けなくてはならない立場なので疑問を持たれることはない。実継には父親からのプレゼントという扱いになっているが、自衛隊士官学校に入隊するためにはVR訓練は有効な手段なので優勝祝いとして贈ったことにしている。
大河も良く要と一緒にVRゲームで遊んだものだ。若い者たちには訓練よりも楽しんで経験を積む事が出来るゲームのほうが良いのである。楓が許可しなかったように弊害はあるがそれは大人が上手くコントロールすれば良いだけだ。小学生の頃からVR機器に慣れておくことは決して悪いことではない。流石にリアルに人殺しをすることを出来なくするために年齢に応じた制限はつけられている。現実世界とゲーム世界を分けるために犯罪行為は即NPCによる強制連行が待っている。
物理攻撃は有効であるものの一般人であれば抵抗できるものではない。ハラスメント行為にも容赦はなく最悪の場合は銃殺と言う名の制裁が待っている。デスペナは重く怪我を負ったことによる行動制限と治療費と言う名の罰金付きである無論、悪質と判断された場合には垢BANも容赦なく行われる。
「それにしても苺はまだこないのかな」
二人が合流してから既に十分程が経っており無駄に目立つ建物である連邦府にたどり着けない筈がない。一方、苺は迷っていた。でかい建物があるのは分かっているがこのあたりは道が入り組んでおり、道に詳しくない初心者だと迷う者も少なくない。現実世界であれば大志か実継にテレパスを飛ばせばよいがブループラネット内ではスキルとして習得しない限りは扱うことはできない。そのスキルを得るチュートリアルが行われるのが、連邦府なのだがそこにたどり着けないのは単に苺が方向音痴というだけではなくVRにフルダイブしたのが今回が初めてだったというだけだ。
迷っていても仕方がないので大志に連絡して迎えに来てもらうことにする。フレンド登録さえしていれば、同じ惑星内にいる場合に限り、お互いの所在を知ることができる。連絡を受けた大志は仕方がなく苺を迎えに行く。楓が出した条件の一つに苺と一緒にプレイをすることになっており、放課後の訓練がない時間帯に限り許されている。迎えにきてもらった苺はしょんぼりとしている。
個人戦では予選敗退。チーム戦で優勝できたのは大志と実継が優秀だったからで自分は偶々、二人とチームが組めたからだと自嘲しているからだ。通信機械を通じた連絡方法よりもテレパスを用いた方が、対抗戦では優位に働く。機械的な妨害が許されておりチーム単位で動くことを求められる場合において有効でギフトを無効化するGIDを扱える生徒はいない。自衛隊士官学校に所属し専門課程に進まない限りは詳しく構造を知ることはできない。国が専有して研究している分野であり、才能研究機関の人間でしか研究・開発ができないように国内法で制限されているためGID使用が制限される対抗戦においての苺の貢献度は少なくなかったにも関わらずだ。
苺の性格上しょうがない部分もあるが、テレパスは自衛官でなくても重宝される能力であり警察官や国家公務員としてメッセンジャーをすることも不可能ではない。木野家出身ともあれば海上自衛官としてもやっていくことは不可能ではないが気の弱い苺に自衛官が務まるとは周囲は考えておらず、本人の進みたい道へと進むことを両親は望んでいた。
苺の両親は、娘である林檎が誘拐されたことで政府に対しての不信感を抱いたが、国防に携わり最後まで国を思っていた祖父の意思を継ぎ林檎が自衛官になることを認めてくれた。国家賠償責任法により超能力開発幼年学校を相手取り訴訟することもできたがPTSDの可能性が残るとはいえ無事に林檎を取り戻してくれた倉橋家の貢献と中曽根を評価して政府の責任を追及しなかった。
林檎の検査結果が出るのはまだ先の事である。それまでは自衛隊士官学校への入学も不許可であり、国としては隔離もやむなしという最悪の結果が起こる可能性が残っている。そのときには木野家の対応はどうなるのかは分からないが下手をしたら国外へと移住する可能性もあり日本政府としては何としても阻止したいところである。合流した苺の機嫌は悪くなっている。また二人に迷惑をかけてしまったという思いが強いからだ。
「苺。気にしてないから機嫌直せよ。」
「そうだよ。木野さんは初めてならしょうがないよ。」
二人のフォローで少し持ち直す苺だが姉さんとの接触が禁止されて二週間近く経つことからゲームをしている場合ではないと考える一方で、楓や両親から気分転換のためプレイすることを厳命されていたため真面目な苺は逆らうこともできなく言われるがままにログインしていた。二人からゲームの内容を聞かされて自分はゲームをしたことがなく、不安に思うと同時に大志や実継と遊べることを楽しみにしていたので苺は誤魔化されることにした。あと少しして連邦府へと入りチュートリアルを受けることになる。




