四十一話
国連の壇上では日本の総理大臣である中曽根が日本のウロボロスにおける立場を主張していた。
「日本国民は今回のテロを許さない。テロリストにノーマルもギフトホルダーもない。日本の総理大臣として、宣言いたします。日本は対ウロボロス殲滅作戦を世界規模で行うことを」
「日本国民の生命の危機に立たされた時に日本に限らず世界に自衛隊を派遣できると日本国内法において明記されています。私は断言する。ウロボロスが主張するギフトホルダー優越種論などまやかしに過ぎないと」
常任理事国の中で既に議論され、日本の行動には各国は概ね好意的だ。真っ先にテロの標的となった米国を始めとして初期に非合法な人体実験を行っていた経緯もあって先進国でテロを受けていないのは日本ぐらいだったのだ。資金力・軍事力・技術力が揃った日本が参戦するとなるとゲリラ化しているウロボロスに一矢報いることは可能だろう。
世界中に派遣しているCIA職員も日本でウロボロスと思われる構成員が活動していたことを把握していたが日本に対して何の警告も行っていなかった。日本に拘束された元米兵の経歴を開示したくらいでアメリカは沖縄に派遣している在日米軍に被害が出たことで動揺し、日本に協力するどころの騒ぎではなかった。ブラウン大統領は折角、日本に恩を売る機会があったのに逃したことで秘書官を責めたが、秘書官からしてみれば予測できていないことに対して神でもない自分が対応することなどできるわけがないと考えていた。テロを受けて疲弊した日本に義援金が舞い込んでくる。
沖縄・北海道地震に対する義援金であり災害復興の為に使用されることになる。対外的には単なる地震として扱われ、混乱を避けるために北海道立てこもり事件・旭会襲撃事件は公表されたが、ギフトホルダーによって人為的に地震が起こされたという情報は秘匿されていた。ウロボロスの様な危険思想を持つものが弾劾されるのであれば良いが、良識を持つギフトホルダーがノーマルによって敵視され両者の対立が深まることを日本を始めとした各国は恐れたのである。
「日本のこの行動は自国の利益のみならず、世界の為になると確信しております。本来であれば戦争ではなく対話をしたいところでありますが、日本はテロリストとは一切交渉はしない。再三における対話要求をはねのけてきたウロボロスに対してこれ以上、日本は譲歩いたしません。以上が日本の今後の立場と主張となります」
白井が率いる白虎隊が半滅したが、中曽根としてはヤタガラス隊を道庁に派遣することも可能だった。距離的な問題から到着が遅れていただけであって白虎隊が突入する直後には道庁へ現着していた。指揮権を持っていた小隊長の三等特佐は現場指揮をしていると思わる警察官に現状を聞こうとしたが、既に突入後であり、できることはなかった。失敗したことを悟り、撤退した白井であったが、連絡を怠った警察幹部に対して批難することしかできなかった。
合同作戦でどちらが指揮権を持つかなど人質が危機に晒されている現況において些細なことだ。実践慣れしているヤタガラス隊員が突入するのであれば、白虎隊員はバックアップに回ることで人質に被害が出ることなく制圧できた可能性があるのだ。白井が拘束する際に犯人に向けて発砲したことは仕方がないことであり、警察官は少なくない被害を出した。命の危険に晒される警察官であっても人間だ。事件後はマスコミによる自衛隊・警察のバッシングが始まったが、有識者達はテロを憎むべきであって対応した政府や自衛隊・警察を責めるべきではないと反論した。
差別主義者であるコメンテーターのブログは炎上し、自宅には投石されるなどの被害を受けて警察に被害届を提出したが警察も検察も相手にしなかった。言動に出さなければどの様に思っていても罰せられることはない。しかし、社会的責任を持った大人が公に発言する際には気をつける必要があるのだと今回の事件で学んだだろう。国としては、北海道人質事件で亡くなった人に見舞い金を出したが、公務員である警察官の額は民間人に比べると低かったそうだ。警察の失態で人質が死亡したのに原因となった警察官の額が高いのは世間が納得しないだろうとの上層部の判断だ。
警察は総力を上げて白井を探したが、既に自宅を引き払っており、謹慎中ということもあって懲戒免職処分となった。白井は部下であった数人とアメリカでPMCを設立する。民間人でも銃を持てる社会だ。訓練された特殊部隊員である白井達、元警察官たちは次第にアメリカ政府の依頼を受けて中東で活躍するようになる。一応の解決となったテロ事件だが、旭会が日本の中で勢力を伸ばし始めているのは憂慮すべき事態であることは間違いない。
他国が日本が軍国化の道を辿るのではないかと戦々恐々としている。日本は手始めに、安全保障理事会へと問題提起をしており、只でさえ制限されているギフトホルダー達が反感を抱くのは仕方のない事ではあるが、ウロボロスの様な過激集団と同様に見られるのは心外である。
国際才能保持者人権団体(IGHHR)によって逆に日本へと攻撃の矛先が向かってしまっては意味がない。中曽根総理は常任理事国を始めとした国連参加国と議論の場を持ち話し合いで解決しようと努力するがテロリストに正論を振りかざしても意味がない。正義は立場によって変わるもので最終的に勝った方が生与奪権を持つのだ。歴史はそうやって勝者側に都合が良い様に書き換えられる。
勝って初めて自分達の主張を押し付けられるのだ。敗者からしてみれば堪ったものではないがそういうものなのだから仕方がない。日本としてもギフトホルダーもノーマルもどちらかを優遇するのではなく、共存してこそより良い世界があると考えているが現実はそう甘くはない。事件後、警察庁長官と警視総監が引責辞任した。指揮をとった大河も退官しようとしたが、国防の要に今、辞められてしまうと他国に侵略されかねないとして留意した。中曽根は世論を味方につける為にウロボロスによるテロであることを公言した。
ウロボロス=ギフトホルダーが危険な存在だと誤認されないように公安が調査したものを情報公開法に基づいて提示したのだ。国力と密接な関係を持つギフトホルダーをどの国も手放せないだろう。日本では言論の自由が憲法で保障されているからと言って何でもかんでも発言するという訳にはいかない。
閣僚の中にもギフトホルダーを嫌う者はいるが排除したら問題が解決する訳でもないので長い時間をかけて意識改革をしていくしかないのが現状だ。思想教育は諸刃の剣であるが全くしないという事もできない。日本が共存できていたのも初期の頃から地道な努力を継続して国民の理解を得たからである。
アメリカは未だフロンティア精神が強く男は精強であることが求められる。そのためノーマルよりはギフトホルダーが優遇され差別意識の根源となる始末だ。豊かな生活を甘受してきた先進国の人間は気紛れに後進国へと支援して優越感を満たしている。
生活水準が以前に比べるとましになったとはいえ持たざる国家からしてみれば、豊富な資源を消費しながらではあるが、自分達とは異なる生活をしているもの達を怨むのである。好き好んで戦争をしたがる首脳はいないが、やむ終えない場合もある。テロリストを殲滅しなくては国民はテロに怯えながら生活しなくてはならなく、これ以上の犠牲者が出ることは容認出来ない。
ギフトという特別な才能がなければもっと簡単に事は運んでいた可能性はあるが無いものねだりをしていても解決するものではないのだ。地道な調査を続け国際社会の共通の敵として認識し、早めに壊滅させることでしか平穏は訪れることはない。テロによって亡くなった人もテロリストが平然と生活しているとあっては成仏できないだろう。
日本政府としてはここで断固とした姿をテロリストであるウロボロスに示す必要がある。いつまでも大人しくテロの標的になっているだけの国ではいいように扱われるだけだし、そんな隙を見せていれば他国にも侵略される事になる。
軍事力と経済力この二つの力があったからこそ日本は常任理事国入りすることができたのだ。そして第三次世界大戦が起きない様に他の理事国を監視してきた。相変わらずアメリカは世界の警察を気取り中国は大国意識から抜け出すことが出来ていない。ロシアは軍事力を背景にやりたい放題となっている。
利害が一致すれば大きな力となる国連だが常任理事国の一つ国が拒否権を発動させるだけで簡単に烏合の衆となってしまう。根回しは中曽根と雄三の仕事であり難色を示す国家は他の国からしてみればテロ支援国家であると認識されるため迂濶な事をする国はないと思いたい。
国連関係の調整でかなりの時間を浪費してしまったが、中曽根に休む暇はない。翌日に控えた道庁人質殺害事件の追悼式に出席しなくてはならない。テロを風化させない為に必要なことであり千年近くたった今でもアメリカ国民は三月十一日に起きたテロを忘れない。
当時の大統領が宗教的に対立していた国に介入しようとしていた矢先の事件だった。国防総省も同時にテロを受ける計画だったと知ってアメリカ国民は憤慨したものだ。親しいものが害されて喜ぶ者はいないから当然とも言えたが、どうにもならないことは存在する。平和を望んでいるはずなのに結果的には平和とは程遠い生活を行っている国など山程ある。
多くの課題を抱えながらそれでも人は前に進み続ける過去に戻る事など誰にも出来ないのだから当たり前と言ってしまえばそこまでだが、人間の業はどこまで他者を陥れたら満足するのだろうか。人は何処に向かっているのだろうか。その答えは誰も知らなかった。




