プロローグ
地球によく似た天体があった。その名前はブループラネット、この物語の舞台となる星の名前である。現代の地球と同じように発展してきたブループラネットであったが一九八九年に日本で元号が【正化】になったことで地球と袂を別つことになった。
千年あまりが経ち、西暦三〇〇〇年になったところでこの物語は始まる。日本、東京都で八歳になったばかりの少年がいた。周りには同じ年齢の男女が多くいるのにもかかわらず辺りは静けさで満ちていた。今日は超能力開発幼年学校の入学式であり親に無理やり受けさせられた倉橋大志も参加していた。
西暦二九〇〇年代に突如として北極に墜落した隕石が人類にギフトと呼ばれる才能を与えた。能力は様々で【鷹の眼】と呼ばれる遠くの物が良く見えるような能力もあれば【透視】、【未来予知】、【サイコキネシス】と言われるような超能力もあった。大国アメリカ、中国、ロシアなどは非合法な人体実験を行い軍事利用しようとしたが、他の国に止められた。その時の中核を成したのが日本であった。日本も二十三世紀には常任理事国入りを果たしアジアの経済大国としてその責務を果たした形となる。
二十一世紀に日本で騒がれていた少子高齢化、国債問題も解決の糸口を見つけていた。技術の発展に伴い癌は既に死病ではなく後期でも適切な処置をすれば完治する病となり、医療技術の発展から平均寿命も百十歳程になっていた。太古より為政者が求めてきた不死とはいかないものの再生治療の発展から四十代でも若い姿を保つことができていた。今でもある程度の金額がかかるため富裕層が行うことが多かったが中級層でも届かない金額ではない為それだけ技術が普及したということだろう。
日本は多くの資源をもつ国へとも変貌していた。昔から温泉などの水質資源が多く海に囲まれている島国である。地中深くからこれまで採取することができなかった稀少金属の採掘が可能となり、天然ガスも取れるようになったことから中国やロシアといった資源大国の外交上の優位が崩れることになったからである。戦勝国として国連でも拒否権を発動してきた中国・ロシアも日本に対して強硬姿勢をとりづらくなった。アメリカは相変わらず世界の警察として様々な国に軍隊を派遣してきたが、日本との日米地位協定の改定に伴い影響力を失いつつあった。
この時代では核一発より強力な一人の才能保持者の方が、軍事的価値が高いのである。日本は昔のようにアメリカの核の傘に守られているような軍事的弱小国家でなくなっていた。憲法改正により正式に自衛隊は軍事力として認められるようになったからだ。警察予備隊から始まり自衛隊になるまではあくまでも自衛力であり軍事力でないと国内にも国外にも解釈の違いによるいい訳をしてきたがそれも必要なくなった。流石に侵略戦争や非核三原則の部分は改正されなかった。
自立可能な資源と国土防衛のための軍事力ふたつが揃って初めてできた常任理事国入りであった。核一発より強力な才能保持者とされているのは前述の未来予知により発射しようとすれば逆に自国が核を打たれる可能性が高くなり日本の様に核を持たない国でも対空兵器の能力の向上により自国に被害が及ぼさない海上や宇宙空間での撃墜が可能となったからである。
核汚染も除染能力が向上したことにより数年で可能となり原発事故が起きてもチェルノブイリの様な何十年も人が住むことができないような土地になることを回避することができるようになった。多くの人が亡くなった首都直下型地震で起こった原発事故を解決するために日本で開発された技術であった。
話は入学式へと戻る。大志は学校のお偉いさんの話に退屈していた。ギフトを二つ持つダブルホルダーだけでもかなり珍しいのに大志はトリプルホルダーだったため自衛隊で陸将補の肩書をもつ親に強制的に学校に入れられ普通の学校で普通の人生を歩めれば良いと考えていた大志にとって誤算であり迷惑だった。しかも壇上で話しているのは父である大河だ。ダブルホルダーで【身体強化】と【鷹の眼】を持つ歴戦の勇士である。
紛争地域の人道的支援の際には当時一等特佐として部隊を率いて死者をゼロで部隊を無事に帰還させた。敵対勢力にも当然ギフトホルダーはいる。卑劣にも人体を改造し脳にマイクロチップを埋め込められ強制的に人間爆弾とされた市民もいた。そのなかでの死者ゼロは大河の評価を高め中規模・大規模戦闘の経験を積み今の肩書まで出世したのだ。
勿論、大河が指揮官として優秀なこともあったが部下も優秀であったことは間違いない。片目を負傷して自衛隊を辞めた仙崎要のギフトも関係していた。女性が得意としているマルチタスク機能が発展した能力【複数処理】を持ち大河を補佐した。時系列ごとの正確な情報は戦時には有効で事務処理に長けている要がいたことで大河の負担が減ったことも事実だ。要は片目の再生治療をして視力自体は取り戻したが軍務に就けるほどの回復ができなかったため超能力開発幼年学校の教師として赴任した。しかも大志の担任になっていることから大河に対しての学校の配慮が見受けられる。
国の事業として超能力開発幼年学校は運用されており様々な分野の先駆者が才能を開花した場所として知られている。大河もその一人であり幼年学校の卒業生は自衛隊士官学校へと進学する者も多く、将来の国防の要となりうる大志を他国から護るため要が派遣されたと言ってもよい。警察・自衛隊の両者により侵入者対策、敵性勢力・敵性国家、営利目的の誘拐から生徒の身を護るためにある。シングルホルダーは低レベルのギフトホルダーを含めて千人に一人の割合で誕生するがダブルホルダーとなると十万人に一人の割合で更にトリプルホルダーとなると一千万人に一人の確率となるからだ。
勿論、特化したギフトは例えシングルホルダーでもダブル・トリプルホルダーに勝利することはあるが保有ギフトが多いほど戦いに優位になることは間違いない。校長を初めとした退屈な話も終わり入学式は無事に終了する。超能力開発幼年学校に入学したことで大志の将来設計とは違う未来が訪れることになるがトリプルホルダーとしては仕方がないことなのかもしれなかった。