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三十五話

東京に拠点を置く男は同志からの報告に気分を高揚させていた。ウロボロス日本支部長の肩書きを持つ男は報告を待つだけのお飾りではない。幾つもの戦場を渡り歩きゲリラ兵として多国籍軍や米軍に少なくない被害を与えてきた。戦場で大河と戦ったことのある男は大河を侮るつもりは一切ない。大河の率いる部隊は精鋭だ。指揮や麾下の部隊が劣るとは思わないが目的を果たす為には不用意に戦力を失う訳にはいかないので慎重に事を運ぶ必要があった。数年単位で準備し、後は結果を出すだけである。組織内で自分の地位を確固たるものにするためにはしくじる訳にはいかない。


優越種たるギフトホルダーが劣等種であるノーマルを支配して何が悪いのだ。懐古主義者ともいえるギフトホルダー排斥派は暗殺を用いることで簡単に黙らせることが出来る融和派筆頭である日本を潰せばギフトホルダーによるギフトホルダーためだけの国を設立することは不可能ではない。


今は融和派の国力を削り、足場を作る時期だ。永くノーマルが支配してきた地球はウロボロスによって支配されるべきなのだ。そうすれば不当に扱われるギフトホルダーを助けることが出来る。男は呼吸をするのと同じように敵対する者を殺害することに容赦はしない。


ノーマルは自分達が不当に扱われているとほざいているが、黎明期にはどれ程の罪のないギフトホルダーが死んでいったのだろう。第一世代のギフトホルダーの殆どは既に亡くなっている。しかし虐げられた事実は子に伝わり、ギフトホルダーの中でノーマルとの楔になる。今回は日本を標的にしているが、世界各国でウロボロスの活動は確認されており、中国、アメリカ、ロシアといった先進国を始めとして標的になっている。


男は今回の作戦のため数年前から日本に居住している。能力のあるギフトホルダーは公ではギフトを発現することを制限され、緊急時のみしか使用を許可されていない。他の先進国での法整備を行いだいたいの国が同じような制度をとっているが中にはそうでない国もある。オイル資源によって裕福な生活を営んできた中東諸国であるが、有限であることから目を背けひたすら消費するだけの生活を行ってきたので今では生きて行くだけでも大変な社会となっており、それまで貯め込んでいたいた金融資産を売却して何とか生活しているに過ぎない。ギフト研究において後進国である中東は豊富な活動資金を持つウロボロスにとって住みやすい国である。王族を人質にとって組織の安全を確保している。


活動資金の多くは同志からの寄付金で賄われているが、PMCとして参加した戦争で稼がしてもらっている。アメリカは多くの国に戦争を仕掛け軍需経済に依存しているため止めることもできない。止めれば待っているのは国としての破産でありアメリカは国連の管理下に置かれることになるだろう。世界をリードしてきたと自負しているアメリカ国民にとって到底許せるものではなく他者の犠牲の上で生活をしている。


負の感情はその人間の内部でくすぶり、他者を蹴落とすことで解消される。運動をする事や趣味に没頭することで解消することが健全的ではあるが、時間にゆとりがない現代人は溜め込むことになる。精神感応系ギフトを使わなくてもいくらでも唆すことはできる。日本の内部に協力者を作ることは困難を極めた。道徳心が高く、溜め込んだ負の感情を爆発さて他者を傷つけるぐらいならと自殺する者が多いくらいの国民性である。夫は下げたくない頭でも家族の為に下げ、妻は家の事を管理する。男女平等が叫ばれ逆転している世帯も少なくはないがそれよりは共働きの方が多い。夫は会社でストレスを受け家庭では居場所がない。サービスエリアに車を停めて生活している帰宅拒否の者も少ないながら存在する。


男は北海道の作戦が成功したことを知ると沖縄にいる同志に連絡をとって次の作戦に移るよう指示を出す。ウロボロスが仕掛けたテロはまだ始まったばかりである。


――――


実継は何とか彰と小次郎を撒いて大志と苺との合流を急いでいた。体力の消耗もそうだが遠距離攻撃に晒され有効な反撃手段を持たないで戦闘を継続するのは神経を摩耗させる。集中力が切れれば実継の持ち味である思考が鈍り自分だけが結果を負う個人戦ならいいが二人に迷惑を掛けるわけにはいかず、とにかく生き残ることだけに力を注いだ。


一方、大志は空気の変化に気がついた。多くの人間が戦闘を行っているので不思議ではないが、ヤタガラス隊員との訓練中の様な殺気に近いものだ。超能力開発幼年学校に所属する一年生では大志以外にこのような雰囲気の変化を感じ取れるものは少ないが、警戒するに越したことはない。生徒の戦闘を見守り怪我をする前に試合を止める審判役の先生もどこか浮き足だっている感じだ。試合を止めないことから警戒を促しているだけで、決定的な何かが発見された訳ではないのだろう。侵入されたばかりで警戒が厳にされているところに再度侵入を試みるかは分からないが、犯人がどの様な思想を持って犯行に及んだかは得られた情報から推測することしかできず、中国も都合の良い様に踊らされたというのが日本政府の見解である。


先生達の動揺は生徒に伝わる。大志は何か良くないことが起きたことは察したが、要がシェルターへの移動を指示してこないことと父である大河が行動を起こしてないことを考えるとまだ様子見なのだろう。大志以外の生徒は目の前のチーム対抗戦に必死になっており気付く余裕がない状態だ。他のチームの攻撃を受けて大志にも余裕がある訳ではない。実力差があるとはいえ、多対一で生き残っているだけで飛び抜けた実力を持っていることは明白である。


ヤタガラス隊員との特訓は衛生兵(メディック)が傍に控えているため容赦がない。実力に合わせて調整をしているとはいえ訓練される方からしてみれば堪ったものではない。試合は四十分ほど経っておりすでに終盤へと差し向かっている。


殆んどチームは脱落し、チーム三人が生き残っているのは大志達だけだ。苺も大志と同様に体力を消費していたが、チームの足を引っ張りたくないと考えているのか大志達のペースに合わせて行動している。既に大志と苺は実継と合流しており、三人で行動している。今、無理をしても決勝戦で戦う力を残しておいた方が懸命なのでたのチームを倒しながら体力を温存している。


三人の前に現れたのは、指定チームである崇人のチームの強化系に属する生徒だ。三対一の状況で勝てないと悟った男子は逃げることを選択するが、彼もこれまでの戦闘で疲労していたため逃げ損なってしまう。チャンスだと悟った実継は前に出る。


相手がいくら戦闘系のギフトを有していてもこちらが圧倒的に優性なのだ。得られるポイントは確実に得ておいた方が良いという現状もあって容赦はしない。ルールに則った戦いである以上は問題ない。途中、崇人が合流して仕留めるこてはできなかったが、大志達は無事に決勝戦へ進む権利を手に入れるのであった。試合が終わった大志は気配を消していた要と合流する。


「要さん。何があったんですか?」


「大志。所属不明勢力から攻撃を受けている可能性がある。一般隊員が負傷した」


試合を止めなかったのは周囲への影響を考えてであり既にコードレッドが発令中で自衛隊関係者はピリピリしている。


「念のために周囲は警戒させている。有事特例で全ての自衛官・警察官には不審人物のに対するギフト使用許可も出ている。大志も念のためにこれを持っておけ。」 


渡されたのは軍用GIDとスタングレネードである。指向性を持つ軍用GIDは敵対するものにギフトを発現させないためのものでありレベル七以下であれば例え相手にギフトキャンセラーがいたとしても短時間は無効化できる。逃げるための時間を稼ぐためには十分な代物だ。


「試合自体を中止にすれば良いと思うけどできない理由は国民に公表できないからですか?」


「勿論だ。テロを受けたことはいずれ公表するだろうが、ノーマルとギフトホルダーの不和を招く様なことは簡単には表沙汰に出来る様な内容ではないだろう。」


「父さんは今なにをしてるの?」


「大河は情報収集と麾下の部隊に命令を出している最中だろう。今回の事件で大志に協力を仰ぐこともなくなんとかする能力ぐらいは自衛隊にもある。とにかく警戒だけは怠るな」


話は以上だと言わんばかりに自身もやることをなす為に行動する要。予想が外れていなければ相当厄介な事態になっているはずだ。ウロボロスの目的は各国でテロを起こしているものの明確なのはノーマルを排斥してギフトホルダーの住みやすい世の中を実現するために活動しているというだけだ。


宗教的対立は昔からよくありキリスト教徒とイスラム教徒は相容れない関係であることは今も変わらない。根の深い問題であるにプラスしてノーマルとギフトホルダーの対立は年々、深まるばかりだ。


遺伝子的に優れた人間を産み出す手段となりうるデザインベビーは先天性疾患が認められない限りは許可されていない。余計な問題を産み出す前に法規制されたのでマッドサイエンティストと呼ばれる様な科学者でない限りは、秘密裏に研究するものはいない。


ウロボロスがギフトホルダーを優越種とするのは単に能力が秀でているからだ。明確な力は人を従わせるだけの力を持つようになる。人が一人で生きられない以上は仕方がのないことで人が人を奴隷として使役してきた歴史からも誰にも否定は出来ないだろう。人より上に立ちたいという欲求があったからこそ人類は発展してきた。これからの行く末は神ではない人には予測はできない。ただ思うのはより良い社会になることを多くの人が望んでいるという事実だけであった。


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