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三十四話

田上は倒れている隊員の脈を確認する。出血量は多く、辺りは血が散乱しているが何とか脈は触れている。田上は無線にてコードレッド発令を要請する。


「本部。こちら田上。校内において負傷している隊員を発見。直ちに医療班の派遣と緊急事態宣言コードレッドの発令を要請する」


「こちら本部。了解。田上一等特尉には現場保持と周囲の警戒を命令する。」


田上は戦闘に向かないギフトホルダーではあるが、医療系に応用が利くギフトを有している。横浜においての中国人特殊部隊員が全滅していた現場に居合わせ現場検証と司法解剖に立ち会った。今回の傷は背後からの一撃であり、警戒心を抱いていない状態からの不意の一撃だと考えられた。警備において二人一組で動くことを徹底していたためもう一人の隊員がいないことに気付く。


IDからヤタガラスに所属するものではなく一般隊員ということは既に分かっている。特尉・特佐の階級章が付いていないのでギフトを有しないノーマルな隊員なのだろう。田上には気になっていることがあった。拿捕された特殊部隊員は全てギフトホルダーで殺されたのは特殊部隊もしくは非正規部隊に所属するとはいえ全員がノーマルであったことに、まだ生きている隊員の応急手当のため止血用ナノマシンを注入する。造血はできないのが難点で輸血する必要が出てくるが、校内に設置されている保健室には用意があるが今手元にはない。ギフトは強力な武器になる半面、諸刃の剣でもある。強大な力は人の手に余るものも多く、ホルダーによる事件は減少傾向にあるものの無くなることはないだろう。


連絡を受けた大河は部下に中曽根と国枝の保護を命令する。政府要人を危険に晒し続ける事は出来ず地下に設置されたシェルターはGID使用で外部からの攻撃には核を数発撃ちでも原型を残すことができるだけの強度を持つ。いざという時の為に食糧は数カ月分用意され、自家発電も可能な環境が設置されているため中で保護されている人間もストレスを感じにくい構造となっている。


試合中である大志をシェルターに移動するか判断が迷うところだが、周囲を混乱させないために会場に要を送り様子をみることにする。大河には日本をテロの標的にしても防ぐ自信はあったがいつも完璧に防げるというわけではない。東京に住んでいる大河が距離的な問題から後手に回ることも考えられる。三等特佐以上の指揮官に自部隊以外の臨時指揮権が与えられるのは、ギフトも重要だが、対ギフト仕様となっている現代兵器はノーマルでもギフトホルダーと対等に戦えるように設計されているためである。


ギフトホルダーは権限が一般の自衛官に比べて強いため昇進も最初に士官学校を卒業すると三等特尉となるが、その後は功績だけでは昇格しない。もし危険思想を持つギフトホルダーが暴走すれば、国家転覆とはならなくても損害は大きなものになることが避けられないからだ。


試合は順調に進み一年生の戦いは決着がつく頃あいとなっている。正確な情報がないまま対応せざるおえない日本政府は不利な状況へと追い込まれている。カウンターテロを得意とする大河率いるヤタガラスだが日本国内において同時多発的に行われたテロを完全に防ぐことができなかった。部外者が好き勝手いうことは簡単だが、神でもない大河からすれば予見はしていたが完全には防ぐことが出来なくて当たり前だった。


話は変わるが日本は地震大国である。幾つものプレート上に島国である日本はあり、一年で少なくない数の地震にあっている。例えば滅多に地震のない国で育ったのであれば震度三の地震でも驚愕することになるが日本では少し揺れたな位の感覚ではない。緊急地震速報などは地震の数秒前から数十秒前に報せてくれ、携帯会社と契約していれば勝手に送ってくれるシステムを採用している。


地震システムが今より正確な時代でなかった頃は地震を予知し、推測を外した地質学者が司法の手によって裁かれるということは多くも無かったが数例は確実にあった。プレートを人工的に刺激し、地震を誘発する兵器は戦略的には価値があるかもしれないが占領後や国際社会での立場を考えると使用は躊躇われるし技術的に不可能とは言わないが難しいだろう。


機械で出来ないのであれば人為的に起こす手段は限定され、その最たる物が超能力であるギフトだろう。ギフトホルダーを殺すのは優性種であると自負するウロボロスでも意見は割れるものであり実現の為には、最低でもギフトレベル八は必要になるだろう。


その条件に合うギフトホルダーがウロボロスに所属していたのは日本にとっても国際社会にとっても不運だろう。慎重に準備を重ね実現可能であると踏んだからこそのテロであり、全国に設置されている観測装置でも不測の事態としか判断されないと推測した上での同時多発テロだ。


先ず標的になったのは警備が比較的に薄い北海道からだ。震度五の地震が襲い負傷者が出る。津波は起こらないと公共放送が伝えるが、人々の不安を煽るにはこの位が丁度良い。数ヵ所で事故が起こり、辺りでは怒声が飛び交う。


治安維持の為と避難誘導の為に警察官が派遣される。地震が起きやすい日本とはいえ年に何回もあるほどの揺れではない。自衛隊も災害派遣の為に準備に追われる。道路が使用不可になればその先で孤立する人を助ける為にヘリによる荷物や人員の必要が出てくる可能性がある。


災害に対するノウハウは他国よりは多いとはいえ物的・人的被害をゼロにすることは不可能だ。防災意識は高く地震に耐えられるだけの建築構造をしているため最小限に抑えることが出来るというだけだ。自然災害は被害を抑える為に食料や災害に耐えられるだけの建物を建設し、警察や消防といった公務員がいざというときに迅速に行動できるよう対処するので精一杯というのが今の現状である。地質学者も不用意なギフトの使用は不測の事態を起こすとして警告を発している。自分以外のものを転移できるテレポーターはこの勧告に従って自粛している。


強い力は周囲に不和を招くことになるし、ギフトホルダーは才能保持者保護法で護られる代わりに力を制限されているのだ。ギフトを悪用しての犯罪の罪が重いのと制圧に特殊部隊が派遣されるのにはそういう理由がある。北海道に在中する部隊が異変を察知した地域住民の通報によって現場に赴いたが既に犯行後であり、犯人と思われる人物の痕跡を見つけることはできなかった。


情報は超能力管理局に通達されたが、局長は通達することが必要と知っていながら、混乱による情報の通達ミスであると誤魔化すことにしてわざと要に教えないようにしようとした。局長はノーマルでありギフトホルダーを毛嫌いしていた。旭会に属さないまでもギフトホルダーを嫌うノーマルはいる。


林檎誘拐事件で情報を秘匿されたことを根に持っているのであった。幼い頃から神童と呼ばれた彼は、ギフトを有していれば現在の地位より高かったはずだと考えている。競争社会で勝ち残って今の地位にいるが事務次官などの要職をギフトホルダーに独占されていることを憂いている。


単純に就任は実績をあげているものから順に昇進しているだけなのだが、彼は不満に思っている。局長がいくら秘匿しようとしていても臨時指揮所にいる自衛官から情報は知らされる。ギフトの力は強大であるため同じギフトホルダーか軍用GIDがないと捕縛出来ないだろう。


国際基準において八レベル以上のギフトホルダーを捉えるための常識であり八以上からは人外に近い扱いを受ける。大河も複合的に考えるとレベル九相当とされている。ギフトホルダーの数が少ないことに加えてギフトの全てが強力という訳でもないので現状として受け入れるしかない。


国があらゆる力を使えばギフトホルダーに何もさせずに殺害することも不可能ではないがそれはレベル七以下に限定されると言っても過言ではない。米国は当初ギフトホルダーを不当拘束して人体実験を行っていた。市民権や永住権を取得するために米軍に入隊することは珍しくなく難民を受け入れてきた米国は軍隊を維持するためにも必要なことだと考える者は少なくない。


銃社会なので一般人による乱射事件は後を絶たないし、白人による有色人種に対する差別も無くなることがなく現在に至っている。単一民族か多民族で国を構成しているかの違いでしかないが、日本人にも外国人を毛嫌いする人は多いのでその人を人種で捉えるか個人として捉えるかの違いでしかないだろう。


中曽根は先日の事件に加えて今回の騒動だ。無関係だと考えるのは不自然だと思っている。国民の血税を使用するため簡単に何度も危機管理室を立ち上げるのは普通の考えを持つ総理であれば自身の支持率を考えて躊躇うところだが中曽根は躊躇しなかった。


一つの決断が遅れれば多くの命が失われることもあるのだ。無能だと思われるのであれば、次の選挙で自陣営は大敗するだけで誰かが死ぬ訳ではない。野党には政権運営能力はない。外交ひとつとっても国同士に真の友好はない。あるのは単純な利害関係だけだろう。与党が政権を任されるのは、民意ということもあるが国民の信頼を裏切らないように活動してきた実績があるからだ。与党ということに胡座をかいていれば実現不可能なマニフェストを掲げた野党に議席を奪われるだけだ。


国民のことを思って行動するなら迷う必要がないのだ。高いカリスマ性を持ち必要な情報とそうでない情報の判断を即時に行い決断する。中曽根は実際に行動できる稀有な指導者でもあった。


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