表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/99

三十三話

自衛隊の幹部として警備を統括する立場にある大河は前日から嫌な予感がしていた。予知などが行えるギフトホルダーが感じる様な虫の報せというやつだろう。来賓には中曽根総理や国枝防衛大臣がいる。先日も侵入されたばかりで警備は増員されているとはいえヤタガラスは三個分隊しか、配備されていない。日本に対するテロに備えるため全ての戦力をこの場所に召集することが出来ず戦闘班である柳分隊に支援分隊を二つ用意した。


かねてからの知り合いである国枝には、防衛大臣権限で陸海空の自衛官をスクランブル待機させるよう命令を出して貰った。己の勘だけという不確かな情報のみだったが林檎が誘拐されたのは事実であり、何が起こっても不思議ではないと考えていた。元自衛官らしい合理的な考えであるが、李国家主席が何者かに利用されたように日本を良く思わない存在によって何かしらの損害を被る可能性は否定出来ない。柳が異常を察知したのも大河による訓辞があったおかげである。戦場に行ったことがあるものなら一度は嗅いだことのある死臭を感じとったのかも知れない。


柳は椎名に要人警護を任せ校内の警戒に当たっていた。中曽根や国枝にも当然、警護課によるSPがつくがノーマルであり、ギフトホルダーも数人いるが戦闘よりは逃げる事に特化しており、いざというときの盾としては心許ない。


柳はすれちがった保護者と思われる女性に違和感を感じた。どこがおかしいかと言われたら言葉では表せない様な小さな違和感だ。その女性がGIDを着用していたことは不思議ではないが、チーム対抗戦が行われている試合会場以外ではCGIDを持っている者以外はそもそもギフトを発現することが出来ない環境下に置かれている。


父兄でり警備でもある柳は銃と特殊警棒・GID拘束手錠を携帯している。公務であるため特化型CGIDと無線は私服の中に目立たないようにしている。普段から警備している学生に言われるならともかく確かにその女性は自分に対してお疲れ様ですと声をかけてきたのだ。昨日も私服で警備し来賓席にいたが、来賓客の全てが政府関係者であることは間違いないが、警察・自衛隊関係者とは限らない。ましては自分が来賓として招かれているのでなく、警備としているのを知っているような口ぶりだった。


詰問しようと声を掛けようとした柳であるが、その女性は既に視界から消えていた。


「本部。こちらは柳だ。職質を掛けようとしたが、女性には逃げられた。少しの違和感であるが警戒レベルの引き上げを要請する」


「こちら本部。要請を受理、直に本部まで出頭し報告せよ」


要は今日は自分の出番がないと考え、試合を観戦するつもりであった。大志の護衛官として常に監視下に置き端末によって所在地を確認していた。二日目のチーム対抗戦は一年生の試合が始まったばかりであり大志が試合中とあっては校内の監視システムが置いてある警備室にいるのが不測の事態に対応するために必要なことになる。


警備室に入室するためには権限コードが必要となり入退出はコンピュータ管理される。昨日から自衛隊による臨時指揮所となっており、警備情報が集約される。要が入室すると不安そうな表情で話しかけてくる隊員がいた。要が副官を務めていた頃から優秀なのだが自信がない部下であった男性だ。


「どうした?元自衛官とはいえ防衛機密には一切関知できないぞ。だが校内の警備に関しては自衛官より優先権がある話してみろ」


「はい。先程、柳一等特尉より通信がありました。不審者情報を得たとのことで警戒レベルをニに移行して警備隊に警戒を促しています。武術の達人である柳一等特尉の目を逃れられるとなると特殊系ギフトホルダーの可能性さえ出てきます。倉橋陸将補にも連絡済みですが何が起ころうとしているのでしょうか?」


要はあらゆる可能性について考える。先日の事件の関係者の可能性が高いが中国は日本に政治的弱みを握られたばかりであり、迂闊な行動は避けるだろう。となるとすれば中国人船長が証言した国籍不明の男が重要になってくる。


「情報が少なすぎて判断ができない。田上分隊の中に精神感応系ホルダーと情報処理系ホルダーが居るはずだ。直ちに招集をかけて事態の把握に努めさせるんだ」


そこに不審者情報を報告した柳が現れる。現役自衛官としてもはや生活の一部すらになっている敬礼を要に向けて行う。


「柳。敬礼は不要だ。もう自衛官ではないし、復隊することはありえない」


まだ引きずっているのかと考える柳であったが要の絶望が分からない訳ではない。戦場には理不尽が至るところにある寧ろ理不尽が横行しているところが、戦場といっても過言ではないだろう。


「確かにそうかもしれません。しかし自分にとって要さんは尊敬できる相手であり目標です。戦場は何が起きるかは分かりませんでした。同じ状況に置かれた時、少女を助けることができたのは僅かな者だけだと考えます」


苦笑する要。確かにギフトホルダーは稀有な才能を有しているとはいえ全てのことを見通せる訳ではない。人間である以上はできることも限られているのは仕方がないことだ。カウンセリングを受けたことで状況は良くはなっているが少女が死んだ日になるとやはり悪夢にうなされることになる。要ほどの実力者がテロリストになることを恐れて政府内部では精神病棟へと隔離する案が出されていたが、大河は決して認めなかった。大河は国を護ることに命を掛けた人間に対してそのような仕打ちを行うのであれば、国を捨てて海外に亡命するとまで言い切った。本当の意味で要の境遇を知ることは誰にもできなかったが、大河が国を捨てて亡命するとなると友好国であるアメリカになる可能性が高いがどれ程の賛同者が大河に付いていくかは見当もつかなかった。


技術流失も確かに大きな損害だが、人材という流出はそれ以上に日本を疲弊させる可能性があった。だから無許可離隊した要を大河が命令して行動したということにされたし、国枝も防衛大臣として反対しなかった。


「その話は取敢えずおいておこう。不審者情報について報告してくれ」


「はい。二十代後半から三十代前半の女性でGIDを着用していました。保護者とは思えず声を掛けようとしましたが、既に姿はありませんでした。【ダブル】若しくはそれに準ずる能力かと推察します」


ダブルは実に厄介なギフトである。操作に意識を集中しないと行けないし、ダメージの何割かがフィードバッグすることに目をつむれば実際に潜入するよりかは、危険を減らす事が出来る。イメージ体であるため性別に拘らない姿をとることすら可能である。


「ダブルか。GID出力をあげることで工作を防ぐことはできるが出力を上げすぎると携帯用CGIDでは効果をなさない可能性がでてくるな」


出力が上がればエネルギー消費も加速的に上がる。使用不可となった所を各個撃破などされようものなら目も当てられない状況になる。


「今日のギフトキャンセラーは四名か。倉橋陸将補に一名。中曽根総理と国枝大臣に一名で後はここに待機させるしかなくなるな。」


柳の言うことは最もであり、優先度から考えると仕方がないことだ。


「柳。一名テレポーターを大志につけてくれ。これは警備責任者としての要請と思ってくれていい」


瞬間的に発動させるテレポーターならCGIDのバッテリーを考えないで済む。要人用のシェルターに逃げ込みさえすれば、スクランブル発進した自衛隊がくるまでなら国が攻めて来ても持たせることは不可能ではない。とにかく被疑者を確保しないと始まらないので警戒するに越したことはないのだ。


「こちら本部。倉橋陸将補どうぞ。」


「倉橋だ。急を要する案件か?簡潔に報告せよ」


柳が見たとされる女性は観戦者リストに載っていなかった。柳も勘とはいえ些細なことに気を配れるからこそ。戦場で生き残れたのだ。大河は保護者たちに悟られないように厳命して学校の封鎖を行う。中曽根に事情を説明して警察を動かしてもらうことで実現した。ノーマルの隊員に火器装備させて学校周辺を包囲する。どの様な目的で侵入者が現れたのかはこの時点では何も分かっていないに等しかったができることをやらないのでは普段、高い給料を貰って部下に命令する立場にある大河にとって気の済むものではない。


今代はノーマルの陸将それを補佐する立場にある大河だが、陸自において殆どの者に対して指揮命令権を持つ。海自・空自だとしても統合作戦が行われない訳ではないし、PKO部隊として同じく派遣された経緯があることから大河に好意的なものも多い。それは能力もあり人柄が良いということもあるのだろう。直接の部下であるヤタガラス隊員以外にも大河は積極的に相談に乗っている。恋人が欲しいが出会いがない者たちの為に広報課に連絡をつけてお見合いパーティを開いたこともある。公費において開催されるのは違法となるので全ては大河のポケットマネーから出ている。


社交界においても一軍人として政治的な意見を述べることはなかったが、源三の後を継いでいたら確実に国会議員として国政に携わっていたであろう能力は自衛隊内において渉外に使われている。戦力として国が一番失いたくないのは大河であるが同じく中曽根も日本の内閣総理大臣として国際社会において重要な地位を占めている。エネルギー分野において日本は無視できない存在となっており、技術力を活かして地球外に進出することも今すぐは無理だが時が来れば可能となる。ギフトホルダーにしてみれば、ギフトを使用制限する様な法律が多いが余計な軋轢を生まない為であり、人権という意味では不当に扱われることはない。先進国において日本は治安が良いという安全神話が信じられているのには理由があるということだ。


校内を人海戦術で探索していく自衛官たちは二人一組で行動し、片方には必ずギフトホルダーが居る。部下を持つ田上竜平一等特尉が見つけたのは血まみれになって倒れる一般隊員の姿であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ