三十一話
大会二日目
個人戦とは異なり、学年ごとに行われるチーム戦は個人の能力よりは総合力が試される。フィールドを指定され、敵チームを倒すと得点を得る。チームは三人を定員とすること以外には制限は特になく、試合ごとにリーダーを変えることも可能となっている。
大志・実継・苺はチーム登録をしてからコンビネーション訓練を重ねてきた。訓練教官の資格を持つ要は大会期間の一カ月前から業務の合間をみて生徒のために体育館を開放していた。希望する生徒がいればコネを使って訓練教官の資格を持つ自衛官や警察官など多くの公務員を講師として招いた。内閣府超能力管理局次長の肩書を持つ要であったがやはり古巣である陸自から招かれるものが多く戦闘に特化したギフトホルダーや精神感応系やギフトキャンセラーなどの特異系にあたるホルダーなどが集まった。中には時任の教え子もいる。厳密にいえば要自身がそうだし、大河やそれ以降のギフトホルダーは少なくとも彼女の恩恵を受けている。
強かったということもそうだが、暴走したギフトホルダーによる同級生殺害事件を受けてギフトホルダーに対する批判は強まった。感染病患者に行ったようにギフトホルダーをノーマルから隔離するべきだと言う考えはこの事件が起こる前からあり、多くのギフトホルダーがレベルに関わらず能力を隠した理由にもなっている。当時の時任は事件の被害者として偏見と闘った。ノーマルとギフトホルダーが共存しているのは第二世代の時任たちが尽力したからでもある。
一年生では十チームが今回参加する。戦闘に自信がない生徒は参加表明をしないことが多く、参加率は半数ぐらいになるのが通年だ。彰は烈音と小次郎とで参加しており、戦闘系二、操作系一となっている。崇人も実継に断られたが、気にした様子はなく、クラスメイトの二名とでチームを組んだ。彰に片思いをしている心愛は苺の友達である陽菜ともう一人女子を誘ってチームを組んでいた。一年生では大体がその時の交友関係でチームを組むことが多々あり、戦闘能力はチームによって異なる。
試合は制限時間が最大一時間でプロテクターの着用を義務付けているほか、ギフトも殺傷レベルが低いものに関してのみ使用が許可されているのだ。全てのチームが同時に戦闘開始となるため指定相手のチームとは別のチームにも警戒しなくてはならない。指定チームでなくても自チーム以外のものを倒すと得点を得ることができる。ここで注意が必要になるのはチームリーダーを倒すと無条件で三点がつく。更にそれが指定されたチームリーダーの場合、指定加点の五点がつくことになる。チームリーダーに指定されていない場合でも指定チームだと二点、それ以外だと一点つく。戦闘終了時にポイントが多かった三チームが決勝戦への参加権を得ることができるようになる。
いかに自分のチームの指定相手となる相手を倒し、チームメイトが倒されないようにするかが予選であるバトルロワイヤルで生き残るために重要な要素を占める。やみくもに倒して行くことでも決勝戦へ進出できる可能性はあるが、確実に残る為には、考えて敵を倒していく必要がある。バトルロワイヤルを時任が楽しむために更に変則ルールがある。チームバランスを公平にするため、昨日の個人戦で三回戦に出場した大志を倒すと加点五点、二回戦に出場した崇人と実継を倒すと三点が加点される。そうなれば他のチームは勝てる可能性が出てくる。狙われる側とすれば行動が制限され実力者だけでチームを構成していたら下手したら全てのチームから集中攻撃を受ける可能性すらある。
優勝した隆太を唯一苦戦させた大志をもっと高得点にしても良かったが、バランスが崩れ過ぎても時任が楽しめなくなるので工夫はされている。ギフト発現可、個人戦と同様にギフト発現を補助する機械も持ち込みが可能となっている。実継は自分用に設定したMUCDの持ち込みをし、小次郎はカスタマイズしたラジコン飛行機を持ち込んだ。このラジコン飛行機での攻撃も当然認められておりライフゲージをゼロにすれば小次郎の得点となる。
九時からと少し早いが一年生から順次試合が始まる校舎さまざまな場所に仕掛けられた監視カメラが戦闘状況を教えてくれる。試合を行っていない生徒はこの映像を見ることで、試合を楽しむのだ。怪我をしないため教員がプロテクターの状況を一人ずつ確認していく。問題がないことが確認されたので遂にバトルロワイヤルが開始される。
チーム戦では全員が別の地点からの行動となり、早期に合流してチーム行動を行う方が決勝戦に進める可能性は高くなる。苺はテレパスのギフトを持つ。二人に合流地点を伝えれば容易に合流することができる。苺のレベルだとまだ一方的な通信しかできないが今はそれで十分である。
実継は予め決めていた通りにMUCDから通信機を妨害する電波を出す。これで通常の無線による通信は不可能となったはずだ。元々、作戦に組み込まれていたことなので、大志と苺は集合地点に向かっているだろう。
苺は戦闘能力が低いので、合流するまでは敵から隠れることを大志から指示されていた。そうでないと直ぐに戦闘不能扱いになってしまい役に立てないと自分を責めてしまう性格だからだ。自信をなかなか持てない者は実績を積ませることでしか成長しない。
根拠のない自信を持っている者も厄介だが、自信が無さ過ぎるのもまた問題である。親友の陽菜は格闘技に関してはそこそこの才能が苺に眠っていると考えている。でなければ合気道を習っているとは聞かされていたがあそこまで上手く力を受け流せない。
ただ単純に苺は無意識下においてギフトを発現しているに過ぎないが本人はおろか才能研究機関が実施する検査にも引っ掛からないレベルなので、苺に合気道を教えている海自女性隊員も相手の呼吸を読むのが上手いくらいにか思っていなかった。
精神感応系のダブルホルダーは存在しているものの稀少価値がある。中国船の船長が自白したのも同じテレパスとサイコメトラーのダブルホルダーが尋問官としてやって来たからである。同じ精神感応系はサイコメトラーに対して耐性を持つものだが、二つのギフトが相乗効果を産みだし障壁を突破して心を読みやすくしてくれるのだ。
国際基準に乗っとれば未だにシングルホルダーの苺が相手の攻撃を多少なりとも防げるのには、そういう理由があった。機械的に心理障壁を構築することを義務付けられている政府要人の心を覗くにはシングルホルダーだと不可能に近いのに対して、ダブルホルダーの場合には保持者の実力次第では丸裸にできる。
精神感応系のギフトホルダーが敬遠されるのはそういう理由があり、悪用は他の能力に比べても厳罰化される傾向にある。だれだって普通の神経をしていれば不用意に自分の心を覗かれたくないものであり、隠したいことなど生きていれば一つくらいは必ずあるものだからだ。それでも合流してチームとして動くだろうがそこまで数は多くないと考えている。数は優位性として働き合流するまでに何人か、戦闘不能にできれば上出来である。
大志は同じクラスメイトを一人、戦闘不能にして苺と合流することが出来ていた。しかし十分経過しても実継がやってこない。それもその筈である。実継は小次郎と彰の二人を相手にして戦闘中だからだ。彰と小次郎が合流できたのは偶然だ。いくらギフトに自信がある彰でも複数に囲まれて攻撃されれば戦闘不能の判定を受ける。それは大志にも言え戦闘可能時間が長いか短いかの違いでしかない。
特に実継は二人だけではなく、他のチームメイトにも狙われることになる。決勝戦に残りたい他のメンバーからしてみれば僅かとは言え馬鹿に出来ない得点であることは間違いようがない上手く三つ巴の戦いになっても依然として危険は去ったとは言えない状況に陥ることになるので実継の選択肢は余計な戦闘は避けるの一言に尽きる。
時任も人が悪く敵愾心を煽るかの様に彰のチームの指定は大志のチームにされている。もしかしたら個人戦を挽回する機会を教育者として与えた可能性も否定は出来ないが確率は低いものとなる。
彰は射撃のギフトホルダーでもあるのでシューティングで大志が使用したペイント弾を使って実継を追い立てる。装弾数に限りがあるのとはいえ遠近の両距離で戦えるのは確固たる優位性であることは実継が思わず舌打ちをしてしまう程だ。遭遇してしまったとはいえ、実継と彰・小次郎の間にはまだ距離がある徐々に詰められているが他チームの乱入を警戒しているのか、遠距離攻撃しかしてこない。
彰のペイント弾による攻撃と小次郎によるラジコンに搭載されているペイント弾は直線的な攻撃しかできないようで何とか避けることができているが、いつまで持つかは分からない。戦いに焦りは禁物だ。常にあらゆる可能性を想定し対策しない限りは戦場では命がいくつあっても足らないと実継は要から教えられているのだ。ヤタガラス隊員が行った模擬戦は防衛省の特殊訓練プログラムの中に防衛機密として記録される。あらゆるギフトホルダーと戦う特殊部隊員にとってはギフトは剣であると同時に楯でもある。特殊系に属する情報自体は少ないがそれでも同意を得て、才能研究機関による調査が行われている。
ポピュラーな身体強化や機械操作であれば十分な情報が集積され、対処も単純に力押しでいく戦法やギフトの弱点をついて勝利を収めることは可能だ。楓が実継の訓練に付き合ったのも貴重なデータ収集の機会をギフトの専門家として逃せなかったという事も影響しており楓には守秘義務が課せられる事になる。身体強化に関しては本人の強化率や五感以外に強化できるかによって異なるが、リバウンドはあることが知られている。
大志は筋肉痛として行動不能になるというリスクを抱えているが人によっては視界が狭まることや脳に負担を掛ける行為なので頭痛がするなどホルダーによって異なる。機械操作の場合は単純でギフトホルダーが使用している機械を破壊してしまえば良い。ノーマルより肉体的・能力的に高いとはいえ、機械操作のギフトを持つホルダーは機械に依存する部分が大きく、戦闘が得意ではないものが多い。多いだけで例外はいるが小次郎は戦闘が得意というわけでもなく武術の心得もない。確かに追い詰められている実継ではあったがまだ逆転する可能性は十分に残っていた。




