表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/99

二十七話

実継さねつぐ崇人たかひとの試合を見ていた観客は突然の戦闘終了に唖然としていた。それもそのはずである崇人が終始、試合を有利に進めており、実継には崇人のギフト発現可能時間は分からないはずであったからだ。実継は単純に三分以上は時間を有していないと考えていただけであり、二年生に勝って二回戦に上がってきた自分同様に崇人もある程度は消耗しているはずだと考えていた。そのため行動に移しただけである。


一方的な試合展開ができるほどの実力差は幼年学校時代の同学年においては殆んどないとされているが例外もおり、大河を始めとした世代はまさに別格だったと言われている。出世頭は陸将補である大河であるがそのほかにも現在一等特佐、警視正や事務次官などの役職についているものも多く在籍していた。研究者として有名になったのは、旧姓、一之瀬楓が筆頭あり研究者として多くの同期が才能研究機関へと在籍している。


大志が入学したことで日本政府は本気でギフトホルダー支援を行うことを決定し、林檎誘拐事件の後には護衛のために白虎やヤタガラスを配置したのだ。それはひとえに大河が創造した黄金期の様に優秀なギフトホルダーを輩出することがギフトホルダー・ノーマルに関わらずに日本の将来の為になると中曽根が内閣総理大臣として判断したからであった。そのための壁は多く道は険しいものとなるだろう。


日本ではギフトホルダーを排斥する活動を活発化している旭会、世界ではノーマルを排斥しギフトホルダーによるギフトホルダーのための世界を創造しようとしているテロ組織【ウロボロス】が活動しているのだ。ウロボロスは成立過程が謎になっている組織で賛同しているギフトホルダーは多くいてもそのほとんどが差別主義者レイシストであり組織を主導する者は定かとなっていない。


大志の副官候補生と聞かされていた実継の試合を見た大河は驚いた。要が何かを仕込んでいると考えていたがまさか危険な方法をとるとは思わなかったからだ。実継が実行したことは【電脳】を通じて普段リミッターが掛かっているとされている脳の活動を活性化させ、身体の動きは脳から発せられる電気信号が操作しているため手許にあるMUCDで自身をコントロールし崇人の予測を上回る攻撃をすることでライフをゼロにした。海自ニ等特佐の雄三が有しているように数は少ないものの【電脳】のギフトホルダーは存在している。


多くの者が機械と一体化したような感覚を持ち、電子上において無類の強さを誇る。媒介に機械を介しないといけないという制限がある分、力を存分に発揮させればあらゆる戦闘において無限の可能性を持つ。現代において機械は身近な存在だ。MUCDは一人一台持っている時代だし、スーパーやコンビニに行かないでも通販で全て済ましてしまい、仕事もネットを介して行う人まで存在する。


時任は実継の勝利と宣言するよりは両者継戦不可能による引き分けを選んだ。それが一番生徒のためになると考えた上での行動だ。当然、実継の個人講師をしている要を呼び出すことを忘れない。相手にいくら肩書があろうが超能力幼年開発学校内においての最高責任者は校長である時任にある。


元軍人らしい思考が悪いとは思わないが、生徒に負担を強いる結果となり何かあった際に責任をとるのは時任であるからして正当な呼び出しだ。流石に非常手段として伝授した技をここで使うとは思っていなかった要であったが、大志が四年生を殺気を出して怖がらせてしまったように実継もまだ小学生なのである。自分の子供の様に思っている大志の副官ともなれば様々な脅威にさらされることになるだろう。


それは本人の意思に関わらず突然やってくるものである。要は林檎が誘拐されたことでPKO時代に救うことのできなかった少女を思い出していた。要が片目を負傷し退官するきっかけにもなった少女だ。彼女が住んでいた国は排他的な国で未だに男尊女卑が続いている国で宗教的な違いから民族紛争が続いていた。


技術の進歩により千年前の貧困と今の貧困では困窮度が異なる。どの家庭にも当たり前の様に電気は通っているしテレビや洗濯機・冷蔵庫などは後進国でも当たり前に使われていた。食糧問題も先進国がいままで棄てていた肉や野菜などをなるべく永く持たせる為に包装技術が更に進化して無駄に棄てる量が減った。


二十一世紀の日本では食品偽造問題や異物混入事件、偏った思想からくる特定の国に対する毒物混入事件など食に関する関心は高かった。腐った物を消費者に販売し利益をあげるのは論外だが、まだ食べられる肉を棄てるのもまた論外である。


豚肉・牛肉・鳥肉を食べる為にはどうしても育てる為の穀物が必要になる。捨てた肉を育てる為に要した穀物があれば後進国の食糧問題が解決するのにも関わらず豊かな生活を甘受している先進国の人間は偽善的ともとられるような行動しかしななかった。


確かにやらない善行よりはやる偽善の方が支援される側からしてみれば有難いのだろう。宗教的な問題が絡む複雑なことに対して文化を理解しようとしない先進国が互いの利益を確保するために支援したことで戦いは泥沼化した。要は助けようとした少女の名前を知らない。要が生きていたのは、単純に運が良かったからに過ぎない。


戦闘地域から離れた場所で難民支援をしていた日本の自衛隊だったが、現地で生活するためには風習などを熟知していないとならない。大きな災害が起こる度に有志として被災地に赴きボランティアをしようとする気持ち自体は否定しないが、何も準備をしないだけで来られても受け入れる側にも余裕がない現状では邪魔者としてしか扱われないだろう。


日本は被災しても秩序だった行動が重んじられ、火事場泥棒や便乗して犯罪を犯すものは少なかったのは日本の国民性として誇れるものだが、全ての人が善人であるわけではない。


国民性と言うよりは一人一人の人間性の問題で、災害にかこつけて軍を駐在させてしまったのが内戦が激化した原因とも言えた。自衛隊は概ね好意的に受け入れられたが、国連軍の中には現地民に対して犯罪行為を犯す軍規違反者が出るなど元々、先進国に対して好意的な感情を抱いていなかった被災国は自国民を使った自爆テロに走ることになる。


後進国においてよく言われることは人の命の価値が軽いことにある。日本では人命を重んじ、犯罪を犯した被疑者に対する射殺でも問題になり、先進国の中ではテロリストとは交渉しないのが国連決議で採択されていたが、時の総理大臣が人命は地球より重いと言う名言を残したがテロに屈したともとれる行動に批難が集中した。


アメリカやイギリスなどではテロリストと交渉しないという言葉を実行し、自国民を見捨てることもしばしばあるが、国としてはどちらが正しいかとは一外には言えない。遺族からしてみれば見殺しにした国に失望し、国籍を変えるものもいるだろう。たがアメリカやイギリスが主張しているように人質が有効だとテロリスト側が知れば味を占めて無関係な人間が殺害され、身代金は銃などの兵器の購入代金となり、更なる被害者を生むことになる。


要の目の前で自爆した少女も歪な宗教観を植え込まれたいわば被害者の立場にある。敵対していた民族が多く集まる街を襲撃し、戦利品として二十以上も歳上の男との結婚を強要され、性的・肉体的な暴力に少女は屈してしまっていた。


目の前で両親を射殺されゲームをするかのように少女の目の前で兄である人物が殺害された。この時から少女の中には希望などなかったのだろう。苦痛から解放されるためには死を選ぶことが最良だという考えしかなかった彼女には死は忌むべき存在ではなく祝福のように感じて死んでいった。


少女が自爆テロの実行犯になったのも彼女を人身売買で買い取った人物が少女に飽き民族に貢献することで自分の立場を強くしようとした結果に過ぎない。大人の男が自爆テロを起こすより女性や子供が起こした方が成功率が高いとされている。兵士の多くは成人した男性であり、本能的に保護するものだと刷り込まれているため警戒心を抱き辛いのが理由だ。


例外もいるが赤ちゃんを毛嫌いする人間は少なく、嫌いと明言することで批難の対象になることすらある。赤ちゃんは自分で話すことも出来なければ食べることも出来ない存在のため保護者となる両親の本能に訴えかけ守ってもらっているのだ。たまに虐待死事件などが起こるのは痛ましいことではあるが、色々な人間が存在している以上は必然だと思って割り切るしかないのだろう。


要が後悔しているのは護れた筈の命を失わせてしまったことにある。自爆した少女は勿論のことたまたま居合わせたというだけで五名以上の民間人が亡くなった。


軍務で現地調査に訪れていた要はフル装備でなく軽装だったがそれは現地民を刺激しないためであり必要なことであった。服の下には高繊維防御服(ケミカルアーマー)を着ていたため心臓などの重要器官は傷付かなかったが露出していた片目に手榴弾の破片が当たり負傷した。表だって戦闘用ゴーグルを着用することができなかった要だが同じ材質で出来ている伊達眼鏡を外出の際には着用を義務付けていた大河の厳命があって、破片の威力は相殺され九死に一生を得た。


負傷した要は応急手当てを受け入れただけで源三と大河の必死の説得がなければ再生治療を受けることはなかっただろう。副官という立場にありながら部隊に迷惑をかけてしまった要は無許可で部隊を離れようとした。脱柵ともとれる行動に懲戒処分を免れない状況となったが、大河による職をかけての直談判を受けて不名誉除隊ではなく正規の手続きを経て退官した。


仙崎はその頃PTSDを発症し治療していた。過酷な戦場で戦うことも少なくないヤタガラス隊員にとって他人事ではなく要を責めるものはいなかった。要は少女が自爆しようとしていることに気付き、ギフトを発現させて民間人だけではなく少女を救う為に行動したのだ。残念な結果にはなったが誰を責めれば良かったのかは未だに結論は出ていない。


このとき要の人生観は一度破壊され、粉々に砕け散った心を修復して今の要がある。恩師でもある時任は一度ゆっくりと話をする必要を感じており丁度良い機会となるだろう。学生時代と同じ顔付きで怒られにくる要に懐かしくも思いながらも話し掛ける時任であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ