二十四話
苺の元に向かった大志はある視線に気付く。一回戦で戦った烈音のものだ。普段から敵意を感じさせる視線を飛ばしてくる烈音であったが、今はその覇気すらないのだろう。
普段から制限を受けるギフト使用だが、大志のギフトの特性上、情報が多いほど解析がしやすくなる。楓もその必要性を認めているのか単に研究に有用だからかは定かではないが、観察することを癖付けるようにしてきた。
無生物のみならず、生物にも有効である大志のギフトは直感も重要な判断要素になる。未知のものを理解するのには時間が必要となるが、既存のものであればそこまでの労力を必要としない。
人体の構造を理解するためには医学書を読めば良いし、難解な専門用語も読んでいく内に自然と理解できるようになる。そのため大志は時間を見つけては様々な分野の本を読むようにしている。女の子に興味を持っているのも知的好奇心に過ぎないと自己弁護をする。誰に対して言い訳をしているのか自分でも良く分からなかったが直感がそう告げており、無視できるものではなかった。
相変わらずの烈音の視線は気になるが、大志は烈音や彰に害意がある訳ではない。聖人ではないので敵意に対しては警戒するし、害を及ぼそうとするなら全力を出して排除するだけだという考えを持っているだけだ。寧ろ大志は烈音が嫌いな訳ではない。ギフトを使用しない人間に負けたことで烈音が自分のギフトについて考えるきっかけになってほしいとも考えていた。
実継の様な参謀タイプの副官も確かに必要だが、柳の様に圧倒的な戦闘技術を持つ分隊長もまた部隊には欠かせない要素なのだ。
特殊部隊には少ないながらも女性隊員もおり、男性隊員と同じ様に危険な任務についている。大志の部隊構想の中には苺は含まれていない。性格を変えることは難しく、自衛官には向かないからだ。本人が望めば幾らでも訓練に付き合うがその可能性は低い。
事件が解決されてから木野雄三、二等特佐にあったが、海自へと勧誘された。昴の艦長をしていて今回の功績から昇進されたそうだが、雄三には苺の精神的ケアを頼まれた。政府も国の威信をかけて精査するだろうがどうなるかは不明だ。
例え原因が苺にないものだとしても自分と違って将来を有望視されている林檎の夢が断たれることは、優しい苺からしてみれば、自分のことのように心を痛めるだろう。雄三にいわれるまでもなく大志は自分にできることを苺にしてやるつもりである。
倉橋家と木野家は志を同じくする家同士で管轄は異なるが国を護ってきた誇りを持っている。苺は自分のギフトをテレパスだけだと考えているみたいだが、確実にサイコメトラーの資質を持っている。これは苺本人にも母である楓にも言っていない。
精神感応系として有名なギフトだが、必ずしも本人の為になるとは限らない。なまじギフトという明確な才能があるため本人が別の仕事に就きたくても才能が邪魔をすることがあるからだ。ノーマルからしてみれば才能がないよりあった方が良いに決まっているが、ギフトホルダー・ノーマルそれぞれに悩みがあるのは人である限りは自然な事だろう。
父兄席とは別に設けられた貴賓席から只ならぬ視線を感じる。解説席も近くに設けられ、父である大河の姿も見える。実況役となっている六年生の胆力も凄い。
中曽根総理と国枝防衛大臣が訪れているだけあって周囲にはヤタガラスと白虎が周囲を警戒している。見慣れた顔である柳と椎名も試合が始まってからは学校周辺の警備と校内の警備を別の隊に任せて要人を護衛することにしたらしい。
何人かと手合わせした経験がある大志からしてみれば、ヤタガラス隊員の方が化物じみているだろうと考えないわけでもないが言わぬが花であろう。
自クラスが割当てられている場所に戻ってくるとクラスメイトはギフトを使わないでギフトホルダーを制圧する術を持つ大志を尊敬の眼差しで見つめて来るがあらゆる状況に対応して見せてこその特殊部隊員であり、自衛官として特尉・特佐に任官されているのだと言う認識が大志にはあった。
全ての者が自衛官になるわけではないが、ギフトを過信して行動するのは過ちだし、行動には責任がついてくることを胆に銘じていなくてはならないと考えていた。旭会やウロボロスの様にギフトホルダー・ノーマルを排斥するのではなく、共存してこそ繁栄があると考えていた。
「大志くんお疲れ様。怪我してない?」
苺はチーム戦に実継・大志の三人で出場することに決まってから名字ではなく名前で呼ぶようになっていた。個人戦で予選一回戦で負けたことで自信を失っていた苺を慰める為にお願い事を一つ呑むと言ったら「倉橋君のことを名前で呼ぶから私の事も名前で呼んで」と言われてからそうしている。
実継の事も小澤くんと呼んでいたが、訓練を通して親睦を深め名前で呼ばれている。だが苺は実継のことを未だに名字で呼んでおり、実継も苺の前では名字で呼んでいる。
「小澤くんも一回戦を何とか突破したみたいだね。見ててハラハラしちゃったよ」
明日チーム戦が行われるため緊張しているかと考えてみていれば至って普段通りの苺に内心ほっとする大志。実継が部隊の頭脳になり、苺が意思となる。大志は肉体を司り二人を護るのが、チーム戦における基本戦術となる。
大志は烈音にギフトを使用しないで勝つことで実力を示し、実継は自身が戦闘に向かないことを理解しつつ、二年生を戦術で打ち破った。内向的な苺だが、二人の能力を信頼し、前向きに考えることでモチベーションを保っているのだろう。
「まだ昼前で時間はあるけど昼食を苺はどうするんだ?」
苺の両親は外出を制限されている林檎が不安にならないように検査の為に政府が用意した個室に通っており、外部には公開されないギフトホルダーによる武道大会を特別に個室でみることを許可されていた。
そのため二等特佐という立場にも関わらず自衛隊関係者として雄三が貴賓席にいるのである。雄三の息子は新米三等特尉であるため部隊を離れるわけにもいかなかったためこの場にはいない。
「雄三おじさんは悪い人ではないんだけど見た目のせいか損しているんだよね。いとこのお兄ちゃんはどっからみても優男風のイケメンなんだけど」
「苺はおじさんと食べると貴賓席でになるし、父さんと母さんと食べるとなると同じく貴賓席になるから実継とどこか別の場所で食べない?」
苺は大志が昼食に誘ってくれたのは嬉しかったが出来れば二人っきりで摂りたかったのもまた事実である。
チーム戦は三人のチームワークが重要なため訓練も当然三人で行うことになるため大志となかなか二人っきりになる機会が以前に比べると減った。クラスではクラスメイトの目が気になり、本人は自覚していないが、女子からの人気は高い。
佐竹彰の事が好きな河石心愛を除いては概ね好評であり、将来性もあるため今の内に唾をつけておこうというところだろうか。小澤くんはインテリ系の為に好みは別れるが、女子には好意的に見られている。私の気の許せる女友達の神埼陽菜は大志×実継でご飯三杯はイケると豪語していたが、深く聞いたら取り返しがつかなくなる気がして追及はしないことにした。
見る人が見たら立派な腐女子であり千年近く経った現代においても一定の勢力を誇っていた。何時の時代でも嗜好は変わらないという証左だろう。
渋々といった感じで昼食を一緒に摂ることを了承する苺。大志が貴賓席で食事を摂りたくなかったのは、お偉いさんと一緒に食事をとるはめになり、休憩にならないどころか逆に気疲れしそうだったからである。
雄三は大志を海自に勧誘するつもり満々で海将直々の命令であった。大志を獲得すれば同じ世代の優秀な人材を確保することと同義である。一年生ではあるが、実継が持つ【電脳】があれば、単艦運用しか今のところ出来ない昴の同型艦の運用を効率的に行うことが可能となる。
メリットは大きくデメリットは無いに等しい優良物件を見逃す筈がない。
その為には、本人を説得し、海将と陸将で話合いを行えば良い。空自は大志に関しては完全に蚊帳の外といった感じではあるが気にしたそぶりを見せない。身体要件も厳しければ、パイロットの生存率も低いからだと言える。
安全性は高まっているとはいえ人間には自由に飛べる翼は存在しない。領空権を巡って戦闘状況に陥る可能性は誰にも否定できない。実際に撃墜され中に搭乗していたのが、テレポートのギフトを持つギフトホルダーでなければ人命が失われていたに違いない。
空自では、航空機の操縦技術が重視されることもまた事実であるがそれより優秀なテレポーターを求めているのは、生存率を上げるためである。
陸自でも必要とされる能力なので分散はしてしまうがなんとか必要人員を確保するに至っている。軍隊では能力・実力主義なので一般企業に入るよりは給料・待遇ともに良いと認知されている。大志は試合が終わった実継と合流して次の試合に向けてウォーミングアップすることにするのであった。




