二十二話
個人戦の当日となった。個人戦には多くの生徒が参加する為、ブロックに分けられ予選が行われて出場選手が決まっている。大会は個人戦とチーム戦で運動会に近い扱いを受けているので二日に分けて行われる。大志は一年生代表の一人として勝ち抜き一年生から六年生までのトーナメント戦へと勝ち残っていた。一年生の代表は倉橋大志、小澤実継、佐竹彰、村中烈音、山崎崇人が選出されていた。崇人は実継とクラスメイトでトイレに向かう途中で大志に戦闘不能にされた少年だ。戦闘系ギフトでもないにもかかわらず小学生にしては大柄な為、クラス対抗戦では前線の指揮を務めた。ちなみに苺は個人戦においては予選一回戦で敗退している。
身体強化系ギフトホルダーとその他のギフトホルダーの戦闘になるべく公平を期すために、参加登録をしたものには筆記試験を課し、総合得点によってギフトを発現できる時間を制限している。身体強化系は勉強ができるものもいるがその他のギフトホルダーに対して圧倒的な優位性を持つことになるための配慮だ。直接戦闘以外にも数種類の勝負方法があり、同学年の場合はランダムで下級生と上級生の試合の場合には下級生に選択権が与えられる。武道大会なので戦闘を主眼においている代表的なものはチーム対抗戦でも採用されたライフゼロだろう。
怪我防止のため装着を義務付けているプロテクターに攻撃を加えることでライフゲージが減少し、先にゼロにした方が勝利となる。部位によってライフゲージに与えるダメージが異なり頭などの急所に当てた場合、比例してダメージが大きくなるシステムを採用している。カウントダウンは、ダメージではなく一定時間内での手数によって勝敗が判定される攻撃が当たるかどうかなので一発相手に攻撃を当てたあと逃げ回っていれば勝利することもできるが実力が違えばそもそも攻撃自体を与えることができないのでアウトファイター向けの対戦方法になる。その他にはペイント弾で戦うシューティングなどがある。
個人戦は学年ごとに予選が行われ決勝トーナメントに残った時点で考課にプラスされる。工学系に進学するものを除いてはギフトホルダーの殆どが国家公務員になるので、来賓として招かれる幹部クラスに対してのアピールの機会になる。彰も自衛官になって国を護りたいと考えていたので、陸将補の倉橋大河が来賓としてくることを知って張り切っている。個人として大志を嫌っている彰であったが国防の要となり困難かつ危険な任務を成功させてきた大河のことを尊敬している。本人がダブルホルダーとして増長していなければ模範生としてクラスメイトを牽引していく存在になったかもしれない。大河が来賓として招かれるのはただ単純に大志の父親で自衛隊幹部だからに過ぎないのにそこを彰は勘違いしていた。
要は警備責任者として学園内の見回りをしている。外部の人間が入ってこれるような状況において先日事件が起きたばかりともなれば警戒するのは当然である。今回に限り生徒の親の観覧は公安の身元調査をしたもので問題がないと判断された者に限り許可され毎年、保護者の観覧希望は多く抽選になっているため不審に思われることはなかった。
柳は部下である椎名に命じて一般隊員に校内の巡回をさせていた。普段通りCGIDを携帯させ保護者に威圧感を与えないため私服での警備をさせている。この日は多くの自衛官・警察官が監視の目を光らせている。国の将来を担うギフトホルダーは言ってみれば国の未来でもある。先進国において手厚い保護をしているのもギフトホルダーの保護がそのまま国益になるからに過ぎない。
大志の一回戦の対戦相手は同じ一年生の烈音だった。審判となるのは超能力時開発幼年学校の校長である時任詩織である。彼女は所謂、戦闘狂とも言える人種で若い時には様々な格闘大会のタイトルを総なめにしてきたギフトホルダーである。何を考えたのか突然引退をして超能力幼年学校の教師となった経歴を持つ。校長である彼女を止められる者はおらず、時任が毎年審判を務めている。
時任は大志と烈音にルール説明を行い互いに事故が起きないように注意をしてから戦闘開始を告げる。
先に動いたのは烈音であり身体強化を行って大志へと迫る。大志はギフトを発動した様子はなく、至って冷静のままである。それにいらつく烈音、自分が全く相手にされていないことに憤り大志が動かないままであるならそれは自分にとってみれば好都合なので速度を落とさずに攻撃を実行する。
大志に向かって腕を振りおろそうとした時に烈音が見たのは地面である。大志は自分に向かって攻撃してくる烈音の腕をとり背負い投げで投げ飛ばしたのであった。背負い投げでのダメージはポイント上は有効にならず衝撃を与えた分だけのダメージしか換算されないが、実際のところは有効な攻撃でもある。カウントゼロにおいても時間がゼロになる前に審判が試合を止めればそこまでで勝敗が着く。四方固めへと移行しようとした大志であったが、断念する。ギフトを発動すれば身体能力は自分が上回ることができるが今回の大会においては時間制限があり、試合で使用しなかった時間においては次の試合に繰り越せるシステムになっているためできるかぎり時間を残しておきたい理由があるのだ。
大志が勝ち上がりこのまま順調に進めば柳大悟の息子である柳隆太とあたる可能性がある。隆太とは顔見知りでたまに寮内で話をする関係である。隆太は父が警備とはいえ学校内に滞在しているため無様な試合を見せられないと大志相手でも本気で勝ちに来るだろう。勉強はそれほどできない隆太だが直感はものすごく鋭い。
後々の試合を考え一年生相手ではほとんどギフトを発動させる必要もないと考えている。実際、地獄の様な特訓を生き抜いてきたヤタガラス隊員が行う訓練は大志にとって苛烈を極める。最初の頃など疲労から失神することも珍しくなく待機している医師・看護師によって手当を受けることも多かった。隆太も歳が近いと言うだけで参加を強制させられ不満を持っていたが二年以上も続けていると習慣となり昔のような疲労を感じるほどではなくなっている。
ライフゼロは時間制限がないためライフがゼロになるか試合を止められない限りは決着が着かない。それは大志にとっては好都合である。烈音を侮るつもりは大志にはないがギフトを使用しない戦闘は大志にとっては散々鍛えてきたものだ。教師となった大悟のことは尊敬もしているが怨んでいることも間違いない。ヤタガラス隊員に選抜されたものが受ける最初の洗礼が柳大悟一等特尉による訓練だと隊員の間で囁かれているくらい厳しい。
絞め技で決着をつけようと考えていた大志にとってはチャンスを逃がしたのは痛いが最悪の場合、ごく短時間だけギフトを使用すれば決着が着くことなので問題はないと考えている。一方、烈音は自分が投げ飛ばされたことに思考が追い付いていなかった。試験の結果から二分間のギフト使用時間が与えられ、その優位性を用いて試合を決めるつもりだったのだ。彰から話を聞いていて烈音自身も大志は大したことがないと考えていたのだ。格闘訓練の際には、ギフトを用いないで戦うとはいえ、それほど技量の差を感じていなかった。まして今回はギフトを使用が認められているため自分がギフトの発動をしているとは見られない大志に投げられるとは考えていない。身体強化の強度を強めたことで絞め技に入られることはなかったが咄嗟に強化していなければそこで試合を止められるほどの脅威を感じ取っていた。
大志からしてみれば試合を終わらすことはできなかったが優位性を確保できただけで十分だ。後はじっくり攻めていけばライフをゼロにすることも不可能ではないのだから。身体強化による不意の一撃さえ喰らわなければ時間の問題で、焦った烈音が失策を重ねるごとに優位性は確固たるものになるだろう。
自衛隊格闘術を主体にした戦闘術は主に柳に教わった。筋力が大人に比べて劣るが強化率がそれほど良くない烈音と戦うには今の身体能力で十分だ。この程度の相手に負けたとなると大河による地獄の再特訓となるだろう。それだけは勘弁してほしい。キャンプだと連れて行かれたのは富士山で川辺で遊ぶのかと思っていた大志は薄着で大河に上着を借り、寒さを凌いだのであった。母である楓が参加しない時点で気付かなかった大志にも問題はあると思うがいきなり富士山の頂上まで登ろうとする大河の方が無茶なのだ。
直線的に向かってくる烈音に内股をかけ体勢を崩したところで腕引きし十字固めを掛ける。プロテクターを着けており怪我を負わない状況だからできたことである。時任はこれ以上の戦闘の続行ができないと判断して勝者として大志の名前を告げた。
次は実継の試合である。決着が早く着いたため解説員である大河の出番はなかったが、問題なく試合は進行していくのであった。




