二十話
大志は困惑していた。個人戦は予選がもうそろそろ始まる予定で勿論参加するつもりであったが、チーム戦には参加するつもりがなかった。正直言って個人戦でも学年別に行われ何人かの警戒すべき生徒はいるが優勝することは不可能ではない。要・柳を始めとするヤタガラスのメンバーの訓練は尋常でないものがある。十歳に満たない子供にやらせることではないしもしその内容を楓が知ったとすると大河の父親としての立場はなくなるだろう。
体のできていない時期に筋トレをし過ぎると成長を阻害するのは大河も当然知っており、ヤタガラスに所属するものであれば準備運動にすらならない運動だが全く運動をしたことがない子供が訓練として行うには厳しい。武術の達人が多く銃を使った戦闘や各ギフト能力に適応した戦闘をするギフトホルダーには様々な戦い方があるが、GIDによりギフトを無効化されて戦闘を行わなくてはならない可能性を考慮して通常の肉弾戦も習うのが規則になっている。柳一等特尉は江戸時代には武士の家系であり柳一刀流という流派の師範であったとされる家系である。幼いころから鍛錬を行い柔剣である剣術を修めている。しかも発現したギフトが視覚強化と多少の身体強化を含む複合系ギフトであったため刀で銃弾を弾くと言う常識はずれなことができる。
統一された装備を所持し使用することが義務づけられている自衛隊の中でも異色の存在であり諸外国においても【剣豪】という名で知られている。能力自体は秘匿しているギフトホルダーだが米軍との軍事演習が全くないというわけではないしPKO活動においては他国との共同作戦のためにある程度の交流がある。ギフトホルダーは自国においても行動が制限されることがあり気軽に旅行にもいけない状況にある。もし大河が自衛官としてではなくただの一般人として渡米をしようとしても簡単には許可が下りないだろう。受け入れる国としては、現役の陸将補が入国するだけで厄介事になる可能性が高まる。もし滞在中に暗殺されるような事件や誘拐事件が起きただけでも日米関係の悪化に繋がるだろう。
テロリストと交渉しないことを条件にしているが対外的にであり要人が人質になった状況においては強硬策がとれず一時釈放せざるおえないケースも発生している。面倒事は最初からない方が良いので自前の護衛を雇うなどの条件や何があっても国が責任をとらないという誓約書に署名しないと入国が許可され辛い状況にある。日本国内で射撃の訓練をさせようとしたがどうしても許可がおりずそれなら海外でやれば良いと考えた大河であったが、要の冷静な一言により我にかえり楓に叱られずに済んだのである。諦めきれなかった大河は非殺傷兵器であるゴム弾で射撃訓練を行い自衛隊士官学校に入学した後に本格的な訓練をすることで要に説得された。ギフトホルダーには専門の護衛官が就くことがあるが知らない人には高位のギフトホルダーだと宣伝しているようなものであり、表立って警護しているケースは少ない。大志の様に大河の息子であることが知られている状況でもない限り影ながら警護するのが一般的である。要も大志を警護する為に超能力開発幼年学校に赴任してきているし用務員や教師に身分を偽装している護衛官が数人いる。常駐しているヤタガラス隊員が少ないのは護衛官が少なからず配備されていたことにあった。
才能研究機関によって開発されたGIDが設置され万全の防衛体制を構築されていたはずの超能力開発幼年学校の警備が突破されたことによって国会に配備されている白虎の一部隊員は幼年学校へと配置転換になった。自衛隊の特殊部隊のヤタガラスが配備されているので指揮権で揉めるところであるが、通常時には各隊の指揮官が隊を統率し、緊急時には一括して要の指揮下に入ることで調整された。柳も分隊長として部下である椎名を始めとしたヤタガラス隊員だけではなく普通科の自衛隊員の指揮を執ることになった。
二等特佐に昇進した雄三も海自の隊員を幼年学校に派遣したい考えを持っていたが、今回は断念することになった。昇進は前から決まっていたことではあるが、納得のいかない雄三は退官し、林檎と苺を守るために警備員になろうとしたぐらいである。副官である橋本を始めとした海上自衛官が必死になって思いとどまらせた。雄三に退官されてしまうと護衛艦「昴」が機能しなくなる可能性が高い。全てを雄三のギフトに依存している訳ではないが効率良く運用する為には、実継と雄三が持っているギフト【電脳】の能力は欠かせない。機械がいくら進歩しても使える人間が居なくては無用の長物であり、機械に特化した能力である電脳は欠かすことのできない能力といえる。【複数処理】・【並立処理】でも運用できないことはないのだが運用可能時間が極端に制限されてしまうという欠点をかかえることになり、指揮権を統一するためにも雄三を外すことができなかった。
大志が個人戦に参加するつもりがあってもチーム戦に参加するつもりがなかったのは、チームになった人間の今後の評価を決めかねないという点にある。父、大河が情報をシャットダウンしている影響もあって自衛隊・警察・政府関係者が多く観覧にくる武道大会の影響は少なくない。上級生は好成績を残すことで自分が志望する学校に入学するために必死だし、自衛隊に任官するつもりのある者にとっては登竜門であるからだ。流石に一年の時点での成績がそのまま評価に直結する訳ではないが、チームメイトになったというだけで注目されることは間違いない。クラスメイトの何名かはチーム戦の登録受付が迫ってくる時期になるとそわそわしだし、クラスメイト同士で牽制しあっている雰囲気がある。大志にとって意外だったのはクラス対抗戦で代表を務めた小澤実継が話しかけてきたところにあった。
自衛隊士官学校に入学を目指す者のうち要さんが将来有望な生徒に声を掛け、個人授業をしていることもあって実継の動静は常に気にしていた。クラス代表を務めるのは優秀だと言うこともあるが人望があるということでもある。大志自身はクラス対抗戦は所詮、学校行事であり勝敗はどうでもよかったが、彰のように自分を敵視する存在があり敵意を持ち攻撃してきたら排除ぐらいはする。要さんが担任でよかったと思うところは体育の授業は担任教師が受け持ち抑止力となりうる実力があるものが受け持つことになっているからである。戦闘系ギフトもあれば操作系・精神感応系など様々な能力があり、担任も全ての能力を把握している訳ではなくアクセスレベルに応じた情報しか閲覧できない。要は超能力開発幼年学校の校長と同レベルの全生徒の能力を閲覧する許可がある。
守秘義務があり本人以外に口外することはできないが能力を知っているのと知らないのでは指導も変わってくる。大志も戦闘系ギフトを持ってはいるが戦闘系ギフト同士が本気で戦うと思わぬ怪我をすることがある。彰と大志が戦闘訓練で相手にならないように調整したが、クラス対抗戦の代表の選出に関して口をださなかったのは、大志が代表になっても彰は反発するだけであり、同調している村中烈音、鶴若小次郎が同調するだけだからだ。正直なところ三人が大志に奇襲を掛けたとしても怪我することなく退けることぐらいは今の大志にだってできる。それをしないのは大志が面倒だと感じているのと、思惑から外れてしまったが勝利するはずだった対抗戦で敗北すると言う失態を彰が犯して自滅したからでもある。
対抗戦で信頼を失った彰はクラスでも浮き気味である。彰は個人戦を自分の力を誇示するのに絶好の機会だと考えている節があり、彰の実力を考えると間違いではないがそれは歩兵としての闘い方でありノーマルである防衛大学卒業者より身体的に優れているというだけに過ぎないということに気づいていない。現代戦の優位性はギフト能力をいかに効率よく使いこなすかということにつきる。身体能力的に優れた兵士が一人いればいくら銃で武装していても制圧は不可能ではない。それがテレポーターであれば目標に悟られることなく殺害することが可能になる。ノーマルと脳が構造的に変化しているギフトホルダーは身体強化ができなくともノーマルより力が発揮でき、知能も高くなる現状がある。
ギフトホルダーが現れてから百年余りが経つが社会構造も少しずつではあるがギフトホルダーがいて当たり前だと言うように変化してきたが一部の人間からしてみればギフトホルダーは異端者であり背信者であるという考えは、中東で広がっている。そこまで過激ではないのが日本の旭会といったところだろう。人は幾ら文明を発展させても争うものであり他者より優位に立ちたいと考える生き物なのかもしれない。ギフトを発現させることになった隕石に関しても解析が進んでいるが殆どの物質が地球に存在しないものが多く結晶の構造も複雑であった為、学者の中には神からのプロテウスの火だと主張する者や地球外生命体の存在を示唆する学説が出たが火星移住計画が実行され人類が住めるように環境を変化させているが、火星には知的生命体が存在する可能性はないと結論づけられている。
母である楓にギフトについて語らせたらほっとけばいつまでも喋っていられるような人である。大志自身もギフトホルダーであると判明してから潜在的脅威として他のギフトホルダーや武器を公に所持することのできる自衛隊・警察関係者を警戒する様にしている。大河から武術の心得を教わっているのはただ単純に敵対者から身を守るためには武力が必要だからであり力だけでは狡賢いものに騙されるだけである為、戦略などの勉強をしているに過ぎない。自分をチーム対抗戦に誘おうと隙を窺っている同級生の視線に辟易しながら学校生活を過ごす大志であった。




