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十五話

木野雄三は護衛艦「昴」のCICで中国政府の艦隊出撃の報を受けて対応に追われていた。部下である一尉も心なしか顔が青い。


「橋本一尉。すぐに海幕へと現場海域へと向かうと打電してくれ。」


橋本卓はしもとすぐる一尉は雄三の副官でありノーマルでありながら防衛大を優秀な成績で卒業し任官した経歴をもつ。


「了解。ただちに海幕へ報告し国枝防衛大臣の指示を仰ぎます。」


「日本政府としてこのまま開戦は望まないだろう。在日米軍も協力しているこの作戦においては下げたくない頭でも下げなくては国際世論の非難を浴びる。いくらロシアが盟友だとしても自国の利益がない限りロシアは静観するはずだ。」


軍人は政治に関わらないという信念を実行してきた木野三等特佐の副官として働いてきた橋本は驚きを隠せなかった。本家の子女が攫われている状況において冷静な判断ができないと想定された場合、強制的に昴の指揮権を委譲すると言う海将の言葉を気にしての発言だろうか。優先されるべきは一国民の命より国家の命運であることは間違いがない。


海幕への通信準備を続けながら橋本一尉は嫌な予感がした。冷静で知られる木野三等特佐が決断を間違えるとは思えないが高度な政治的判断が要求される現状において現場の先走りがそのまま最悪な結果を生みかねない。自衛権が認められているが文民統制が残っている日本に置いて開戦権は内閣総理大臣に委ねられる。穏健派として対中国の政策をとってきた中曽根総理だが、手緩いと批判する勢力は存在する過去の過ちから過激派の総理よりはましだが中曽根政権は経済的な実績はあっても軍事行動には消極的であり日米関係を悪化させる可能性を政治評論家に指摘されるほどだ。


周辺国家もといアジア諸国において中曽根総理の評判は良い。任期ニ期目で総理大臣になってから五年が経つが災害派遣をした数は先進国トップであり、地震大国として知られる日本の防災技術を積極的に海外へと伝授した。歴代総理の中でも上位に入る程の人気があり次の総理大臣はあらゆる意味で中曽根と比較され野党は政権運営能力がなく与党の批判しかしておらず支持率はかなり低い。


「こちら護衛艦「昴」副官橋本一尉。海上幕僚監部応答願います」


「海上幕僚監部。橋本一尉要件を送れ。」


「昴艦長。木野三等特佐より本作戦の受領を確認、現場海域へと急行する以上」


演習という名目で行われている今回の領海への護衛艦配備は海上自衛官になって十年以上経つ自分の職務経験からみても異常なことだ。ステルス性が向上しそれに伴い索敵技術が発達した戦闘機でもスクランブル発進の緊張感は同様なものを伴うのかと思案する橋本。


木野三等特佐は今回の事件が解決したら指揮を預かったものとして昇進されるだろう。特殊艦に該当する昴は二足型歩行戦術兵器【大和プロトワン】の運用艦であり、電子戦が主流となる現代戦においてイージス艦は過去の物となりつつある。日本独自開発した大和プロトワンは各自衛官から選抜されたエリート部隊であり火星移住計画によって草案されている宇宙軍の士官候補となりうる。火星移住計画が成功してもあくまで日本国籍とアメリカ国籍ははく奪されることはない。距離は離れているが互いの領土を制定し協力体制を築くだろう。


生物学者は地球外生命体の存在を否定しないし、学者の間では隕石は地球外生命体からのコンタクトだったという説を唱えるものは少なくない。人工知能が発達しAIも高度なものが組めるようになってはいるがSFの世界にあるようなアンドロイドは開発に成功していない。高度な知能はそのまま人類に対する脅威になるという考えは地球では一般までに浸透している。軍人であれば顕著に表れると言ってもよい。無人航空機(UAV)を人工知能に任せる計画はとん挫した。まず状況に応じた判断がAIにはできない。


予め与えられた状況の中でしか判断が下せないとなると軍事的に使うことができないと判断されて当然である。UAVは人間が遠隔操作しているがその問題もなかったわけではない。勤務地から自宅までの距離が戦地から帰るのと段違いであり、まさにゲーム感覚で戦争に参加できてしまう。過酷な経験をしてPTSDになる兵士は多かったが、UAVを操作していた者はPTSDになる確率がとても高かった。技術的・人的問題で罪のない一般人を誤爆することもゼロにすることは不可能だ。現地員の情報が間違っていたケースや地図やGPSを使用して運用しているとはいえモニター越しでは肉眼で見ているのにはどうしても劣り、目標地点を間違えることは多かった。


UAVも使用されているが基本的には偵察機であり爆撃機としての運用を日本はしていない。アメリカは民間人への誤爆を平気でやっているが確立した技術によって誤爆率を減らしているので当事者にない国にとって他人事であると言ってよい。日本は有人兵器のみを国内で運用することを認めており無人兵器を発見した場合はアメリカの所有物であっても撃墜する様にしている。韓国も日本と同様に北朝鮮から飛んできたとされるUAVは撃墜し、そのたびに抗議をしているが発展はない。南北統一は民族の夢らしいが当分はないだろう。


現場海域に向かう昴。快速艦とは言えないが静音性、ステルス性に優れている艦である。魚雷も搭載し電子制御している。対艦・対潜には優れているが対空には少し弱い。砲自体が目立つものなのででかいものは設置できず、大和プロトワンを五機搭載するスペースが必要になることから対空戦は大和プロトワン任せとなる。極秘開発された機体故に詳細スペックは部外秘となっており研究に携わった研究者か防衛省幹部くらいしか能力を知らない。外国に漏れることを特に気にしスタンドアローン型の研究施設でセキュリティコードを持つものしか入れない徹底ぶりである。守秘義務を負う者たちは出勤すると同時にサイコメトラーによる精神チェックが入る。違反した可能性があるものに関しては拘束し、国家反逆罪で懲役刑となる。


本格的にスペックを隠し実践運用されることになりかねない状況に陸・空・海の自衛官から選抜され大和プロトワンの運用パイロットの隊長となった柊啓ひいらぎけい三等特佐は三幕合同特殊部隊【ヤマタノオロチ】の指揮官となる。運用実績とデータ収集のための部隊であるため部下はエースパイロット級の部下が集まっている。適性試験は全隊員に対してVR試験を課し行った。若い世代はゲームに慣れているし、三十代の隊員が子供のころには既にVRMMOは人気のジャンルであった。柊は珍しい後天性ギフトホルダーであり、十八で発現した。超能力幼年開発学校に通えるような年齢ではなかったし、一般企業に就職するために就職活動の最中だった。自衛官を志すようになったのは大河との出会いが原因だといえた。


国民にはギフト発現時に国に報告する義務を負う地域の治安維持担当者がギフト犯罪の抑制に使う為であり、ギフトは能力によって国益に適うものである。才能研究機関に勤める楓はこのとき初めて検査官として柊と合うことになる。柊が三十代となった今でも楓や大河と家族ぐるみの付き合いをしている。要とは空自出身である柊は大河を通じて知り合った。陸自のことを大河・要が空自のことを柊が海自の事を木野が教えそれは虚像を織り交ぜたものではなく本当の出来事しか伝えられていない。流石に軍事秘密のスペックは話したことがないが一般の人でも海自護衛艦に乗ることができる機会や戦闘ヘリによる飛行など積極的に誘いを掛けた。大志は結局のところ陸自に入隊することを決めているみたいだが、入隊は本人の適性が重視される。ヤタガラスの次世代隊長を望まれている大志だが、ヤマタノオロチも新設の部隊でありながら次世代兵器を扱う特殊部隊だ。運用艦の昴艦長の木野三等特佐はあくまでも海自隊員でありヤマタノオロチに対しての指揮権はない。同じ三等特佐であるため今のところは協議による指揮となるが功績を考えると木野三等特佐はニ等特佐へと昇進されヤマタノオロチの指揮官となられるだろう。


柊は部下に搭乗機待機を命じ木野に向けて通信を行う。


「こちら大和ワン、指揮所どうぞ」


「木野三等特佐だ。柊三等特佐、状況は悪い。統幕より指定海域への移動命令が下り、旗艦として戦闘指揮に入ることになる。電子艦でもある昴は全て電子制御で行っており、ヤマタノオロチに対しての指揮権を持たない為、貴官には独自判断の元で戦闘を行うことになる。」


「電子ステルス戦の実戦データを取る目的も兼ねてですかね。楓さんは喜びそうですけど」


国は極秘情報として隠さなくなったかもしれない。しかし隊員は戦闘継続が不可能となった場合、機体破棄と情報の隠滅を行う義務を負う。中国に対して実戦配備することは悪いことではないが、第三次世界大戦への引き金にもなりかねない機体に日本の運命は委ねられることになることは間違いない。


「大和ワン。了解」


状況は差し迫っている。林檎が情報を発信してから五分後の出来事であり、まだ雄三の元には情報がきていない。この時点では中曽根の元にも届いておらずまだ研究員による解析中だ。日中開戦、中曽根は覚悟しての行動であったが、回避できたことを一番喜んだ人物であることには間違いない。


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