十四話
李国家主席は今回の不正規作戦の実行を許可したことを後悔していた。在日大使に事情を伝えないで行われて作戦は北朝鮮との共同作戦であり、中国としては装備と資金を貸したに過ぎない。
中国人である李は他の中国人の例に漏れず大国思想を未だにもつ人間である。技術進化が行われギフトホルダーという存在が現れなければ日本に対しての強硬姿勢をとっていても日本は内心で中国の事を非難しつつ安い労働力・経済市場・稀少金属の輸入の観点から要求を呑むしかなかっただろう。中国内部の原因を外国のせいにして批判をかわすということを何千年と続けてきた。世界規模のファーストフードで食品問題が起きたときも他国の安全基準よりも低く賃金の安い中国の労働力を使ったからだと反論した。
中国はたびたび日本に対しての食品テロを起こして来た毒餃子事件を筆頭に犯人が捕まっても国として責任をとることはない。反日政策をとり続けてきた影響からか親日家であると政治的弱点を晒すことになりかねない。世界で傲慢に振る舞い観光地によっては中国人お断りの店があるくらいなのだ。富裕層は富み貧困層は明日の生活に頭を悩ませる環境は変わっていない。
経済・軍事的優位性の崩れた国内内部の不満を解消させるために行われた作戦だが首脳部は日本という国を舐めすぎていたことは否定できない事実だ。中国側の不運だという要因もある。特殊部隊副官を務め才能保持者保護法に基づいた執行権限を持つ要がいなければ成功していた可能性は高い。政府に報告が行くのに少なくとも一日以上経ち国としての対策をとられる前に工作員を日本国外へと脱出させる作戦だったのだ。中国船の船長を雇ったのも中国の政治力があれば国民の返還請求をするのは正当な理由であり、他国に非難される必要はないと考えたからだ。
李国家主席の予想はここで外れることになる。東京湾に入港したのは良かったが、不審船として拿捕される結果になる。外交筋から情報を得たがこの時に船長と二名の特殊部隊員が海上保安庁によって拘束された。不正規作戦に選抜されるだけあって優秀な人員を送り出したと聞いていたが日本の海保隊員は優秀だったということだろう。逮捕権を持つ海上保安官・警察官は常に危険にさらされており携帯用GIDの所持を公務中に限りギフトホルダーに対して使用することを認められていた。職質をする際にも相手の同意なく使用でき警察官や海上保安官の全てがギフトホルダーでない以上は仕方のない処置だ。
日本製のGIDは中国工作員が使用したCGIDを正常に起動させることなく、逮捕することができた。逃げられた人間はあくまでも特殊部隊員なので仕方のないことでもある。GID一つとっても日本と中国の技術格差はある。技術格差がそのまま経済格差となる現状において李国家主席は放置できない問題として行動に出たのが中国を窮地に立たせているのは間違いない。
日本と中国の関係が変化したとはいえ日本人は謙虚で外交上不利になると分かりつつも武力による解決を図ろうとしない国民性を持っている。中国側からしてみれば第二次世界大戦の敗戦国であり自国に対して満足な補償すらできない国が常任理事国入りしたこと自体が業腹であったが、中国に対して国土返還を求め国際裁判で日本の国土として認められた事案を除けば中国にとって日本は御しやすい国であったことは間違いない。
今回の作戦で得られるはずであったギフトに関する情報の入手もできないし、日本独自に開発を進めている超電導コアを搭載した二足歩行型戦術兵器【大和プロトタイプ】の情報も得られないままだ。盗聴天国と言われた日本だが防諜に関する国家機関もでき、極秘開発されている超電導コアについてはさまざまな憶測を呼んでいる。友好国であるアメリカですら詳細をつかんでいない。
地球外生命体が乗っていた宇宙船のコアであり、日本がたまたま発見して構造解析をして従来の方式とは異なったエンジンの開発に成功したというのが有力ではあるがアニメを文化的輸出品としてきた日本らしい荒唐無稽な話だと馬鹿にしていたが中国情報部が集めた情報は確度の高い情報として上げてきた。
軌道エレベータに莫大な予算を掛けて建造したが、事故により中国の富裕層の多くが死亡した。李国家主席の支持基盤である富豪も含まれておりこのままだと自分の政治的基盤を守るだけで精いっぱいになる。そうなるまえに金に目が眩んで過去起きた戦争の補償も満足に行わなかった日本から搾取して何が悪いと考える李国家主席であったが完全に逆恨みでしかなかった。
この不正規作戦は李国家主席の命運と中国の命運ばかりかアジアの命運も握っていることを自覚していない。
木野林檎の身柄は中国が日本に対して行う交渉のカードの一つであり、作戦が失敗した時点で北朝鮮へと責任を押し付けてしまえばいい。未だに一族による独裁国家を維持している生活水準は向上したが、核を無効化され、有効な軍事力を失った今では、現状を維持するのも精一杯であり、中国が支援を申し出れば、良いように踊ってくれた。
中国がずっと所有権を主張していた島が国際裁判所の判決によって奪われてから共産党の影響力は中国国内において弱くなった。第五世代ジェット戦闘機の開発が遅れ日本に航空戦力で負けたということも否定できない。島国である日本は国土防衛のために高価な機体を買う傾向にあり第五世代ジェット戦闘機のF-22を配備しようと躍起になっていた時期があった。しかし日本は自国の技術の粋を集めたステルス戦闘機の開発に成功してしまう。
アメリカとしても日本の軍需は捨てがたいものであり、計画を何度も妨害してきた経緯がある。友好国として日本が強くなることは歓迎できるものであったが、自国より強大な国ができることは望んでいなかったため、ライセンス製造していたものはアメリカで活躍している戦闘機のスペックよりも低いものだ。このときアメリカは妨害でなく協力していれば良かったと後悔することになる。
先進技術確証機(ATD-X)はスペック上ではエンジン技術の劣る日本がF-22の機動性を超えることはできないが隠密性では優れていた。機体開発に莫大な費用をかけており開発費用の回収の為に他国に対してライセンス販売を行うのが通常だが国防のために開発した機体を他国に販売することに反対したのは開発自体を渋っていた日本国民だった。
さまざまな要因から妨害を撥ねつけ開発に成功した日本は軍事的優位性を持つことになる。アメリカは車も何もかもが大出力ではあるが、燃費も当然悪い。日本は寧ろ出力を抑え、燃費をいかに向上させるかが命題みたいなところがある。食品自給率も低くレアメタルなど産業の穀物さえ海外に頼らなくてはならない状況において節制は当然の成り行きだった。中国・韓国といったアジア周辺国に辟易していたこともあるだろう。
もちろん航空戦力を含めた軍拡は当時の中国を刺激した。靖国神社参拝問題や歴史的相違からの衝突は免れないかと思われていたが、日本の技術力は当時も認められていたし現在でも認められている。近代化が進むにつれて欧米化が進み、弊害として年功序列制度・終身雇用制度の崩壊は日本に少なくない経済ダメージを与えたが、第二次世界大戦で敗戦国となり、焼け野原から短期間で先進国になった人の意志は引き継がれていた。
真面目な性格だと世界的に認識されていた日本と世界中でやりたいように振る舞う中国、国際世論が日本に味方するもの仕方がないことだった。日本は自国で地震があったときも自衛隊を派遣し災害支援をおこなったが他国で苦しむ国があれば必ず救いの手を差し伸べてきた。今の後進国では電気も通っており文化的な生活ができているのに対して当時は予防接種を受けるだけの経済力があれば脅威でも何でもない病気で亡くなる子供は少なくなかった。明日食べるものもなくストリートチルドレンとして盗んで生活をするか、仏教徒の多い国では喜捨を受けるために組織的に運用がされ、お金を貰う為に片腕や片足を切り落とされてしまう子供の少なくなかったと聞く。
二一世紀初頭であればまだ中国に味方する国は少なくなかっただろう。アメリカも人種的な問題を抱えている男性優位の社会が形成されていた。女性が大統領になり、黒人の大統領が誕生した頃は積極的に報道されたものだ。共産党が力を持ち、言論統制を国民に強いていた中国政府。有名大学に入り有名企業に入る。確かに出世することは男性だったら夢見るものだし男女同権であれば問題はなかったのかもれない。とある国の財閥のナッツリターン事件を始めとして特権意識が強い国はまだ当時は存在していたのだ。日本でも経済政策に成功したとして支持を集めた総理大臣が居たが、親や祖父から票田を受け継いだ二世・三世議員による問題もあった。不正経理が発覚した大臣や号泣会見を開いた議員までおり当時の若者の政治に関する無関心さはどうしようもなかった。
変えたのは女性総理大臣であり才女として知られていた石井総理だった。日本に良くある名前から庶民総理として人気があった。名家の生まれで何不自由なく暮らしてきた者たちとは違い、母子家庭で生活保護を受けて生活していたぐらい貧しい生まれだった。底辺ともいえる環境から総理大臣の地位を射とめた彼女は現代版のシンデレラストーリーとして囃したてられたがあくまで弱者救済を掲げ実行した手腕は現代でも評価は高い。
追いつめられている李国家主席は本来ではやるはずのない博打に出ることになる。秘書に人民総会の手配をさせ日本への正義の鉄槌という名の拳を振りおろすことになる。自分の首ばかりか国としての体面を潰すことになることはまともな神経をしていれば分かるはずなのにも関わらずに。




