十二話
大志がしたことは自己のギフトを使用して林檎救出をすることであり許可さえ下りれば要達が行っている情報解析を遥かに凌ぐスピードでの情報処理を行うことができる。情報処理特化型VRインプラントは楓が作ったものでギフト大志の脳に適応するように魔改造されている。ギフトを使うことで要がもつ複数処理を擬似的に再現することもできる。
脳を強化することから強化系のギフトに属するこのギフトは既存の機械であればある程度のことを理解することができる。さらに未知の機械でも構造解析を補助しその分野の権威であっても追いつくことのできない速度で理解することができるのだ。楓が作った未知の存在であったVRインプラントをギフトホルダーに限定されるとはいえ使用に耐えられるように改良したのは大志で協力がなければ実用化は年単位で遅れていただろう。
同様のギフトを持つギフトホルダーはいなくはないが、大抵の場合すでに組織に所属し、機密を盾に非協力的な企業も少なくない。倉橋楓が所属する才能研究機関でもギフト解明のために大志の協力を求めているぐらいである。大河が自衛隊で自分の後継者に望んだように楓も自分の研究を手伝わせることで国益に適うように調整してきた。ナノマシンの権威である京都大学の吉田匠教授と共同開発したのがVRインプラントだった。この技術は未完ながら次世代デバイスとして期待されている。
持ち運びに場所をとることはないし電源も体内に持つ微細な静電気を元に勝手に充電する。体内を循環し医療用のナノマシンとしても運用できるもので日本の技術の粋が集まっている。携帯電話が普及した頃にはショルダーバックで場所も多くとったが電池の改良により小型化し電話機能だけではなく、メール・WEB閲覧・お財布携帯などの様々な機能がついた。そんな携帯電話もスマートフォンが出たことによりガラゲーと呼ばれ市場から排除されていった。当時の熱狂は新発売の携帯に徹夜で並び転売を行おうとした人間がお尻ポケットに入れていただけで画面が歪むという不良で自殺者が出た程の入れ込みようだったのだ。
体内に入っていることで外部的なセキュリティ問題は大部緩和されることになる。従来の形態と違いナノマシンによる個人認証がなければ起動すらしない。これは国が個人を特定するための技術が応用されたものなのでセキュリティは堅く軍用に使われているものと遜色のない機能を持っている。
このような背景があって父である大河は迷う。本人が協力を申し出て、国の一大事となりうるこの状況において一部の人間に限定して能力を発揮させるのは悪い選択肢ではない。大志の身を護るためヤタガラスの隊員を派遣しているし超能力開発幼年学校を卒業しそのまま自衛隊士官学校に入学すれば国の庇護を最も受けやすい立場になる。子供の間というある意味で自己の身を護ることのできない期間はいくら大河が現役の陸将補だとしても警備に問題がない訳ではない。倉橋本家で教育を行い庇護を与えるにしても自由がある分、外国からの敵対行動に対する防御は薄くなる。
だから大河は無理矢理といってもいい感じで一般学校ではなく、超能力開発幼年学校に入学させた。ノーマルの者にとっては羨望の的でありギフトホルダーにとってはエリートコースの登竜門となる。大志に学ばせる環境は最高のものを与えたかったという親心でもあった。自身がダブルホルダーである大河はギフトホルダーの有効性は何も軍事的・技術的な才能に関わらないと考えていたが、ギフトの与える社会的影響は大きかった。犯罪者がギフトホルダーであればその凶暴性を放置していたと批判の的になり、ギフトホルダーからしてみれば犯罪者でもない自分達の権利が侵害される事は望まない。世論を形成する新聞社やテレビ局にも旭会の息がかかっており国民の不安もあって偏向報道を政府が主導して抑えることもまた難しいのだ。
才能を伸ばさないのはもったいないしこのころVRMMOで身近な存在になっていたゲームの中で言うスキルは生きていくなかで必要不可欠ではないもののあらゆる面で有利となるのは間違いない事実だったのだ。初期の頃の対応も新人類かどうかなどの議論より多くの人にギフトホルダーは同じ人間でありギフトは個性に過ぎないということを世論として浸透させるべきだったのだ。今でも人種差別は残っている。それに加えてギフトホルダーかノーマルかによって不毛な差別をする必要はない。日本でも潜在的な脅威の反ギフトホルダー団体である旭会を排除できていないが、あくまでも親皇族派であり象徴としての役割しか持たなくなってから千年以上経っている今では内乱を起こしてもあまりメリットはないが警戒をゼロには出来ない厄介な組織だ。
日本は琉球・アイヌなどの一部を除けば建国からの殆どの時間を単一民族で過ごしてきた。アメリカみたいにイギリスから独立し、様々な人種が住んでいる国とは違い、宗教的な差別は少ない。昔は被差別部落の問題で特定の政治家を非難する人種は存在し、中国・韓国を毛嫌いする人間はいたが問題が表面化してもデモなどの平和的な解決手段において解決しようと努力する民族だ。良く言えば大らかな気持ちで他者を受け入れる民族で悪く言えばあらゆる面において無頓着といったところだろうか。
中曽根は従来通りの親米国家としてアジアの経済大国としての責任を果たしていくか、独立国家として第三次世界大戦の引き金になる可能性を理解しつつも中国・韓国などのアジアに対しての積極的な発言を行っていくかの決断を迫られることになる。常任理事国入りしてから積極的に行っていたがあくまでも常任理事国は第二次世界大戦の戦勝国であり、敗戦国で理事国入りしたのは日本だけだ。
発言力は以前と比べるまでもなく大きくなったが、他国に下に見られている現状を完全に払しょくできていない。超電導コアなどのオーパーツが国内で発見されリニアモーターカーの原理を用いて実用化したが、技術の革新的なところは公開していないが大和プロトワンに代表される二足歩行型戦術兵器や宇宙船の動力になっている。昔のアニメにあったSFに近い世界は人類が確認出来ていないだけで確かにある。
日本を渦巻く環境は一つの隕石を契機に変わっており、この隕石が北極に落ちていなければ技術的な優位性は持っていても人口の減少や少子高齢化に対応できる手段を持たなかっただろう。表向きの平和が訪れてから千年近く経っていたが長い間の冷戦に近い状態であったことは否定できない。アメリカの庇護を受け、積極的な発展途上国に対する技術支援を行うことで敵を減らし味方を増やして来たにすぎない。
対中関係もそうだが対露関係にも転換期が訪れているのは間違いない。中曽根の内閣総理大臣としての判断や中国の李国家主席の行動、如何では第三次世界大戦が起きる可能性も否定できない。日米を中心とした国家群と中露を中心とした国家群での戦争は昔の戦争と違い地球を滅ぼす可能性がある。EUはあくまでも中立を貫くだろう。
できることなら闇に葬りたいのは世界大戦など利益が確定していないばかりか負ければ大きな損害を被る博打を打てないし、対価は国民の命であり生活だ。どんな剛毅な政治家でも独裁国家の国家元首でもないかぎりこんなことをしても得はない。技術の発展により日米がかなりの額を出資している火星移住計画も進んでいる。
地球の環境破壊を行わない範囲での開発も進み再生可能エネルギーも積極的に使っている。人が二人いれば意見は対立し解決するための話し合いであり、譲歩である。国益を損なわない為にこれ以上の譲歩は必要ないし国民感情を考えると今の状況でさえ売国奴扱いされてもおかしくはない。
中曽根は決断する日本の真の独立のために国家として中国と武力衝突を辞さない構えで交渉することを。後の歴史学者は中曽根のことを勇気のある決断をした総理と評するか愚鈍な判断をした総理として評するかは分からない。ただ言えることは、日本は中国・韓国を対象とした政治的判断の転換期が訪れているだけだ。
大志の話を聞いた大河は自衛官としては政治的な判断は自分がすることではないと考え父、源三を通して中曽根総理が判断すれば良いと考えた。三分間この時間は大志の提案する作戦の有効性を考えた時間であり同じく話を聞いた中曽根総理の決断に要した時間である。周囲の人間はカップラーメンができるわずか三分間に日本としての方針が完全に決まった事を知らない。ここからの主導権は日本が持つことになり要らぬ嫉妬を買わない為の地盤固めも数百年かけて行われてきた。超能力開発幼年学校で木野林檎が失踪してからの一連の事件はここから解決へと向かうことになる。
この先の将来がどうなるかなど神であらざる人の身では予知できる訳がない。できるのであれば無事に救出しPTSDなどの問題がでないように祈ることしか大志にはできなかった。




