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十話

外務大臣である源三の役割は中国大使を通じて今回の騒動に対する中国の対応である。大使館の大使を首相官邸に呼び出して話を聞かないことには解決の糸口さえない。それが中国の不正規作戦を成功に導く可能性が高くなるとしてもだ。


源三は事務次官に命じて十時に大使を首相官邸に出頭させるように手配をさせる。中曽根はなんとか中国の主席と対話の道をとろうとして李国家主席との会談の設置を画策するが中国の反応は冷淡だった。しかも自国の人間が不当に拘束されているとして日本に対しての非難声明と人民解放軍の派遣を匂わせてきた。


この対応にはさすがの中曽根も頭に血が上ることになるが政治家として自国民の救出を優先させるだけの頭はあり総理大臣を務めるだけはある。アメリカの軍事的協力は現時点では必要ではなかったが念のため日米間で設置されているホットラインでアメリカ大統領であるジョージ・ブラウンへと連絡だけは入れることにする。


アメリカからしてみてもアジアにおける日本の役割が重要なのは不変なものだ。世界の大国を自称する中国やロシアを抑えるだけの力を持つ日本は戦略的にも重要なものになる。


「中曽根総理。要請があれば我がアメリカは在日米軍を自衛のために行動することは吝かではない。」


翻訳機の発展によってそれぞれの言語で話していてもタイムラグは少しで済むようになっている。


「分かりました。中国の対応次第ですが、その際には協力をお願いします」


自衛隊が日本の軍隊として正式に活動できるようになってから在日米軍の数自体は減少した。日本の国税で支払われていたおもいやり予算の金額も少なくなったが、自国の消費以外でも他国に販売できる程の天然資源を持つようになった日本とアメリカの関係は対等となった。


日本は核を持たないがアメリカは核を保有している。形骸化されつつある核の傘だが、日本としてもアメリカとの関係をわざわざ悪化させることもないので距離をとりつつも協調できる信頼関係を築き上げていた。


日本国政府としては国民である木野林檎が返還されれば今回の事件は闇に葬っても良いとすら考えていた。アメリカに頼らずとも日本の独力で解決できる事案だと考えていた。情報が集まるにつれて内部犯による誘拐という線は消えていた。


現在位置の把握はできなかった。ナノマシンで調べることができるとは言ってもナノマシン自体に細工をされてしまうと手が出せない。ナノマシンを破壊するとなると専用の機械ないしは設備が必要になる。注射タイプにして持ち運びすることもできなくはないが目的のナノマシンだけを破壊するとなると出来てから時間を置かずにことを運ぶ必要がある。国家機関に勤める技官が作成したナノマシンは高性能で破壊されたことを即時に政府機関へと発信する役目を持つ。


国家規模の技術力がある組織でないと破壊されたことを悟られずに現在まで隠し通したことの説明がつかない。機械操作のギフトホルダーによる犯行の可能性も否定できないが体内に埋め込まれるナノマシンも超能力幼年学校に設置されている機械の殆どが対ギフト仕様の高性能品なので熟練したギフトホルダーでもない限りは誤魔化すことは難しい。


林檎の現在位置を知っているのは誘拐犯のみであり、唯一の救いは、日本国内にまだいるだろうということだ。国外に出るためには合法的には個人ナノマシンの認証がないと出国できずまた入国審査の際に必ず必要となる。ナノマシンを壊すぐらいの組織なので非合法なことを平気で犯す可能性は否定できなかったが、国内でもっとも強い【ダウンジング】のギフトホルダーに政府が依頼を出し捜索したところ。少なくとも日本国内にまだ潜伏していることは確実らしい。


探す対象の情報が多いほど正確な情報を得られることができる能力ではあるが、ギフトを無効化するギフト【ギフトキャンセラー】があれば誤魔化すことも可能だ。ギフトキャンセラーは稀少能力ではあるものの身体能力は普通の人間と変わらず、対ギフトホルダーに特化した能力なので使いどころは難しい。ギフトキャンセラーの発現状況を解析し人工的に作り上げたものがギフト無効装置(GID)でありその本家となるギフトキャンセラーの効果は高い。


有効範囲は能力者次第では広範囲に及び効果時間も長い。このことから敵対する可能性があるのは中国・北朝鮮・ギフト至上主義を語るウロボロスに限られることになった。この会議が始まった時点で拿捕された船員の身柄は海上保安庁から海自へと移送され自衛隊員のギフトホルダーによる尋問が始まっている。情報も少しずつではあるが上がってきている。


拿捕された船の船長は中国で漁業を営む一般人であり今回、日本の東京湾に入港したのは大金を積まれて依頼されたからだ。以前、日本の排他的経済水域で密漁をしていたところ海上保安庁に拿捕・強制送還となった。海には国境はあるが物理的なものではなく、日本の領海においては海自・海保が護衛艦を出して守護しているだけに過ぎない。密漁者からしてみれば拿捕されることは確かに恐ろしいことではあるが、警告に従っている限りは海自も船の撃沈はぜず曳航して捜査の後、罰金とともに強制退去になるだけである。


それであれば、中国で真面目に漁業をするより遥かに稼げる密漁という手段に出るものがいても可笑しくはない。世界からしてみれば未だに捕鯨を続けている日本人のほうが奇異の目で見られるし自国の水産資源は自国の戦力で守るのが世界の常識だからだ。


金に困ったところで密漁に出かけその先の日本でわずかな漁獲量しかない状態で罰金を支払うことになり、困っていたところに今回の話があったそうだ。船長もやばいことに首を突っ込んでいることを承知していたが、他に手段があったわけでもない。同じ町の漁師の何人かはこの船長と同じような話を受けており問題なく報酬を受け取ったそうだ。その人間もちゃんと生きているし余計なことを口にしないことは生き残るための処世術でもある。


一般人の船長は船の荷として連れて来られた五人の素性は知らないし逃げた三人のギフトホルダーの行方も知らないと供述しているらしい。サイコメトラーのギフトホルダーが現れ、素直に供述すれば減刑を行うと言う司法省職員の言葉により司法取引に応じた。厄介なのは船長と同じくして逮捕されたギフトホルダーの二名だ。此方はGID管理下の元に置かれていたが人民解放軍の一般兵士と違い、ヤタガラスや【四獣】と同じ人民解放軍の特殊部隊所属らしい。


特殊部隊の隊員とは言っても練度はヤタガラスに比べると遥かに劣り、ギフトホルダーの特殊部隊としては先進国最弱クラスだろう。練度の低い隊員を派遣していた可能性もなくはないが中国という大国がするにはお粗末すぎる作戦だ。中国・北朝鮮の合同不正規作戦とみた方が納得できる。中国・北朝鮮船籍を持つ船に対して海上捜査権を持って強制調査を行うため、緊急動員を閣議決定した。


アメリカも非公式ながら在日米軍を動員して中国に対してのけん制を行ってくれることとなった。中曽根と源三の成果でもあり、同様の事件を起こさせない為の威嚇である。法務大臣は国際裁判所への提起を考えており国際人権高等弁務官事務所との綿密な打ち合わせに入っている。常任理事国による拒否権の発動は可能だが、日本・アメリカ・ロシアはギフトホルダーに関わらず表向きは自国民を護ることに対して拒否権を発動させるわけがない。


多くの証拠から当事者と推定されている国がする対応にしては中国の行動には穴があり、義務教育を受けたぐらいの知能があればどこの国が悪いのかなんて一目でわかる。今回、中国がこのような事件を起こしたのは日本に対する警告また技術の進化によって実現された宇宙エレベーターの使用権に関することが発端なのではないかと中曽根は考えていた。日米で開発された宇宙エレベーターは宇宙ステーションまでの移動を簡易化させ宇宙旅行を身近なものにした。一般時に開放されている区画しか立ち入ることができないが、国籍に関わらず気軽に楽しめるようになったことは進歩の証だった。


中国・ロシアも独自に開発を進めていたが日本の企業が開発したカーボンナノチューブは宇宙まで伸ばすという巨大な構造物を作るためには必要不可欠で応用の高さから莫大な特許使用料を支払わなければならない。飛行機では墜落しただけでも一大事なのに大気圏を超える場合において構造物の欠陥は死に直結する。ロシアでさえしぶしぶではあるが日本の企業に特許使用料を払い独自開発しているのに中国は関係なしといった様子で特許内容から得た構造を模倣して宇宙エレベーターを完成させた。


結果は散々なものだったらしい。日本は職人気質の技術者は少ないがまだ残っている。そんな職人が作ったものを他の技術者が真似て超えることができるはずもない。著作権しかり特許権しかり問題行動が多くたびたび批判の対象となる中国を各国はあえて救いはしないだろう。案の上、事故が起こりその時に中国の富裕層が二百人あまりが亡くなった。


日本とアメリカはまだ実験段階で十分な硬度が得られないとして電車でいうレール部分を作り、燃料の節約に努めるだけに過ぎない。事故の対策として自力帰還できるよう燃料も予備が積まれ大気圏突入が可能な能力もある。中国は世界で最初に宇宙へとつながる橋を造った。強度がなく途中で自重に耐えられなくなり捩じ切れたのがこの事故の原因であるとNASA・JAXA職員の報告を受けて有識者はそう結論付けた。


内外ともに追いつめられた中国のとばっちりを受けた日本は堪ったものではないが一番の被害者は誘拐された木野林檎なのは間違いなかった。


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