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七話

十二月十日、午前三時

要は自分に与えられた個室で一時間の睡眠をとろうとしているところに侵入してくるものが居た。校内には特殊部隊員が用意され巡回している。そもそも厳戒態勢のなか構内に入れた時点で学校関係者か自衛隊・警察関係者ということになる。


目の前の男の事を知っている訳ではないが要には確信があった。木野家は一般的な会社に入社することも多いが海自に入隊する者も多くいる。襟についた階級章は三等特佐を示しており日に焼けた肌から海上自衛隊で働いているものだと予想した。その予想が的中していると厄介ではあるが頼もしい仲間を手にしたことになる機先を制するためにも要は自己紹介をする。


「私は本学校の警備責任者を務めています仙崎と申します。違っていたら失礼ですが木野雄三きのゆうぞう三等特佐ですか?」


名前を知られていたことに驚く雄三だが本来関係のない海自の三等特佐がきたことで予想したのだろうと考えた。倉橋大河陸将補の副官を務めていたのは伊達ではなかったと認識を改めることになった。


「その通りだ。本家の子女の林檎が攫われた可能性があると聞いて護衛艦、すばるの指揮権を部下に任せて来た。海保からの情報だと不審船が東京湾内に侵入しようとして拿捕されたそうだ。海自には応援の連絡がきたから確かな情報だろう。」


関係のない密漁船の可能性もあるがやつらは一〇〇〇年以上前からサンゴ礁や排他的経済水域での活動をしている国だ。海域に詳しくわざわざ捕まるような真似はしないだろう。


「その密漁船の船籍は分かっているのですか?」


頭を横に振る雄三。


「今のところ分かっているのは米国でないということだけだな。アメリカであれば地位協定が改められたとはいえ友好国であることには間違いない。非正規部隊でもない限りは強硬策にはでてこないだろう。海保から情報を得ないと分からないがギフトホルダーの拘束もしているらしく状況だけで見ると一番怪しい。」


情報をまとめる要。不審船を拿捕した時刻と林檎は居なくなった時刻の一時間後であり不正規作戦を行っていたとすると状況は悪くなるばかりだ。海保がなんとか拿捕したものの数名には逃げられており、海保・海自および東京都内で警察官による不審者の捜索を行っているらしい。林檎捜索のための人員も不審船の逃亡者の捜索に割かれているだろう。


「わかりました。状況は良くないです。GIDによる捜索権限をもつ都知事に対しての保護要請も超能力管理局部長が渋り倉橋大河陸将補の伝手を使い現在手配中です。木野三等特佐には直ちに海自に戻り不審船情報と海保への情報請求を実施してください」


「了解した。此方も全力を尽くす。」


退室し自分の成すべきことをするために行動を始める木野三等特佐の背を見送りながら要は事件の事を考える。


要は既に管理部長を役に立たないと判断し情報の統制を行っている。余計なことをされて足を引っ張られても困る。大国意識の強い国の事だ。自分達の思いのままに行かなくなり今回の暴走に出た可能性もある。もちろん旭会が関係している可能性もある。


幾重に渡る厳重な警備の裏をかいて林檎を攫った連中だ。この時点で林檎の自発的な失踪という可能性は消えていた。まだ誘拐犯から要求がないのがおかしいが林檎を攫うこと自体が目的ならわざわざ犯行声明を出す必要はない。自国に帰ってからでもおかしくないし旭会の仕業であったなら末端の仕業で警察もしくは自衛隊員に内通者が居る可能性があることを示している。


後者の可能性はかなり低くなっている。国内であれば警察権を行使して司法で裁けばよいことだ。一人の子供を誘拐してもリスクに比べてメリットはゼロに近い。暴力的な団体ではなるが民主主義国家において言論の自由は保障されており思想が違うからといって問答無用で逮捕されるような国ではない。


前者の中国においてはギフト後進国となっている。人ばかり多いがもともと多くの隕石を手に入れることのできなかった中国では、ギフト保有遺伝子をもつ絶対数が少ないとされている。有用性を考えて大金を積んで得ようとしたが金に困っている国家ならいざ知らず日本・米国・ロシア・EUが渡すはずもなかった。


今回の凶行はそんな日本の態度に業を煮やしたと考えれば納得できる行動であり日本の対応としては林檎の奪還、木野家から寄贈された隕石の死守、中国に対する非難声明を出すことだろう。そのためにも都知事の保護命令であり実施の為に倉橋家が動いてくれるので心配していない。


午前四時についに都知事による木野林檎の保護命令書に署名がされた。総務大臣へと性急に面会を申し込み現場責任者として要が会うことになった。夜遅くに部下にたたき起こされた佐藤大臣は不機嫌そうだ。


「都知事の要請で総務大臣として木野林檎の保護に署名したがどういうことなんだね?しかも超能力管理局部長や局長を通さないのは越権行為ではないのか、たかが次長クラスにしては自分の権限を勘違いしているみたいだな」


佐藤大臣の言葉に絶句するしかない要。ノーマルな大臣としてギフトホルダーに対して差別的なことで有名ではあるが国の有事の際に要職に就くものがこの程度の危機管理能力しかないのかと呆れるしかなかった。倉橋大河の父である源三げんぞうは現役の外務大臣だ。大河と超能力幼年学校から行動を共にしている要からしてみれば、同じノーマルではあるものの佐藤総務大臣とは違い政治家として時には非情な判断もできる源三を尊敬しているし父のように慕っていた。


事件の経緯を説明していく要。佐藤大臣もある程度の理解を示したようだが、やはり部長・局長を通さず動いたことに不満そうだ。


「私は内閣総理大臣任命の護衛官です。とあるトリプルホルダー保護の任務に必要な権限は有しており、有事の際には超能力幼年学校の警備責任者としての行動を許可されています。保護レベルが低いとはいえ将来の日本を支えるギフトホルダーを保護するのは私の責務であります。」


要と同じような権限を有する者は内閣総理大臣の任命で決まる。そして超能力管理局の所属となるのだ。佐藤大臣が言っていることも間違いではなかったが才能保持者保護法で決められたことであり解任権も内閣総理大臣が持つ。


「で事態は分かったがそこまでする必要が本当にあったのかね?子供のすることだ。自発的な失踪という可能性もあるだろう。」


「それは現状ではありえません。大臣のお耳に入っているかは分かりませんが東京湾内にて船籍不明の船が拿捕されております。事件発生の関係性を考えると中国が関係している可能性があり他国による誘拐の可能性すら出ております。」


佐藤大臣は不審船が拿捕された状況を知らなかったようだ。連立政権を組んでいるとはいえ国枝防衛大臣と佐藤総務大臣の不仲は有名でありその関係を国家の要職に就くものが有事の際にも情報提供をしないという事態に陥らせてしまっている。


「そういうことであれば総務大臣である私の手にすら余るかもしれない。総理に危機管理室の立ち上げを依頼しよう。朝までには準備はできると思うがそれまでは自重したまえ。」


そういい残して去る佐藤大臣。忙しいなか呼び出され都内にある大臣邸まで来たのに暢気なものだ。内閣総理大臣に連絡が行くのすら夜が完全に明けてからで管理室の立ち上げは昼過ぎまでかかるだろう。


大臣邸を辞去してからそのまま倉橋家へと向かう要。倉橋源三に会うためだ。大河に報告してから積極的に動いてくれて都知事までに署名を働きかけてくれた。情報が集まるのは超能力開発幼年学校にある臨時指令センターだが、緊急の情報が入った場合は要に報告が行くように手配してある。


ヤタガラスの隊員に臨時指揮権を与え、最重要保護対象である大志の警護と厳重体制の維持を命じている。生徒達も何か起きたことは気づくだろうが内部犯の可能性がほとんどなくなっただけでも成果と言える。


都知事の署名と総務大臣の署名が貰えたことで捜査はしやすくなっている。都内に在住している警察官には緊急招集がかけられ自衛隊もスクランブル発進の準備を済ましている。領海・領空を護る海自・空自は哨戒任務に就き睡眠時間を削ってまで不審船・所属不明機の捜索に当たっている。


判明しているのは林檎が中国ないしは北朝鮮に誘拐された可能性が高くなったことであり、事態の収束にやっと国として動けるということだけだ。取敢えず源三に話を聞き睡眠をとることを望む要であった。


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