心霊体験
この話はほぼ100%ノンフィクションです。
私は幽霊を見たことはありません。でも、一度だけ幽霊の存在を信じた出来事があります。
今でも忘れることはありません。あれは今から十年ほど前、私がまだ中学生だった頃の話です。
私は父と母との三人家族で、その頃は団地に住んでいました。
今はもう売り払ってしまいましたが、薄緑色で二階建て。庭には小さな木があり、父が綺麗に刈り揃えた芝生が生えていました。そんなに豪華な一軒家というわけでもなかったですが、私にとっては何不自由なく生まれ育った、落ち着けるマイホームでした。
そんな私の家には、毎年お盆の時期になると、様々な親族が訪れました。私の家は父方の実家からも母方の実家からも近いため、お盆の時期になると、たくさんの親戚が先祖参りをした後、私の家にも泊まって行くのです。
中学生の頃はまだ父方には祖父が、母方には祖母が、元気に住んでいたので、わざわざ私の家に泊まりに来る必要はなかったのですが、私の両親が二人とも気さくで人と話すのが好きな人間であったため、親族は遠方から来た疲れを私の家で晩酌をして癒して帰るのです。
その日もお盆真っ只中でした。
お昼過ぎに、私の母の姉の娘夫婦とその息子ーーつまり私の母方の従姉妹家族ですねーーが私の家に遊びに来ました。
一瞬疑問に思われるかもしれませんが、私は両親が歳をとってから生まれた子なので、どの従兄弟とも一回り歳が違うのです。ですから、中学生の頃には従兄弟の子供は既に四、五人いました。
で、ですね。その従姉妹の子供ーー男の子で、私はよっしーって呼んでたんですけどねーーがね、多分その頃一歳~二歳くらいだったと思うんですけど、すごくかわいかったんですよ。
ようやく歩けるようになったけど、たまにハイハイもする。喋るようにもなったけど、まだ単語を連呼するだけ。っていう一番かわいらしい時期だったんです。わかりますよね?
その夜、従姉妹夫婦は私の両親と晩酌をしてました。多分20時過ぎくらいだったかな?
でね、従姉妹夫婦と私の両親とで話が盛り上がってる時にね、よっしーがあまりにも動き回るので従姉妹夫婦が気になり始めてたみたいなんですよ。
私一人っ子だったから、多分弟とかに憧れてたんでしょうね。
「みゆ姉(従姉妹の愛称)、心配しなくても私が面倒みるよっ!!」
って言ったんです。そしたらみゆ姉も安心したらしくて、
「ほんま? ならよろしくなー」
って私に任せてくれたんです。
私はそれが嬉しくなって、よっしーを自分の部屋に連れていったんです。
でね、私はよっしーを喜ばそうと思って色んな仕草をしたり、昔遊んでたオモチャを持ち出してきたり、人形を使って話しかけたりしたんですけど、何をしても全く反応してくれないんですよ。
当の本人はずっと一点を見つめてるんです。それもその一点っていうのが真っ白い壁で特に何があるわけでもないんですよ。
当時は私も子供ですから、全く相手にしてもらえないのが不満になってきて、少しイライラしながら、
「どしたのよっしー。ただの壁でしょ?」
ってよっしーの顔を覗き込みながら話しかけたんです。
そしたらよっしーは突然壁の方に手を伸ばして、
「じいじ、じいじ」
って言うんです。
ほんと、その瞬間は恐怖で心臓が止まるかと思いました。
でも次の瞬間涙が出そうになりました。
私の母方の祖父は、数年前に他界していました。
寿命を全うし、家族に囲まれた幸せな最期だったらしいのですが、幼い私にとっては優しくしてくれた祖父が突然私から離れていったように思えました。
だから私は拗ねて、お葬式も真面目に参加せず、お別れもちゃんとしませんでした。
幼すぎて、死、というものをちゃんと理解できていなかったのかもしれません。
それで私はとても大好きだった祖父とちゃんとした別れが出来ていなかったのです。
それがずっと心残りで、もし祖父が天国で怒っていたり悲しんでいたらどうしよう、と真剣に思っていました。
そんな中、よっしーは私の部屋の壁の方を指さして、「じいじ、じいじ」と呼んだのです。
私はもう涙を抑えることができませんでした。
「おじいちゃん。私の事ずっと見ててくれたんだね。ありがとう。私、頑張るからね」
ってよっしーが指さす方を向いて話しかけました。
この時、私は幽霊っているんだな、って確信しました。
それに幽霊って怖い存在ばかりじゃなくて、優しい、愛に満ちた幽霊もいるんだなって。
でもね、ノンフィクションであるこの話がそんなただのいい話で終わるわけもないんですよ。
お気付きの方もいると思いますが、よっしーにとっての祖父って私の母の姉の夫なんです。つまり私の祖父とは別人なんです。その人は今も元気に生きてます。それにそもそもよく考えたら、よっしーが生まれた時には既に私の祖父は他界してたのだから面識は一切ないんですよね......。
ということで、私の涙は完全に場違いなものでした。それに気付いてから私は幽霊の存在を確信していないに逆戻りしました。気付くまで、感動的な話として皆に話していたのは今となっても恥ずかしいです。
よっしーにとっても覚えた単語を言っただけなのに、その瞬間泣き出されたというカオスな状態だったでしょう。
でもいいんです。
こうしてネタ話として語れますし。
それに、もし天国があるなら私の気持ち自体は祖父に伝わったでしょうから。
という感じでしたが、どうでしょう?
個人的には実話の割にはオチがあっていいネタ話だと思うのですが……。
少しでも怖がったり、感動したり、笑ってくださったり、楽しんでいただけたなら幸いです。
今思ったんですが、これらの感情が混在しうる短編っていうのも珍しいですね(笑)
はい、どうでもいいですね。では、また!!