『偽物勇者、スカル討伐に向かう』の巻 そのさん
「ブツブツブツブツ」
「ぶつぶつうるさいです。それにブツブツ言うっていうのは本当にブツブツ言うもんじゃなくて小さい声で文句をいうものです。あなた馬鹿だからわかってないかも知れませんが」
「ブツブツブツブツ」
「うるさいです」
「だってよぉ!!」
「なんですか」
「なんでコイツも付いて来てんだよ!」
「コイツって何よ!!精霊様って呼びなさいよね!」
バクの三角帽子の縁に腰掛けていた精霊がギッとこちらの方を睨んでくる。
こちらも精一杯悪意のこもった眼差しを送り返してやった。
「お前みたいなチビに、精霊に対する淡い憧れを壊された俺の気持ちなどわかるものか!絶対にお前のことを精霊などと認めんからな!!くそう!美男美女ばかりだと聞いていたのに!!!」
「別にあんたに認めてもらわなくたって結構よ!あたしにはあの村の人たちからの厚い信仰があるもんね!」
「200歳近いババアが「もんね!」とかいうんじゃねぇ!!」
「バ・・・!?失礼ね!!!!!精霊族はあんたたちとは寿命が全然違うのよ!これでもアタシは精霊族の中では相当若いんだからね!!」
「若いんじゃねぇ!!チビなんだろ!!」
「意味がわからないわよ!!若いって言ったら若いの!!人間換算でせいぜい14・5歳程度よ!!」
「ガキかよっ!!ペッ!!!」
「ガ・・・!?こ、の・・・」
「精霊さん落ち着いてください」
「ア、アタシは冷静よ・・・」
「馬鹿と同レベルで話しても仕方ありません。ここは辛抱を」
「そ、そうね・・・馬鹿の相手なんてしてらんないわよね・・・」
「なんだよ!?バクちゃんこのチビの味方かよ!?」
「どうして私があなたの味方になるなんて発想が浮かぶんですか」
「やーい!」
「畜生!!!ホントこのチビ邪魔だなぁ!!!俺とバクちゃんのいちゃいちゃ珍道中を邪魔すんじゃねぇよ!!!!」
「誰がいつあなたといちゃついたんですか。舌切り落としますよ」
「やいチビ!!今からでも去れ!!!」
「お断りよ!!アタシは別にあんたに協力してるんじゃなくて、あくまでもバクの頼みでバクのためだけに付き添って来てるのよ!あんたにどうこう言われる筋合いはないわよ!」
「なんでバクちゃんのこと呼び捨てにしてんだよ!馴れ馴れしいんだよ!バクちゃん!このチビ強制送還しよう!今すぐ!俺コイツ嫌い!」
「今この状況で精霊さんに帰られたら、私たち死にますよ。私の術式じゃスカルを通さない結界なんか張れません」
「構わん!一緒に死のうバクちゃん!」
「絶対に嫌です。私は糞虫と死に遂げる気はないと何度も言っています」
教会から、三人で直接スカルの討伐に向かった。
薄暗い墓地のような場所に入っていったものの、そこには始めはなんの姿もなく、緊張していたのがバカらしくなっていた頃、突如としてスカルに囲まれる状況が発生していたのだった。咄嗟に精霊が張った結界によってなんとか一時的に難を逃れたとは言え結界は場所に固定するものであって移動が効くようなものではない。しかも、マナの消費は結界を発動する瞬間が一番多いらしく(精霊談)、結界内で範囲ギリギリの場所に行って張り直し、ジリジリ移動するというこちらの素晴らしい立案も却下されたところだった。現在、にっちもさっちもいかずに内部抗争中である。
「じゃぁこいつら俺が倒すから!全部倒すよ!だからこのチビ帰そうよ!!チェンジだチェンジ!!!」
「80体近いスカルに取り囲まれてて、どこからそんな自信が湧いてくるんですか?もうちょっと恐怖してください。生存本能に支障きたしているんじゃないですか?」
「そうよ!アタシが結界張ってなかったらアンタなんかとっくに死んでるんだからね!感謝しなさいよね糞虫偽物勇者!!」
「ほらもうバクちゃんが汚い言葉使ってるからチビッ子がすーぐ背伸びして悪い言葉真似したがる!」
「だれがちびっ子よ!!」
「お前に決まってんだろ!!!」
「バクだってあんたより小さいでしょ!!なんでアタシだけチビ呼ばわりなのよ!!!」
「お前とバクちゃんじゃ天と地ほどの差があるわぁああああ!!!バクちゃんバカにすんな!!!!こう見えてもバクちゃんは結構おっぱ――――――――――――ゲフゥッ!!!!!!!!!!!!!!!?」
「だまれ」
「すいませんでした」
「セクハラー、怒られてやんのー」
「うるせえチビ、はげろ」
「精霊ははげませんー」
「バクちゃん、俺本当にこいつ嫌い」
「私はあなたが嫌いです」
「俺はそんなツンツンしてるバクちゃんも大好き」
「反吐が出ます」
「ていうか」
「なんだよクソちび、俺とバクちゃんの憩いのひととき邪魔すんなよ」
「うるさい糞虫、バク、いい加減このスカル達どうにかしないの?」
「そうですね。いい加減どうにかしましょう」
「どうにかって・・・どうすんの?完全に囲まれてるんですけど。しかもこんなに遺跡の奥深くにまで入っちゃって退路とか絶望的なんだけど」
「あなたが倒すんです」
「俺が!!!!???????」
「アンタ道中のバクの説明聞いてなかったの!?」
「バクちゃんの横顔見つめててそれどころじゃなかったからな」
「得意げな顔してんじゃないわよ!バクが折角説明してくれてたのに!」
「ていうかなんでお前はさっきからバクちゃんに親しげなんだよ!!急に仲良くなってんじゃねぇよ!!!」
「今そんなこと怒ってる場合じゃないでしょ!!!結界だっていつまでももたないのよ!?さっきからスカル達が結界をねじ切ろうとしてるの見えないわけ!?」
「おうおうそんなことって言ったか!?俺にとってはバクちゃんの心中はスカル以上に大問題なんだよ!!!!俺のバクちゃんへの思いをバカにすんな!!!!!」
「馬鹿にするなっていうか馬鹿でしょ!!!」
「馬鹿ですね」
「バクちゃんが精霊サイドに味方を!!??」
「だから、私はあなたの味方をしたことなど一切ないんですけど」
「恥ずかしがっちゃってーかわいいー」
「バク、なんでアンタこんなのとパーティー組んでるの?」
「・・・さぁ」
「引っ込んでろにわか親友め!!!!」
「とにかく」
「バクちゃん怖い目して俺のこと見るのやめて」
「とにかく」
「はい」
「あなた結界の内側から少しずつスカル切り倒していってください」
「地味じゃねぇ!?」
「仕方ありません。本来は囲まれる前に私の術式で奥に吹き飛ばして、あちらを結界内に押し込んで一網打尽にする作戦でしたけど、こうなっちゃたんです。まぁ、別に結界から出て大立ち回りしてもいいですけど。1体もやれないうちに絶対死ぬと思いますが」
「結界の内側からですね、分かりました」
「プッ・・・」
「笑ったかチビィイイイイ!!!!!!!」
「勇者語っといてアタシの張った結界の内側からチクチク伐採作業・・・プッ・・・」
「そこになおれぇええええええええええ!!!!!!!!!!!」
「プークス」
「いい加減にしてください、もう結界ほつれ始めてるんですよ」
「命拾いしたなチビ、バクちゃんの冷静な判断に感謝しろ」
「どっちがよ、糞虫」
「絶対あとでお前をイカ墨のツボの放り込んでやる」
「早くしなさい」
「はい、バクちゃん、でもさ」
「剣じゃ倒せないんじゃないの?」
「・・・」
「・・・」
「・・・え?なに?どうしたの二人共?」
「・・・」
「・・・バク・・・こいつ・・・」
「え?何その目?やめて二人共」
「・・・」
「バク・・・落ち着こう・・・」
「私は冷静です」
「そ、そう?すごく怒ってるように見えるけど・・・」
「そうだよバクちゃん、怒るとシワ増えるよ?」
「誰のせいだと思ってんのよ!?」
「俺のせいかよ!?」
「アンタのせいよ!!!どうして教会でバクがあんたの剣に聖水ふりかけて慣れない精霊側の術式アタシから教わって、頑張って剣に術式かけてやったと思ってんのよ!!!!」
「えなにあれって何か必殺技俺の剣に加えてくれたの!!?俺てっきり剣が汚いから掃除してくれてんのかと!!?」
「なんでバクがあんたみたいなカスの剣の手入れしてやんなきゃいけないのよ!!」
「ややこしいんだよ!!精霊側の術式ならお前がかけろよ!!俺はバクちゃんがやっと俺にデレてくれたと思って胸がいっぱいでいっぱいでもう目の前も見れない有様で!!!」
「だから説明したでしょうが!!!!!!!!アタシは結界張るのに力を残しておきたいからバクが代理で精霊術式をかけたの!!!!!どんな状況になるかわからないから安全策で結界用のマナを温存しといたの!!!!!スカルを砕いた時に瘴気吸収できないように傷口に精霊術式で蓋をするの!!!!復活しなくなるの!!!!!!!!精霊術式は精霊の補助なしじゃそうやすやすとかけらんないの!!!!!そんでもってついでに補助があっても無理やり使う影響で相当痛みを伴うの!!!!!」
「ま、まじかよ」
「マジです」
「ば、バクちゃん・・・」
「なんでしょう」
「お、怒ってる?」
「あなたに関する事で私の感情がさざなみ程も揺れることは有り得ません」
「怒ってるよね?」
「・・・怒ってません」
「こりゃあ相当怒ってるわよ・・・」
「うるせえぞチビ」
「かわいそ・・・あんなに痛そうなの我慢して術式かけてたのに・・・」
「ぐ、ぐぅうううううううう」
「怒ってません」
「ぐぅ・・・ご、ごめんな?」
「怒ってません」
「あの、頑張ってスカル倒すね俺・・・」
「さっさとやってください」
「畜生喜んでぇ!!!!!!おうおうおう!!!!スカル80体!!!!おうおう!!!!お前らに現生の恨みはねえが!!体を張って男を立ててくれた乙女の前じゃこの世の悪を見逃すわけにはいかねえや!!!!何の因果かしらねぇが、ここで俺と会ったが運の尽き!!!せめて痛みを感じさせずに逝かせてやろう!!!俺は勇者!!!!この世の悪を断つ、唯一にして絶対の存在だぁぁぁああああああ!!!!!ご覚悟ぉお!!!!」
「なにあれ」
「なんか、必要な儀式らしいです」
「本当にアイツ脳みそ腐ってるんじゃないの?」
「腐ってます」
「ほんと、なんでバク、こんなやつと組んでるの?」
「別に・・・」
「弱み握られてるとか・・・あぁ!?馬鹿!!結界の壁に近寄りすぎ!!!もっと離れて地味にツンツンしてればいいのよ馬鹿!!!!」
〈うるせえ黙ってろぉおおおおおおおおお!!!〉
「・・・あいつに弱み握られてるとか?」
「いいえ」
「なんならアタシが良い戦士紹介してあげようか?」
「・・・」
「・・・?」
「まぁ、良いんです」
「そうなの?」
「そうです」
「え・・・もしかして・・・いや、その、ないと思うけど」
「なんですか」
「惚れてるの?」
「・・・」
「・・・」
「絶対に有り得ません」
「あの・・・間が・・・あとちょっとピクッて・・・肩動いたけど・・・」
「動いてません」
「顔、赤くない?」
「暑いだけです」
「ここ、寒いよ?・・・おああぁ!!!馬鹿!!!!!あんたが結界出てどうする!!!!早く戻って!!!!」
〈ぎゃぁあああああああ!!!!あぶねぇええええええ!!!!血いでた!!!!ちょっと斬られたぁあああああああ!!!!!!〉
「スカルへの憎悪で代謝が活発化してるだけです」
「そうなの?」
「そうです」
「あんなのに惚れちゃ人生台無しだよ?」
「当たり前です。あの人のどこに私を惚れさせるような魅力があるんですか」
「ないわね」
「そうでしょう」
「でも、ほら万が一ってことが・・・」
「ありえません」
「吊り橋効果的な・・・なんか偶然、天文学的な数値でおこる奇跡の展開でたまたま偶然ちょっとかっこいい姿みちゃったことがあるとか・・・」
「・・・」
「バ、バク・・・?」
「ないでう」
「噛んだ!!!?」
「ないです!!!!!!!!!」
「怒った!!!!!!!!!????」
「怒ってません!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「バク・・・」
「・・・なんですか」
「自分を・・・大事にしてね・・・?」
「・・・重々承知してます」
〈おいあと何匹いるんだよこれぇええええええええええ、バクちゃぁあああああああああん!!!!!!ちょっと手伝ってぇええええええええ!!!一回吹き飛ばしてええええええ!!!怖い怖い怖い!!!!!!すげぇ寄ってきてこわいいいいいいいいい!!!!!〉
「・・・」
「・・・」
「あ、いくんだ」
「いきます」
「優しいなぁ・・・」
「別に、これ倒せないと、私もご飯食べれないですし」
「応援しようか?」
「結構です」
〈バクちゃぁぁああああああああああん!!!!!!!!!!!!〉
「バク!」
「はい」
「ガンバ!!」
「・・・はい」