『偽物勇者、魔法使いを救いに行く』の巻 そのさん
「・・・」
「・・・」
ロッカは、未だに目の前で起こったことが信じられずに愕然とした表情のまま静止していた。
一方の精霊さんも、どうやら息を飲んだままロッカと似たりよったりの状況らしい。
「バクが、俺の事を呼ぶ」
そう言った、僅かの後に。
勇者が、目の前で忽然と消えた。
何が起きたのか、何もわからなかった。
消えた、としか表現ができない。
本当に、一瞬で、瞬きするよりも短い瞬間で、消えた。
「て・・・」
精霊さんが、ゴクリと喉を鳴らし言葉を紡ぐ。
「転移・・・したの・・・?」
ロッカはその言葉を聞いて、自分の動悸が一瞬にして跳ね上がる感覚を感じた。
「そんな・・・まさか・・・」
かろうじて、それだけを喉から絞り出す。
「でも・・・そうとしか・・・」
彼の事を、勇者だと疑っていたわけではなかった。
元々、私は馬鹿だから。
なんとなく、としか、言いようがないけれど。
なんだろう。
不思議な感覚だったのだ。
彼が、自分の事を勇者だと曰わった瞬間。
不思議な程に、違和感を感じなかったのだ。
自分で唯一信じられる、自分の勘が、不自然なほどに平然とそれを受け入れていた。
しかし頭では、どこかでやっぱり納得していないところがあったのだろう。
今、目の前で起こった現象に自分の胸は呼吸が苦しくなるほどに動揺をきたしているではないか。
これでは
これではまるっきり
「ゆう・・・しゃ・・・じゃないか・・・」
長い魔術の歴史において、転移を行ったことがあるとされているものは数人しかいない。
莫大な魔力を有し、それを制御する術を持ち、何者も追随することの敵わない唯一無二して絶対の存在。
常人では考えられないほどのマナをその身に宿し、他の魔道士たちが制約を受けるはずの限界をいとも容易く乗り越え、超常的な現象を指先の動き一つで引き起こす存在。
勇者と呼ばれる、大魔道士達。
突然変異のようにして、なんの前触れもなく突然この世界に誕生するそのいずれもが、奇跡的に、人々のためを想う心優しい存在であったことは人類にとって間違いなく歴史的に最上の幸運であったとされる程の。
同じ人類からすら敬愛されながら畏怖される存在。
「勇者・・・って、そんな、まさか、あいつに、そんな異常なマナなんてちっとも・・・」
精霊さんが、呻くようにして声を絞り出す。
間違いない、あの人は
あの人は
「勇者様だ・・・」
そう、ロッカが呟いた瞬間だった。
ゴォオオオオオオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!!!!
「!?」
凄まじい爆発が、砦のあった方向で起こった。
「な、なに!?」
「ば、爆発が・・・え!?」
バギンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
空に、爆発と同時に凄まじい勢いで巨大な氷柱が顕現した。
「な、なによ・・・なんで・・・」
しかし、それは
顕現したと思った次の瞬間に
「消え・・・た・・・?」
まるで元素から分解されるようにして、粉のように吹き飛んだ。
「な、なにが、一体どうなってるのよ・・・」
精霊さんが驚愕の表情のままそう囁くようにつぶやく。
私も、驚きと興奮で自分の頭がわれそうにがんがんと響くのを我慢するのに必死だった。
でも
「行こう!」
「え、え!?」
でも、あれは
「あれは」
あれは
「勇者様だ!!!!!」
「・・・え!?」
間違いない。
あの現象は
きっと
絶対
間違いなく
あの勇者様が起こしている。
恐らく敵が放ったであろう見たこともないような巨大な氷柱を
夢のように霧散させた不可解な現象
あそこに勇者様がいる
何かと、戦っている。
私の全身が粟立つのを感じる。
神経という神経が、興奮で脈動するのを感じる。
勇者様が、戦っている。
「勇者様が・・・あそこで戦ってるんだ!!!!!!!!!!!!!」
「ちょ、ちょっと!待ちなさいよ!!」
「勇者様!!!今しばらく!!!すぐに!!!ロッカが参ります!!!!!!!!!!」
「ちょっとー!」
そう
すぐに
この、ロッカが!!!!!!!!