『偽物勇者、魔法使いを救いに行く』の巻 そのに
「役たたず」
「むぅうううううう!!!!」
「ま、まぁまぁ・・・」
「能なし」
「ムキィイイイイイイイ!!!!!!」
「ゆ、勇者様それくらいで・・・」
「チビ」
「ウギィイイイイイイイイイイイ!!!!!」
「あぁ!?精霊さん!?勇者様噛んじゃだめだよ!」
「あん!耳はやめて耳は!!耳は弱いからやめて!!!」
「勇者様!?」
「キィイイイイイイイイイ!!」
突然の精霊の出現から数十分程が経過していた。
同時に、現状は混乱を極めていた。
「ええぃ!!!この!!うっとおしい!!離れんか!」
「グルルルルルルルル!!!!!!!」
「獣じゃ!!!獣がでおった!!!!」
「誰が獣よ!!」
「お前だ!!」
こちらの、役たたず精霊に対する罵倒が功を奏し(?)、精霊の奴は興奮状態にあった。
落ち着いて欲しいものだ、現在の状況をよく考えて欲しい。
「冷静になれ、この馬鹿」
「あんたのせいでしょうが!!」
しかし、精霊はさすがに興奮しすぎだと反省をしたのか、ブスッと可愛くない表情でかじりついていたこちらの頭からようやっと離れた。
「歯磨きしなきゃ。不浄だわ」
まったくもって可愛くないやつである。
「んで、詳しい現状は?」
「・・・わかんないわよ」
頭をさすりながら尋ねると、精霊は気まずそうに下を向いてしまった。
まぁ、それもそうだろう。
分からなくて当然だ。
「まいったなぁ・・・」
そう言って、もう一度ジンジンと痛む頭に手をやる。
精霊が現れたとき、バクが一緒にいないことに不安を覚えた。
こんな森の中で、しかも、村からも、街からも遠く離れている場所で。
バクのことだろう、精霊にそそのかされたどうかは知らないが、こちらをおってきたのではないかと。
「やりたくねぇ・・・」
予感は見事に的中し、バクは、既に敵の手の中だという。
総勢は不明だが、相当な数の敵がいるあの砦の中にバクがとらわれている。
しかも精霊の話では、相当高位な術を行使する魔道士のお墨付きだ。
その魔道士も、一人なのか、二人なのか、それともそれ以上なのかすらわからない。
「最悪の状況だぁ・・・」
手のだしようなど、無いように思われるような有様だった。
「・・・ごめん」
精霊が、下を向いたまま拳を握り締める。
悔しいのだろう。
自らが攻撃術式を展開したわけではなく、自らが攻撃しようと意志をもったわけではないらしい。
ドラゴンの子供が原因だと言っていた。
バクらしい間抜けさだ。
・・・。
精霊は悪くない。
話を聞いた限りでは、これ以上ないほどのサポートをバクに行っているように思える。
むしろ、咄嗟にそこまでの術式を選択して実行したこの精霊は称賛されるべきだろう。
・・・。
それでも、悔しいのだろう。
「気持ちは、わかるさ。まぁ落ち込むんじゃねぇよ」
そういうと、精霊はいよいよ歯を食いしばって目に涙を浮かべ始める。
何年ぶりなのかは知らないが、余程久しぶりに出来た友達なのだろう。
普段はお互いが認識できない精霊と人間の間で、なんの因果か巡りあった二人の間にはお互い以外は理解できない感情があるのかもしれなかった。
「さて・・・」
そういって気持ちを切り替えて砦の方へと目をやる。
あの丘からは今は離れているので先ほどよりも詳しい状況はわからなくなってしまっていたが、砦の方からはなにやら騒がしい声が聞こえる。
何かを打ち付けるような音が聞こえるのは、バクと敵の魔道士との術の衝突による被害を受けた柵を直している作業の音なのかもしれなかった。
「どうします?勇者様」
そういってロッカがこちらの隣に肩を並べる。
相変わらず能天気な声をしていたが、その表情は先ほどとは打って変わって真剣なものになっていた。
「・・・」
「正面からっていうのも、厳しくなりましたね」
「そうだな、バクが人質にいるからな。盾にされちまったらかなわん」
「どうしましょう」
「決まってる。」
「?」
「奇襲かけなきゃ、だろ?」
「奇襲って・・・こんな真昼間に?どうやってですか?」
「簡単だよ」
ロッカが、不思議そうな顔で首をかしげる。
「バクが、俺を呼ぶ」
「へ?」
「待ってろ」
「は、はぁ・・・」
「きっと、もうすぐだ」