『魔法使い、偽物勇者の後を追う』の巻 そのに
『なぜなに偽物勇者』(プロットの一部を紹介☆彡)
術式について
術式:人間術式、青色のマナを発動、精霊術式緑色のマナを発動、魔族術式、オレンジ色のマナを発動
術式は空気中などにただようマナを集積し、様々な媒介を通して発現する、通称、魔法である。マナには様々な種類のものがあるが、種族によって相性のいいマナは限定されており、精霊は木や風、人間は水や氷、魔族は炎や太陽と、利用するマナの性質に違いがある。また、術式には複雑なマナに対する理解と集積技術、開放技術が必要とされる。バクはマナの集積と解放に言葉と印を用いているが、これは、自分でマナをコントロールすることが苦手な魔道士が用いる、いわば初心者用とされる方式であり、術式に精通している熟練者などは詠唱や印をもちいず、時にはマナを発現する媒介すらも利用せずに術式を展開することができる。ただ、バクの印や言葉を用いるのは実際のところバクに魔法の才能がないからではない。むしろ■■秘密☆■■通常の人間には考えられないほどの魔力を秘めており、マナを絞り出すためというよりも、少しずつ水道の蛇口をひねるように魔力を取り出すために用いている。ただバク本人はそのことをよく理解できておらず(■■秘密☆■■)マナを暴走させて大爆発などを起こすのは自分が魔法の才能がないからだと思い込んでいる。赤紫のマナは■■秘密☆■■無意識に利用しているために発現している■■秘密☆■■である。この■■秘密☆■■といわれ、■■秘密☆■■用いることは現実には無理とされている。それを無理やり利用する事が可能なバクは、■■秘密☆■■のマナを制御しきれずに暴走させてしまうことも多々あるが、同時に通常では考えられない爆発力を生み出すことも可能なのである。
精霊さんが術式を展開し始める。
マナの光が精霊さんの周辺に集積し、バクのそれとは違った透明な緑色を発色していた。
バクはその光を目にしながら勇者の事を思い出していた。
初めてあいつと出会ってから、もう2年近くになる。
街の近くにいくと、いつも勇者と出会った時の事が思い出される。
思い出したくないけれど、忘れたくはない思い出。
自分の手足につながれた枷の冷たい感触。
打ち据えられた時の肌を切り裂くような痛み。
暗くてジメジメした室内。
これからの事を思って、絶望した時の気持ち。
周りにいる人など、誰も信じられなかった。
その中で、あいつは・・・、あいつは・・・。
「あ、ちょ、ちょっとバク・・・」
「・・・?」
「あ、あんた、ちょ、術式割り込んでる!!」
「!?」
精霊さんに言われた瞬間、慌てて自分の手元に目をやったバクは、持っている杖に精霊術式とは明らかに違う薄くぼんやりした青い光が集まっている事に気がついた。
しまった、と、思った瞬間にはもう遅かった。
いつも、こうなのだ。
あの時の事を思い出すと、うまく自分の感情がコントロールできなくなる。
恐怖や痛みや、あいつが来てくれた時の安堵や。
色々な感情が一気に押し寄せてきて、気持ちと一緒にマナを意思とは関係なくコントロールしてしまうことが今までにもなんどもあった。
「ややや、ヤバーイ!!!」
精霊さんが叫ぶ。
「・・・っ」
バクも、珍しく動揺を顔に表して、遅いとは知っていながら杖のマナを払おうと別の術式を上書きしようと試みる。
精霊さんも術式を中断しようと一瞬で別の印で上書きに入ったようだった。
「だだだだめだぁ!!!もう・・・発動・・・っ!!」
カッ!!!!!
と、バクの視界を一瞬で白い光が包み込んだ。
「っ!」
やってしまった。
よりによって、精霊術式に割り込んでしまうなんて。
何が起きるのだろうかと、悪い想像が一瞬でバクの頭の中に次々と駆け巡った。
爆発か、周囲が一瞬で凍結するのか、それとも、空の彼方まで吹き飛ばされるのか、何かを召喚してしまうのか。
マナの暴走で、予期せぬ術式の妨害で命を失うソーサラーなど、星の数ほどもいる。
こんなに予想外な場所で、なんにもない場所で、いきなり死ぬのかと、バクは一瞬のうちに、そう思った。
あまりにあっけない。
まだ
まだお礼も
言ってないのに
・
・
・
・
・
・
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「あ、あれ?」
「・・・」
「あれ、ここ、どこ?」
「・・・転移・・・した?」
「て、転移!?」
「だって・・・ここ、さっきまでいた場所じゃない」
固く目をつぶって自分を襲うであろう強烈な苦痛を覚悟していた二人に待っていたのは、急激な浮遊感と、一瞬で体をバラバラに分解されるような感覚と、そしてすぐ次の瞬間に再び体を引っ張る重力の感覚だった。
目を開けると、そこは先程までいたような街道沿いの光景ではなく、うっそうとした森が目の前に広がっていた。
「ててて、転移って。よりによってそんな高位な術が発動したの?あたし、飛行術式使おうとしただけよ?」
「・・・爆発が起きるより、マシ」
「そりゃそうだけど・・・術のレベルが違いすぎるわよ・・・」
「・・・うん」
「な、なんで転移なんて起きたのかしら、バクあんた一体なんの術式割り込ませたのよ?」
「・・・わからない」
「わからないって・・・まぁ、良いけど、ほんとなんでかしら?しかもなに?あのマナの色。」
「・・・え?」
「マナよマナ、バクが割り込んできた時に集めてたマナ!あんな色みた事ないわ」
「・・・?普通に、青いマナだったとおもうけど・・・」
「はぁ?全然違ったわよ?なんか、こう、紫って言うの?赤っていうか、なんていうか、魔族術式とも違うし、いやでも、どっちかというと魔族の術式に近いのかなぁ・・・あいつら橙色だし」
「・・・?」
バクは自分の手元を見つめる。
簡単な術式を展開してみると、そこに集まるマナはやはり青い色をしていた。
「あ、あれ?青いね、人間の術式の色だ」
「・・・」
「おっかしいなー、絶対そんな色じゃなかったと思うんだけどなぁ・・・」
どういうことだろう。
バク自身にも訳がわからなかった。
今まで、そんな事を言われたことなど一度もない。
勇者だって、そんなマナの色をみたなどと一度たりともいったことはなかった。
「まぁ、いっか」
精霊さんが気持ちを切り替えてあたりをキョロキョロと見回し始める。
それに釣られてバクも一旦思考を止め、精霊さんと同様にあたりを眺め始めた。
「ここ、どこだろ?」
「・・・さぁ」
「気候的には、さっきまでいた場所と違いは感じられないわね」
「・・・うん」
「案外近くに飛んだのかもね?」
「・・・周り、歩いてみよう」
「そうしよ、って、なに?あの音」
「音・・・?」
「ほら、聞こえない?音っていうか・・・んん?鳴き声?みたいな?」
そう言われて、バクも耳を澄まし始める。
「ほんとだ・・・これ・・・」
「なんだろう?随分、騒がしいような・・・?」
「これ・・・ドラゴンの子どもの声だ・・・」
「は、はぁ!?」
「行ってみよう・・・」
「え!?ちょ、ちょっと!危ないわよ!」
精霊さんの静止も聞かずに、バクはズンズンと森の奥へと歩き始める。
「ちょっとぉ~!危ないってバク!!!バク~~!」
精霊さんは、少しの間戸惑ってその場でウロウロとさまよったあと、しかし覚悟を決めたかのように喉を鳴らし、ヒュンと音をたててバクの後を追い始めたのだった。