『偽物勇者、盗賊退治に向かう』の巻 そのに
「あれか・・・」
「そうみたいですねー、んー・・・20人ってとこですか?」
「どうだろうな、建物の中にも大勢いるだろ。倍はいるんじゃないか?」
街をはなれ、森の中を進んで一時間。今、ロッカと二人で銀鴉団のアジトを見下ろせる丘の上に陣取っていた。
最近出てきたぽっとでの集団という割にはその野営地は頑強な木の柵で全体を囲み、大仰な見張り台を設置し、遠目ではあるがそこそこの装備を整えているらしい様子が伝わってくる。一体どういった目的の集団なのか。収入源はどうなっているのか。そもそも俺がなんであんなよくわからん奴らと一戦交えなければならないのか。
「ほんと、なんでこんなことに・・・」
「ん?どうしました?」
「どうもしねぇよ」
実際のところ、きっと勝てないだろう。
というか1人斬れるかどうかも怪しい。
剣の腕など自信はない。頭が切れるというわけでもない。
かと言ってバクのように魔法が使えるわけでもない。
詰んでいる・・・。
「しかし、なんだありゃ・・・」
「なんでしょうねぇ?」
よくよく見れば、砦の一部が盛大に崩壊している。まるで何か巨大な力に吹き飛ばされたようになっており、その先にある別の丘の地面まで削り取られたような跡が残っていた。
「巨人にでも蹴飛ばされたのかこの砦」
「さぁ?」
巨人がいれば、の話ではあるが。サイクロプスでも、さすがにあそこまで馬鹿でかいサイズのやつはいないだろう。
「ところで、どうやって攻めます?」
「・・・」
場違いな能天気笑顔を振りまいているロッカをみて、盛大にため息をつきたい気分になった。
ここまで来たのは良いが、つまらん見栄だった・・・。
ちょっと女の子の前で見栄を張りたかったばかりにこんなところまできてしまった。
無駄足だ。
こんなつまらないことで命を危険にさらすわけにはいかない。
なにせ、出来るかどうかはともかくとして、目標は魔王の打倒なのだ。
そして、王国に正式に勇者と認められることなのだ。
その暁にはバクちゃんを正妻に向かえ、大勢の妾達とウハウハ勇者様ハーレムを建設しなければならない。
どうして街の装飾品店にいちゃもんつけてた達磨のお化けが所属している義賊だか盗賊だかの相手をしなければならないのか・・・。
「おい、ロッカ」
「はい?」
「あのさ・・・あいつら、そんなに街に被害出してるわけじゃないんだよな?」
「どうでしょうねぇ・・・噂では色々と聞きましたけど・・・」
「どういう?」
「なんでも、人をさらってるとか」
「あの街の住人をか?いくらなんでもそんなことしてたら・・・」
「いえ、周辺の村や町からだそうです」
「はぁ、なんでだ?」
「さぁ~?なんででしょうね?さっきも言いましたけど、この街の領主様となにかかしら関係があるのかもしれませんね」
「伏線をはるな伏線を・・・回収するのがめんどくさいだろう・・・」
「・・・へ?」
「なんでもない・・・」
「どうしたんですか?顔色が悪いですよ?具合でも悪いんですか?」
「なんでもねぇってば、それよりだ、ロッカ」
「はいはい?」
「さっきも聞いたが、ここの奴らはそんなに街に対して被害を出しているわけではないな」
「はぁ」
「つまりだ、ここで俺たちが出て行って無闇に殲滅する必要もないんじゃないかと思うんだが」
「ダメです!」
「なぜ・・・」
「火のないところに煙は立たないんですよ勇者様!あいつら悪い奴らに決まってます!こんなところに野営地を張るような集団がいい奴らだった試しなど有史以来一度も存在しないのです!」
「発想が凝り固まりすぎだと思うんだが・・・」
「そんなことはありません!私の勘がそう告げているんです!」
「お前の勘などあてにできるものか」
「そんなことありませんって!私の勘はよく当たるんですから!」
「お前さっき俺のことを悪者と勘違いしただろう」
「そういうことも希にあります」
こいつ・・・。
「それにね、あいつらが人を攫ってるって噂を裏付けるようなこともあるんです」
「え?」
「近隣の村から、最近行方不明者が続出してるんです」
「ほう」
「しかも若い娘ばかり」
「許せんなぁ!!!!!!!!」
「どうも旅人が狙われているらしいですね」
「旅人?」
「ほら、最近冒険者って増えたじゃないですか。先代勇者様がお姿をお隠しになってから我こそは!っていう人がたくさん増えたでしょう?」
「お前みたいにか」
「そうですそうです。んでまぁ、その噂を調べてみると、所々でここの銀鴉団の名前が出てくるんですよねぇ」
「どういうことだよ」
「確定づける、っていう話じゃないんですが。町や村で銀鴉団と接触して、そのあとしばらくしてから消えたとか、銀鴉団といざこざを起こしてからしばらくしてから姿を消したとか、銀鴉団の連中がよく出入りしている酒場に寄ったあとに姿を消した・・・とか」
「偶然だろ?」
「どうでしょうね、わかりません。でも今ここで攻め込めば分かることです!」
「なんでそんな発想になるんだ・・・」
ロッカの超絶理論に頭痛が起きかけた。
その時であった。
「あ!!!!!!!」
あ?
「あんた!!!!!!なんでこんなとこにいるのよ!!!!!!」
あんた?
「この馬鹿!!!!!!!!!!!!!!!!」
馬鹿って・・・。
「せ、精霊!!!!!?わぁ!初めてみました!!」
精霊?
「大変なのよ!!!!なのにあんたなんでこんなとこで知らない女といちゃついてんのよ!!!!!」
大変って・・・。
「なんとかしなさいよね!!!!この糞虫!!!!!!!」
ロッカと俺の背後には
顔にタテ線でも入りそうな勢いで青ざめ、怒ってるんだか泣いてるんだかよくわからない形相で
「バクがつかまっちゃったのよ!!!!!!!!!!!!」
「・・・・・・・はい?」
精霊さんがアタフタとしていた。