十六章 春香と昨日=フォーエバー
(シャ―――――――)
ドアを一枚隔ててシャワーの音が響いてる。
ここは、どこかのガイドにも載っていて、星が何個も付いている有名なホテルの一室である。
シフエも客室までは、容易く入ってはこれまい。
(カチャッ)
シャワー室のドアが開き、春香が出てきた。
濡れた髪に、バスタオル一枚の姿で。
「――って、おい! 服くらい着て出てこい!」
チラリと見える推定Dカップの胸元に、程良い太さで色っぽいラインの太もも。
その全てが色っぽくて、普段見る事の無い春香の姿に不覚にも、うろたえてしまった。
「お互い、毛の生えそろう前は、よくお風呂に一緒に入ったじゃない。それに見られたって減るもんじゃ無いし」
「……それって、普通は男の言うセリフじゃんか」
今一つ、こいつには年頃の恥じらいが足りんな、色気は増してきたけど、相殺されてゼロ的な感じが非常に惜しい。
『見た目は可愛いのに』
こいつと会うたびに心で呟いていた言葉。
もっと端的に表現すると『口を開かなければ』美少女だと言いたかったんです、ハイ。
「へぇ~、照れちゃって、翔威も私に女を感じる年頃になったんだぁ」
そう言いながら両腕で胸を挟み、胸の谷間を強調しつつ正面から迫ってくる。
「やめんか――――い!」
春香の視線誘導にまんまと引っ掛かり、胸元を凝視していた俺は慌てて視線を外し。
そして迫ってくる春香の動きを両肩を掴んで封じた。
「私……翔威になら……いいよ」
昔から『据え膳食わぬは男の恥』と言うが――。
この状況って、まさに!って言うか、どうする俺!?
「あんまり、女に恥をかかせないで…」
おほ~、なぜに、こんなおいしい展開に?
ドッキリか? ドッキリなのか?
「いやっ、ちょっと落ち着け春香!」
「なんで?駆け落ちしたんだから、これくらい当然でしょ?」
「・・・・・・・・」
「・・・・へっ!?」
あまりに予想しなかった返答に、暫く思考が止まっていたような。
え――と、春香は俺が今連れ回しているのを、駆け落ちと勘違いしていると?
「あのな春香、そんなに事を急がなくても」
「翔威は、私としたくないの?」
うっひゃ――、バスタオル一枚だけの女の子に、ここまで言われて引き下がるのは男としてどうなん?
いやいや、今はシフエの襲撃に備えなければ。
「お楽しみは、まだ取っておこうよ。それより二人の今後を話合おうじゃんか」
「そうなの?」
潤んだ瞳で俺を見つめる春香。
ちくしょ~!シフエの件がなかったら、本能に身を任せたのに。
「本当に俺と駆け落ちしてもいいのか?」
シフエの襲撃まで、一時間弱か……。
とにかく今の俺は、この残り時間を使って春香の本心が知りたいと思った。
「翔威は、どう答えて欲しいの?」
春香は両肩を掴んでいた俺の手を外し、ベッドに勢いよく腰を落とした。
そして、その口調は、何かを諭すようだった。
「俺は……『たとえ、現実が今と異なっていようとも傍らにいるよ』って……言って欲しい」
春香の隣に腰を降ろしながら、自然と口をついて出た言葉だった。
「なんか、意味ありげな言いまわしね」
俺の顔を見つめながら、少し疑問視の春香の表情。
「いいや、単純な事だよ『いつまでも一緒にいる』って事だから」
この時、俺は照れくさくって春香の顔を、まともに見られず天井を見ていた。
「じゃあ、翔威といつまでも一緒にいるよ」
そう言うと、春香は天井を向いていた俺の顔を両手で挟み、自分の方に向けた、そして。
「……えっ」
シャンプ―の香りと共に近づいてくる春香の唇。
次の瞬間、俺の唇が柔らかな春香の唇を受け止めていた。
そして、そのまま暫くの時が流れていった。
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