十五章 僕と目的=ノーガード
「え~と…… おじさん、おばさん、春香は俺が責任を持って北海道まで送り届けるので、心配しないで先に行ってて下さい」
うわっ、勢いで出たのがこんなセリフとは……こりゃ、百パーセント却下だな。
「春香……行くぞ」
ええ~!おじさんってば、俺を完全スル―ですか? まさにアウトオブ眼中ってやつ?
さらにチラ見でこっちを見た時の、憐れむような視線は、まるで……。
『もう、この男は終わったな……、春香とは縁を切らせよう』と言っているようだった。
「ちょっと、待って下さいよ! おじさん、さっき言った事は本気なんです!」
なんとかここで引き留めないと、春香がバスに乗ってしまう。
「どうして翔威が私を北海道まで送る必要があるの? ちゃんと説明して」
手を繋いだままの春香も戸惑いを感じているようだ。
……どうする? 本当の事を言ってみるか?
まあ、その場合の俺の予想は、完全スル―の一択だけどね…ハハ。
どうするかな、玉砕覚悟で…言って…みよう…かな…気が進まないけど。
「春香、おじさん、おばさん、本当の理由を言いますので聞いてください。これから乗るバスで春香は誘拐されます、そしてそれを止める為に俺は未来から、今へと戻って来たんです」
う~ん、言ってはみたものの、反応を見るのが怖いな……。
春香なんか怪しい勧誘見てるみたいな目で俺を見てるし…。
「……もう『始っていた』のか」
おじさんの指から力が抜け、持っていた旅行カバンが地面に落ちる。
そして、ゆっくりと空を見上げた後、俺に視線を戻した。
その表情は、別人のように厳しく思わずハッとさせられた。
「…春香を頼んだぞ、早く行きなさい!」
おじさんの後におばさんも続ける。
「気を付けてね翔威君、春香を頼みます」
え~と、何がどう理解されてこうなったんでしょうか?
『始っていた』って何? まさか、こんなリアリティーの無い話を信じたとでも?
「おとうさん、おかあさん! 何の話? 私、全然分からないんだけど?」
春香だけが普通の反応をしていた。
まさか、春香もこんな与太話を両親がまともに受けるなんて想像してなかっただろうし。
まあ、俺もおじさんの行動を理解できてはいないけどね。
「時間が無いんだろ、早く!」
おじさんに急かされるまま、春香の小さく柔らかい手を引き歩きだす。
おじさん、おばさん、よく分からないけどありがとう。
そして、今度こそは……守り抜くよ。
◇ ◇ ◇
暑い、なんてアスファルトの照り返しが厳しい日だ。
「今日の翔威って……、ううん、何でも無い。それより、どういう事なのかちゃんと説明してよ!」
いつもの、少し女々しくて卑屈でMな翔威とは違う、春香は今日の翔威にいつもと違う物を感じていた。
今の翔威なら、どんな事からも守ってくれそうな、そんな気がしていた。
「落ち着いて話せる場所に行ったら、説明するよ」
春香への返答をしながら、翔威は辺りを詮索していた。
しかし、シフエに見つからない場所を決められずに焦っていた。
(一体、どこなら安全なんだ?)
しかし今日は暑いなぁ、手はべたべたに汗ばみ、繋いでいる手が滑って離れそうだ。
そういえば結構な距離を歩いてるよな、きっと春香も疲れてるだろうな。
(休む意味を兼ねて『あそこ』にするか)