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十四章 僕と昔話=スパイ

 俺は今、幼い頃から見慣れた春香の家の、道路を挟んで反対側にいる。

(電柱の陰に隠れながら、ではあるが。)


 シルバーのガルバニウムの壁の三階立て、庭にはウッドデッキ、あそこには俺の思い出も無数にあるんだ。

 幼い頃に両親を亡くした俺を、春香の両親は自分の子供の様に接してくれた。


 ここは、俺の心のより所だった、みんなで取り囲んだ食卓も、海水浴も、温泉旅行も、俺の掛け替えのない大切な思い出。

 春香は一人っ子だったのに、よく近所の人に『仲の良い兄弟ですね』って間違われたなあ。

 まあ時には、お医者さんごっこで切り刻まれそうになったり、押入に閉じこめられ次の日まで忘れられたり、べロチュー(照)されたり。


 今となっては、いい思い出だな(遠い目)……ハハ。


 それと幼い頃といえば、春香が緑色に対して異常とも言える執着心を持っていた事を思い出した。

 あの頃の、あいつの持ち物ってオールグリーンで(下着の類も)。

 誰かに呪いをかけられたのかと、幼心に心配したのだが、小学校に上がる頃には『緑色症候群』は治まっていた。


 結局、未だに良く分からない『春香七不思議』の一つである。


 などと、電柱に陰から探偵か私服警察官の張り込みの如く身を隠しながら遠い思い出を懐かしく脳内展開していた俺の耳に。


「ガチャ、キ・キィ―・ギィ―――」


 経年劣化で独自の耳障りな音(騒音、雑音?)を発する春香家の玄関扉、その音を合図に俺は周囲を確認しつつ、電柱の陰から玄関前へと急ぎ足で向かう。

 俺が玄関前へ辿り着くと、開きっぱなしになっている玄関の奥に、春香と両親の姿が確認できた。


「春香! ちょっと話しがある、付き合え!」


 一方的な命令口調の後、呆気にとられて反応の遅れた春香の右手を、俺の左手が少し乱暴に掴んだ。

 そして、その場から強引に連れだそうとした。


「ちょっ、翔威!? なんでここに居るの? 学校は? 私を何処に連れていく気? ちゃんと説明して!!」


 軽い混乱状態から抜け出した春香は、翔威に引っ張られていた足を止め、質問攻撃に転じた。


 うん、当然の反応ですな。

 これから引っ越し先に行こうと言うのに、連れ去ろうとしている俺がいる。

 もし、これが逆の立場なら『こいつ壊れてる』って思うよなあ・・・。


「翔威君、飛行機の時間まで余り余裕が無いんだ、別れのあいさつは手短にね。」


 うん、うん、そうだね、おじさん、普通は別れのあいさつに来たと思うよねえ。

 でも、違うんですよ、春香を連れ去りに来たんです俺は・・・・。

 この場をどう取り繕えばいいんだろう?


『これから空港に向かうバスで、春香が変な女に誘拐されるんです! だから、俺が未来から助けに来たんです』


 な~んてバカ正直に訴えても当然、却下だよな・・・。

 一体どうすれば、この場を切り抜けられるんだ?


「翔威君、今日は何か変よ? 道に落ちている物でも食べたの?」


 うわあ~、おばさんの目つきってば、モロ怪しい奴を見てる感じぃ~。

 今の、俺の立場って非常にキビシ――!


「本当に翔威、今日は変だよ? どこかで、頭でも打った?」


 うおっと!? 春香、おまえまで俺を変人扱いかい!

 おまえを助けに、また過去に舞い戻ったのに……シクシク。


 おまけに、勢いで来たから、作戦なんて何にも考えてなかったじゃんか。

 ……ちょっと(物凄く)、この先不安かも。

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