十二章 僕と無力=息吹
(考えてもしゃあねえな、こいつがどんな能力もってようと関係ねえ、俺は春香を連れ帰るだけだ。)
「てめえなんかの、思い通りにさせるかよ!」
シフエの手の内がわからない以上、相手が能力を使う前に、ここを離れないとヤバイな。
素早く目の前にいる春香の手を取り(春香は手を握られて『何事?』といった驚いた顔と、ちょっと照れくさそうな顔の入り混じった表情になっていた)とにかく、バスの外へと一緒にテレポ(シフエ曰くステップオーバースペース以下SSS)しようとした時。
「あまいって、言ってんだろ!青二才が!」
俺の行動を冷静に注視していたシフエが、ニヤリと目を細め小悪魔の様に微笑みながら右手を胸の高さまで上げた。
「パチン!」
車内にシフエの右手の指を鳴らす音が響いた、と同時に俺の左手から握っていた筈の小さくて柔らかな春香の手の感触が消えた・・・。
思わず自分の左手を見返す、が手の感触はおろか春香もシフエも見当たらない。
慌てて周囲を見渡すが・・・。
「・・・!?なっ?」
何が起きたのか理解できずに、混乱する俺。
だって、シフエの能力はテレポじゃ無いって言ったじゃんか・・・。
でも・・・これってどう考えてもテレポじゃねえかよ!
くそったれが、俺を騙しやがったな!
「・・シ・シフエの嘘つきくそ野郎があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
思わず握りしめた右手の拳をバスのフロアに叩きつけ、そのまま座り込み天を仰ぎ叫ぶ翔威。
「だ~れが、嘘つきくそ野郎だって?大口叩いた割には、何にもできなかった青二才野郎が。」
姿は見えないけれど、どこからか聞こえてくるシフエの声。
その主の分からない声の場所を探して辺りを見回す、がその場所はつかめない。
「ど、どこに隠れてやがる!っつうか、てめえテレポ使いじゃねえかよ!騙しやがったな!」
ヘッドフォン越しというか、耳元に直接聞こえる位置判定不可のシフエの声に、翔威の苛立ちがマックスに近くなっていた。
「水風呂にでも入って頭を冷やすんだな青二才が!さっきも言ったが、おまえのステップオーバースペースと『これ』は全く違う物なんだよ。まあ、言っても理解できねえだろうがよ。あ、あと念の為に言っとくが何度過去に戻っても結果は同じだからな、よく覚えておけよ!」
「ふざけんな!!春香をどうする気だ!!」
「はあぁぁん?なんだぁ偉そうに、自分で探し出して確認すればいいだろ、じゃあな青二才!」
「あっ、おいっ!待ちやがれバカ女!!」
それっきりシフエからの返事は返ってこなかった、そして冷静に起きた事を整理しようとしたが。
冷静になれずに、春香を守れなかった自分に激しい怒りが沸き上がる。
「・・・ぅ・・ぅおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」
どこにもぶつけられない怒りは、自分を責め立てる。
結局、俺はヒーロー気取りだけで何もできなかったのか。
守りたい女の盾にもなれずに・・・。
青二才か・・・今の俺にはぴったりなのかもな・・・。
怒りが失望へと変わっていく。
『何度過去に戻っても結果は同じだからな』って、過去には戻れるけど、俺には未来を変える力は無いのか?
でも、何にも手がかりの無いこの状況に対して俺に何ができる?
誘拐の目的も、どこへ行ったかも皆目検討がつかないという、この事実を前にして・・・。
・・くそっ・・・もっと・・もっと、あの時にシフエを圧倒できる力が俺にあったら・・・・・・・・・・・。
結局、俺はSSSを使える事で『天狗』気分の偽ヒーローだったのかも知れない。