2 雄略の歌
雄略はそれらの伝統的実力者からの権力奪取を狙っていた。すでに大方の親族に葛城氏吉備氏との濃厚な姻戚関係が出来上がっており、大和王国はもはや葛城、吉備に簒奪されたような有様になっている。若い雄略には自分の道が深く閉ざされているように感じられた。
雄略はこれら伝統的な地方王族でなく、朝廷の文官として頭角を現してきた、帰化人系の物部氏大伴氏と手を組んで自分が王になるために従来の権力に継ながる親族の徹底した絶滅を決意した。
こうして雄略はついに王座を手中にすることができた。雄略は各地王族とも緒戦をくりひろげ勝利を収める。しかし根こそぎ支配者を入れ替える事はせず、大和国の地方主席官として任命しなおして国家の体制をととのえていった。
葛城氏からも吉備氏からも雄略は妻を貰って懐柔し、雄略の政権は強大なものとなった。
専制体制を作り上げた雄略の自信満々の気持ちは万葉集の巻頭を飾る自作の次の歌に表れている。
籠もよ み籠持ち 堀串もよ み堀串持ち、この岡に菜積ます子 家宣へ 名宣らさね 空見つ
大和の国は おしなべて吾こそ座せ 吾こそは宣らめ 家をも名をも
(籠や堀串を持って、この丘で菜を採っている娘さん 家をおっしゃってください 名を名乗ってく ださい。そして私のお嫁さんになってください 大和の国は私が隅から隅まで、すっかり治め ているのです。あなたが嫁になって欲しいので、私のほうから堂々と名を名乗りますよ)
この得意満面な歌は雄略の気持ちを表している。