18 古事記序文 2
この道すがら、荒々しくすさまじい神が熊に化けて現れたので天から剣が下され退治されました。また尻尾のある人間が道を遮りましたが、大きな烏が天皇を吉野にご案内しました。賊どもが遮ることもありましたが、軍隊の者が舞い踊りして見せ、合図と共に討ち取った事もありました。ミマキイリヒコの天皇(崇神天皇)は、夢の中のお告げを聞いてオホモノヌシの神を祭られ、そのために賢明な天皇と言われました。オホサザキの命(仁徳天皇)は、民家の煙の立ち上るのを眺めて、人民をおいつくしみになりましたから、今に聖の天皇と伝えられております。さかのぼって、ワカタラシヒコの天皇(成務天皇)は近淡海(琵琶湖)に高穴穂の宮をつくり、国や県の境界定められ、ヲワサヅマのワクゴのスクネの命(允恭天皇)は、遠飛鳥に飛鳥の宮を建てて、天下の氏や姓を正されました。このように天皇ごとに緩なると急なるとがあり、又、文明を悦ぶと実を尊ぶとの違いはありますが、いかなる時代におきましても、全ての天皇のご事業は、過去のことがらを参照して、いまの時代を解明し教化道徳の衰えた所を正しく起こし倫理の道の絶え絶えなるを復興するという事につきるのでした。 飛鳥の清原に大宮を作られて、天下を治めになりました天武天皇の御代に至りますと、お世継ぎの皇子として天皇になられる前から早くも天に昇る竜にも似た帝王としての徳をお示しになりました。