worldGLITCH ~転生者が戻ってくる世界で、ナイトアサシンに狙われている~
この物語は、正しい世界の話ではない。
ここに出てくる「現実」は、常に少しだけズレている。
そのズレに気づくかどうかで、見えるものは変わる。
鉄が磁石に引かれることも、
時間が一瞬止まることも、
誰かの記憶が書き換わることも。
この世界では、それらは“異常”ではなく、
ただの「通常の誤差」として扱われている。
しかし、ごくまれに。
その誤差を「違和感」として感じてしまう人間がいる。
その瞬間から、世界は少しだけ形を変える。
見ているものと、見られているものの境界が揺らぎ始める。
この物語は、その“揺らぎ”の記録である。
正しい答えは存在しない。
ただ、観測された結果だけが残る。
もしあなたがこの物語の中で
「おかしい」と感じたなら――
それは物語の側ではなく、
あなたの世界のほうが先にズレている可能性がある。
worldGLITCH
プロローグ
――その世界には、「転生」という現象があった。
人は一度死ぬと、別の世界に生まれ変わる。
それは特別なことではなく、どこかの神話のように語られる“仕組み”だった。
だが、その仕組みには本来、例外は存在しないはずだった。
カイトは、その例外だった。
一度目の世界。
彼はトラック事故で命を落とした。
目を開けると、そこは剣と魔法の世界。
魔王に脅かされた国。
人々は彼を“勇者”と呼んだ。
戦い、仲間を得て、魔王を倒し、世界は救われた。
それが終わりのはずだった。
二度目。
突然、彼は死んだ。
理由は分からない。
ただ、目を開けたとき――
そこには見慣れた天井があった。
現代日本。
教室。
机。
「……戻ってきた?」
そう思うには、記憶があまりにも現実的だった。
三度目。
今度は死んでいない。
事故もない。
ただ、“戻ってきた”。
まるで世界が、彼を元の場所へ押し戻したように。
この現象は記録されていない。
転生は一方通行のはずだった。
戻ることは「存在しないバグ」だった。
そしてそのバグは、静かに世界を歪ませ始める。
鉄は磁石にわずかに強く反応し、
時間はときどき数秒だけ止まり、
存在していたはずの記録が書き換わる。
しかし誰も気づかない。
気づけるのは、ごく一部の“違和感を持つ人間”だけ。
その中心にいるのが――カイト。
そしてもう一つ。
その歪みを“修正する側”が存在する。
黒い影。
人ではない。
名前は記録されない。
ただ一つだけ、呼ばれている。
――ナイトアサシン。
世界は静かに壊れ始めている。
誰にも気づかれないまま。
第1話「教室の違和感」
朝。
カイトはいつも通り教室に入った。
窓際の席。
少し冷たい空気。
眠そうなクラスメイトの声。
変わらないはずの、日常。
――ただ一つだけ違っていた。
教室の隅。
机の上の消しゴムが、微かに震えている。
誰も触れていないのに。
カイトは一瞬だけそれを見て、眉をひそめる。
「……気のせいか」
そう呟いて席に座る。
その瞬間。
黒板の文字が一瞬だけ変わった。
“出席番号12:イロンバトラー”
次の瞬間には元に戻っている。
誰も気づいていない。
カイトだけが見ていた。
「おいカイト、課題やった?」
後ろから声。
イロンだった。
隣の席の男子。
明るくて、普通で、少し雑なやつ。
普通のはずだった。
「……ああ、やった」
「じゃ見せて」
笑いながら言う。
その瞬間、カイトの机がわずかに“歪んだ”。
木の机が数ミリだけズレる。
現実が一瞬だけためらったように。
カイトは手を離す。
「……今の」
イロンは気づかない。
気づいていないのか、気づかないふりなのかも分からない。
ホームルーム。
先生が入ってくる。
いつも通りの声。
いつも通りの出席確認。
ただ一つだけ違う。
黒板の上の時計。
秒針が止まる。
カチ。
カチ。
……止まる。
そして何事もなかったように動き出す。
誰も反応しない。
カイトだけが見ている。
「次、提出物出せ」
その言葉の瞬間。
教室の空気が一瞬だけ重くなる。
ジジッ……
耳の奥でノイズ。
そのとき――
窓ガラスに“黒い影”が映る。
人の形。
しかし人ではない。
次の瞬間には消えていた。
放課後。
廊下。
イロンが言う。
「なあカイト」
「今日さ、ちょっと変じゃなかったか?」
カイトは止まる。
「何が」
イロンは少しだけ笑う。
だが目は笑っていない。
「この世界」
沈黙。
カイトは答えられない。
イロンは肩をすくめる。
「気のせいならいいけどな」
そして歩き出す。
夜。
カイトは窓の外を見る。
街はいつも通り。
ただ一つだけ違う。
信号の色が、一瞬だけ“存在しない色”になる。
説明できない色。
認識してはいけない色。
カイトはつぶやく。
「……この世界、なんかおかしい」
その瞬間。
窓ガラスに“もう一人の自分”が映る。
口が動く。
――「気づくの、遅い」
窓の外。
風が止まった。
第1話・終
この物語は、はっきりとした答えを持っていない。
カイトが見ているものが正しいのか、
それとも世界そのものが正しいのか。
そのどちらも、証明されることはない。
ただ一つだけ確かなのは、
この世界には「ズレ」が存在しているということだ。
そのズレは、日常の中に紛れている。
気づかれないほど小さく、しかし確実に積み重なっていく。
人はそれを“気のせい”と呼ぶ。
だがもし、その気のせいが積み重なって
世界そのものの形を変えていたとしたら――
それを“正常”と呼べるだろうか。
カイトはその違和感に気づいた数少ない一人である。
そして、ナイトアサシンはその違和感を消そうとする存在である。
この二つが交わるとき、
世界は初めて「自分がどういう形なのか」を思い出し始める。
だがそれは、救いではないかもしれない。
むしろそれは、
今まで安定していた“嘘”が崩れる瞬間でもある。
この物語は終わらない。
なぜなら、「正しい状態の世界」を誰も知らないからだ。
もしこの物語を読み終えたあと、
あなたの身の回りの何かが少しだけ違って見えたなら。
それは物語のせいではない。
もともとそこにあった“ズレ”に、
あなたが気づいてしまっただけである。




