第10話 斬る
工場内部。
走っていると、遠くに何かが倒れているのが見えた。
——人だ。
近づくと、人が物のように無造作に置かれている。
そのような人が、何十人も倒れている。
どの人物にも、意識はない。
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【人物鑑定:鄒ス蟠取?蟷ウ】
種族:莠コ髢? レベル:7
スキル:【憑依 Lv.3】
状態:精神汚染(強)
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鑑定をすると、文字化けしており、名前も種族も判別できない。
おそらく、全員が魔魂に憑依されている。
刺激すると何が起きるか分からない。
できれば助けたい。
でも。
……今は原因の調査をするのが先だ。
唇をギュッと結び、そのまま奥に向かった。
奥に進むと、広い空間があった。
柱以外、ほとんど何もない空間。
天井まで10mほどある。
離れた場所に、人が隠れている気配を感じた。
敵か味方か分からない。警戒しておこう。
視線を移動させる。
視線の先には、堅気ではなさそうな人物が二人。
空間の中央に豪華な椅子が置かれており、誰かが座っている。
その横に、もう一人、立っている人物がいた。
何か手がかりを掴めるかもしれない。
柱の影に隠れ、様子をうかがう。
片方の人物は椅子に座り、王様のように振る舞っている。
どこか傲慢さが垣間見える。
もう片方の人物は怯えている。
それでも、座っている人物に意見をぶつけているようだ。
鑑定を使う。
怯えている方は、山田。
レベル9ほどだが、魔魂には取り憑かれていない。
座っている人物にも、鑑定を飛ばす。
(……え?)
——鑑定が通じない。
鑑定遮断などを持っているのだろうか。
初めての結果に、動揺する。
しかし、話し声のようなものが聞こえてきた。
一度、気持ちを落ち着かせ、耳を澄ませる。
「……岡本。俺ら、高校からのダチだったじゃねぇか。
お前最近、ホントにどうしたんだよ?」
「うるせぇ。今、人を集めているところだ。邪魔をするな」
鑑定できなかった男の名前は岡本と言うらしい。
岡本が携帯を弄りながら、素っ気なくあしらっている。
「……もう、こんな……人を操るのは辞めようぜ。
昔、ヤクザにも仁義があるって、笑って言ってたじゃねぇか。
麻薬も、こんなに広めて……これが、お前の言う仁義なのかよ!」
岡本が羽虫を見るように、山田を見ているのが印象的だった。
「俺は……もうお前に付き合いきれねぇ。
ずっとダチだと思ってた。だが、お前との縁は切らせてもらう!」
山田が大声で宣言した後に、後ろを向く。
そこで、岡本が立ち上がったのが見えた。
山田に近づいていく。
嫌な予感がした。
「なら死んで、俺の駒になれ」
岡本は、一言だけ告げ、山田の心臓にナイフを突き立てていた。
山田がピクリとも、動かなくなる。
岡本が山田の体に、何か黒いものを送り込んでいる。
すると死体が、無機質な動きで立ち上がった。
血の気が引いた。
顔が青ざめる。
でも——
許せない。
恐怖が、怒りに変わっていく。
相手は人間だ。
モンスターじゃない。
先程の会話や行動で分かる。
この男が……麻薬や魔魂騒動の元凶なのだろう。
この男を放置したら、きっと多くの人が死ぬ。
『無事でいてね?』
咲の笑顔が浮かぶ。
『気持ちは嬉しい。ありがたく飲ませてもらおう』
フッと笑う父親を思い出す。
もしかしたら、二人にも被害が及ぶかもしれない。
戸惑いはある。
それでも——
——日常を脅かすなら、人でも斬る
咲からもらったナイフは使いたくない。
いつものナイフを取り出し、握りしめる。
背後に回り、奇襲で仕留めよう。
そう決めた時——
「おい……さっきから、そこで潜んでいるネズミ」
岡本が声を張り上げた。
……バレた?
冷や汗が流れる。
気配遮断はしていたはずだ。
勘違いの可能性もある。まだ黙っておこう。
すると、先程、気配があった場所から人が出てきた。
「……よく分かったな。お前が元凶なら、ここで仕留めさせてもらう」
どうやら、九尾ギルドの人も潜んでいたらしい。
8名ほどその場に姿を現す。
……私はまだ隠れておこう。
奇襲するために、息を潜める。
遠くから、人が無機質な動きで走ってくるのが見えた。
20人ほどいる。
そして、岡本の周囲に張り付く。
「さて、お前らにこいつらを害せるかな?
一応言っておくが、まだ生きてはいるぞ?」
魔魂で操られた人が、岡本の肉壁になっている。
「助けて! まだ死にたくない!」
体は無機質だが、顔は動くようだ。
涙を流し、口だけが動いている。
あまりの光景に、目を逸らしたくなる。
九尾ギルドの人たちも応戦しているが、戦いにくそうだ。
これ以上、操られた人を乱暴に扱われたら、どうなるかも分からない。
「お前らを操ったら、こいつら何人分だぁ?
そうなったら、すぐにでも一都市は落としてやる。
お前らの大事な人がいたら、一緒に操ってやろう」
そんなことを言い、煽っている。
岡本は醜悪な笑みを浮かべていた。
(こいつだけは、絶対にここで倒さないといけない)
だが、岡本の周囲には操られた人が多く、今は近づけそうにない。
歯を食いしばり、我慢する。
潜んだまま、時間だけが過ぎる。
九尾ギルドの人が、何か呟いた。
「……当てるぞ、すまねぇ」
拳で、岡本の周囲の人を吹き飛ばしていく。
何人かが剥がされた。
——今だ。
私は、人数が少なくなった場所に走る。
まだ、こちらには気づかれていない。
影潜伏を使い、岡本の背後に回る。
岡本が僅かに肩を揺らす。
少しの躊躇はあった。
でも——
ナイフを岡本の心臓に突き刺す。
「バカ……な」
岡本が大きく目を開く。
一瞬呆然とし、そのまま倒れていく。
操られていた人たちも、一緒に倒れていった。
……。
ふぅと息を吐く。
警戒を解こうとした瞬間。
——岡本の腕の紋様が蠢いた気がした。
……何かが変だ。
警戒する。
さらに、紋様が蠢いた。
……やっぱり気のせいじゃない。
ナイフを構え、警戒を強める。
すると、黒い霧が出てきて、岡本の周囲を包みこむ。
渦がどんどん大きくなっていく。
やがて黒い霧が晴れる。
——5mほどある、肉の巨人が現れた。
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【個体鑑定:魔魂王】
レベル:22
スキル:【精神汚染 Lv.5】 / 【憑依 Lv.5】 /
【肉体強化 Lv.4】 / 【肉壁 Lv.4】 /
【短距離転移 Lv.3】
状態:肉壁 弱点:魔力
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