第9話 作戦開始
18時少し前。
九尾ギルドに着く。
案内されたのは九尾ギルドの中でも一際広い応接ホールだった。
円形に並べられた席と、正面の大型モニターが目を引く。
そこには20人ほどのメンバーが集まっていた。
すでに、数人が席に着いており、視線が一斉にこちらへ向く。
鑑定をしてみると、大体のメンバーはレベル10。
レベル14になっているのが一人いるという感じだ。
そして、玉野さんはレベルが17。
やっぱり、この人は別格だなと思う。
私もレベル19だ。
負けていられないと気合を入れる。
なぜかは分からないが、レベル14の人が苛立ったように私を見ていた。
居心地が少し悪い。
18時になり、全員が席につく。
とりあえず『紙に書いて』ではなく、声で自己紹介すると決めた。
最初は、声で自己紹介するか迷った。
しかし事前に声を知られていないと、緊急時に混乱を招く。
「初めまして、この姿で失礼します。影とでも呼んでください。
一緒に工場に乗り込むので、よろしくお願いします」
頭を下げ、自己紹介する。
一瞬、室内が静まり返った。
そのとき、一人の男が席を立ち上がるのが見えた。
こちらに、鋭い視線を向けている男だ。
「姿見せねぇ奴なんて信用できるか!
しかも、女だ。……ここにいること自体、反対だ」
……まぁ、私も逆の立場だと、似たことを思うかもしれないし、何も言えない。
先程の鑑定結果を見る限り、このギルドでナンバーツーの実力だ。
その分、プライドもあるのだろう。
ただ、この場で言うことかな、とは思う。
どう返事するか迷っていると、玉野さんが仲裁してくれた。
「工場の情報を仕入れていたのは、影殿じゃ。
その情報が無ければ、さらに厳しい事態に陥っていたかもしれぬ」
玉野さんが岸さんの方を向き、言葉を続けた。
「岸よ、すぐに信用せよとは言わん。だが、工場では一緒に戦う身じゃ。
ワシに免じて、工場の間だけでも連携せよ」
一拍の間が空いた。
「それにじゃ」
玉野さんがニヤリと笑った。
「こやつは——ワシに模擬戦で勝ったのじゃぞ?
これほどの戦力は、とても頼もしいと思うがの?」
そう言って玉野さんは椅子に座る。
岸さんは目を見開いた。
ありえないと言いたげにこちらを見る。
「はぁ? ……まぁ、玉野さんがそう言うなら従うけどよ。
できればコイツとは、別のチームで戦わせてくれ。俺からは以上だ」
納得はしてない様子だ。
渋々というのがよく分かる。
でも、岸さんはそれ以上の言葉を飲み込んだ。
思ったより、融通が利かないわけではなさそうだ。
少しホッとする。
玉野さんが私に向き直り、申し訳なさそうにする。
「統制をきちんと取れてなくて、すまぬ。
ただ、お主に感謝したいと言う者もおる。
もしワシの仲間が、危なそうなら助けてくれると嬉しい」
玉野さんがそう言うと、一部から声が上がった。
「以前、影様にオークから助けられました。
お礼は言えませんでしたが、あのときは本当にありがとうございました!」
「一緒の任務、とても頼もしいです。よろしくお願いします!」
そうした言葉を、次々とかけられた。
全員、輝いた瞳で、かなり興奮している。
新興宗教でも作りそうな勢いだ。
凄まじい勢いに、思わず顔が引き攣るのを感じた。
「コホン」
流れを変えるためか、玉野さんが咳をして言葉を発する。
「昨日にも一度説明したが、もう一度情報の共有を行う。
モニターに表示するので、こちらを見るのじゃ」
そう言うと、モニターが点灯した。
工場の情報が書かれている。
人魂擬き——魔魂の詳細。
何百もあり、魔力の籠った攻撃しか効かない。
精神汚染の可能性があり、絶対に触れてはいけないこと。
工場の奥には、まだ何があるか分からない。
だから調査が必要だと説明された。
その後、役割分担が決まっていく。
魔魂処理班と、奥の調査班の二つだ。
玉野さんが一言告げる。
「魔魂処理チームは、魔力攻撃が可能な者で構成しておる。
ワシも囮となり、魔魂を引きつけよう。その隙に、他のメンバーは奥を調査するのじゃ」
調査チームは奥を調べて、無理そうならすぐに撤退。
可能なら対処するという作戦だ。
玉野さんは自分の意志で火を消せるらしく、その炎で盛大に囮になるという。
私にも一言あった。
「影殿は気配遮断があるゆえ、独立部隊として奥に向かってほしいのじゃ。
もし、危険があれば、他の者と一緒に対応してほしい」
他にも、細部を決めていく。
話は終わり、その場の全員で、工場に向かった。
*******
工場に着き、チームで分かれる。
入口の堅気じゃなさそうな人たちは、一斉に魔魂処理のメンバーが対応に当たった。
「炎狐招来!」
玉野さんが叫んだ直後、数条の焔が渦となり魔魂へ飛び込んだ。
鼓膜を震わせる爆ぜる音。
遅れてやってきた凄まじい熱風が、工場の窓ガラスを内側から叩き割る。
工場の輪郭が陽炎に揺れ、一気に噴き出した業火が魔魂を焼き焦がしていく。
熱い。チリチリと肌がひりつく。
咲にもらったナイフを握りしめ、勇気をもらう。
深く息を吐き、炎の渦を背に奥へと踏み込んだ。
走りながら、石碑のことを考える。
この事態は、ゲートボスが起こしたのだろうか。
でも……もし人が関与しているのなら。
脳裏に、麻薬中毒者のことが浮かぶ。
——私は許せない。
握ったナイフに、自然と力がこもった。
後書き
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
次回、ついに岡本と対峙——。
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