第7話 異変
ゲート崩壊から、三週間が経過した。
連携の提案がされた後、重村代表から家に新型のスマホが送られてきた。
最初は遠慮した。
しかし、情報漏洩のリスクが減る。
そのスマホで情報共有をして欲しいと言われ、渋々と受け取った。
スマホには、玉野さんの連絡先も入っていた。
今では、重村さんや玉野さんとグループチャットを作り、情報を送り合っている。
一つ、重要な情報も教えてもらった。
レベルが上がるときの、ソロと集団の比較だ。
ステータスの伸びが、ソロの方が高いらしい。
たまに、関係ない話で盛り上がることはあったが……そこは置いておこう。
また最近、鑑定スキルのレベルが一つ上がった。
敵の弱点なども見られるようになり、戦闘が以前より楽になった気がする。
連携後は、ゲート情報をいち早く知れるようになり、崩壊まで至ることが少なくなった。
情報共有をして良かったと思う。
送ってもらったゲート情報などを整理する。
その途中で、玉野さんからチャットで、『今、すぐに動けるかのう?』と連絡が来た。
詳細を見ると、東京湾中央第一原子力発電所から5km程にゲートが発生していた。
もし溢れたら、東京中に被害が出る可能性がある。
玉野さんは今、別のゲートの対処をしていて、すぐには向かえないらしい。
こちらで動けるようなら頼むと連絡が入った。
『私が向かいます』と返信し、すぐに向かった。
*******
そのゲートには多くの人が入っていた。
気配遮断を発動し、物陰に隠れる。
その人たちの様子をうかがうと、何かがおかしい。
すぐにその違和感に気づく。
大勢が、洞窟内を血走った目でうろついている。
身体の一部が欠損しているのに、スライムを狩る人。
正気を失い、その場で暴れている者。
彼らが倒したモンスターの死体から、小さな錠剤のようなものが落ちたのが見えた。
別の者が、拾おうとした人物を殴り、奪い取ろうとしている。
片方が崩れ落ちた。
勝者は、震える手で錠剤を拾い上げ、その場で飲み込んだ。
そして、恍惚したように顔が崩れる。
あまりにも悲惨な光景に、吐き気が込み上げた。
松田さんに言われたことを思い出す。
『あまり広めたい情報ではないのですが……一部で、依存性の高い麻薬などのドロップも報告されています』
……これか。
ただの情報と思って、実感はしていなかった。
でも、分かる。
これを広めたら絶対にいけない。
見ただけで分かる。
身体は欠損し、正気も失っている。
もう助けられない。
この人たちは——もう手遅れだ。
手が震えている。
一刻も早く、この場から離れたい。
それでも、ゲートを壊すため、最奥に向かった。
ボス部屋の扉を通る。
だが、ボス部屋の扉の先には、何もいなかった。
ゲートボスが中にいないのは初めてだ。
周囲を見回す。
動いている者はいない。
……誰かが倒したのだろうか?
それならゲートが崩壊するはずだ。
顎に手を当てる。
すでにゲート崩壊が起きて、外にボスが出た?
そんな考えも頭に浮かぶ。
しかし、ゲート外には被害がなかったのを思い出す。
不思議だ。
何か手掛かりはないかと、ボス部屋内を歩き回る。
そこで、見慣れた石碑を見つけた。
近づき文字を確認する。
⸻
『守護者は去りぬ』
『器を得て、新たな地へ』
『魂は闇に溶け、宿る』
⸻
その場で思考を巡らせる。
中の何者かが、人を器として外に出た——そんな意味に思えた。
嫌な予感が頭によぎった。
そして、ふと思う。
石碑とゲートは、どういう関係なのだろう。
ゲート内では、レベルが上がりやすい、人と連動する個体がいる。
だから最近は、お膳立てしているのかと思っていた。
だが、麻薬までドロップさせている。
同一人物が作っているとするなら——きっと、ろくな奴じゃない。
私はこの情報を信じていいのだろうか。
(だけど……もし石碑の言葉が、私の予想通りだとしたら……)
どこまで信じて動くか、かなり悩んだ。
だが、考えていても今は分からない。
石碑を完全には信用しない。
でも、石碑の内容を警戒して動こうと決めた。
念のため、石碑の写真を撮っておく。
このゲートと中毒者、そして石碑のことを重村さんや玉野さんにも共有しておこう。
万が一、外にゲートボスが出ていた場合、相当危険だ。
私はゲートの外に出て、重村さんと玉野さんに情報を送る。
この事態を重く受け止め、すぐに人を送るとのことだ。
私も近場に被害がないか、辺りを見回った。
だが、何の痕跡もなかった。
結局、九尾ギルドが持ち回りで、この周辺を警戒することになった。
その1週間後。
玉野さんから情報が送られてきた。
以前、私が調査した東京湾中央原発の近場のゲート。
その付近にある工場について、とのことだ。
詳細を開く。
夜になると工場で人魂のようなものが浮かび、それを取り込むと力を得ることができる。
——そんな妙な噂が広まっているらしい。
『表に出たら、かなり厄介なことになりそうじゃ。
すまぬが……気配遮断ができる影殿に、その工場の調査を任せたい』と送られていた。
以前の石碑の言葉が脳裏によぎる。
『魂は闇に溶け、宿る』
人魂もどき。
何か関係あるのだろうか。
……まさか、ね。
『今から調査します』と文字を打ち込む。
嫌な予感がし、すぐに工場に向かった。
後書き
※ 東京湾中央第一原子力発電所(通称:東京湾中央原発)は、実際には存在しません。
この世界ではある設定です。




