第6話 穏やかな日常
次の日。昼。
父親のお見舞いに病院に行く。
父親は、ベッドで新聞を読んでいた。
「天音、来たのか」
新聞を下ろし、こちらを見てくる。
「うん。お父さんも、だいぶ元気になってきたね」
お互い笑う。
病院にずっといて暇じゃないか、そんな他愛もない話をする。
笑える話も聞かせてくれる。
いきなり重村代表が病室に来て、退院した後、うちの企業で働かないかと聞かれたこと。
あまりの大物に、めちゃくちゃ驚きながら対応したことなど笑って教えてくれた。
結局、重村代表の企業で働くことを決めたみたいだ。
……重村代表がやりすぎてないか心配だが、大丈夫だと思いたい。
父親と会話が弾んでいる。
以前より、話せるようになってきたなと思う。
(……今、回復薬を渡そうかな?)
ポーチから、下級回復薬を取り出す。
そこで、ふと思う。
……どうやって飲ませるの?
「これ、ゲートで拾った薬なんだけど、飲んでみない?」
——そんな怪しいこと、言えるわけがない。
(……やばい、どうしよう)
冷汗が流れる。
悩んでいると、父親が尋ねてきた。
「どうした? 何か、持ってるのか?」
「……え? あ、これは……」
咄嗟に、隠そうとする。
「ほら、見せてみろ」
戸惑いつつも仕方なく、瓶を渡す。
父親は瓶を手に取り、眺める。
「変わった瓶だな。お見舞いの品か?」
「……うん。友達に健康にいいよって」
私は目を逸らしながら答えた。
父親はしばらく瓶を見つめていたが、やがてフッと笑った。
「気持ちは嬉しい。ありがたく飲ませてもらおう」
そして、蓋を開ける。
「……え?」
「お前が、持ってきてくれたんだろう?」
何も躊躇することなく。
父親は、回復薬を飲んだ。
——その瞬間。
父親の顔色が、目に見えて良くなった。
「……なんだか、本当に体が軽くなった気がするな」
驚いたように言う。
父親は立ち上がり、身体を軽く動かす。
後で何か聞かれるかもしれない。
それでも——
「……良かった」
思わず、笑みがこぼれた。
その後、いつ事情を聞かれるか心配していた。
だが、結局回復薬については何も聞かれなかった。
父親の検査の時間になり、病室を出る。
(……何も聞かれなかった)
逆に、不安になる。
でも、今は考えないようにしよう。
そう思っていると、咲からラインがきた。
『ゲート崩壊も、最近落ち着いてきたし、会わない?』
私も会いたいし、返事をすぐに返す。
『いつが都合がいい? 私が向かうよ』
すぐに既読がつく。
『今日と明日ならいつでも大丈夫』と返ってきた。
今からでもいいか聞くと『大丈夫!』とスタンプをもらう。
『今行く』と送り、そのまま咲の家に向かった。
*******
家に着き、咲といろいろ話す。
最近の漫画の内容。
学校がそろそろ再開しそうなこと。
宿題はすすめているか。
そして、近況についての話になった。
「今、鍛冶師としてアルバイトしているんだ。
ある職人ギルドで募集されてたから、そこで」
鍛冶師と咲のイメージが合わない。
疑問に思いつつも答える。
「鍛冶師? 難しくないの?」
「ゲートでもらえる、ジョブとしての鍛冶師だからね。
むしろ、普通の鍛冶師の方に申し訳ないくらい」
思わず、頭が真っ白になる。
「え、危なくない?」
慌てて聞くと、その様子がおかしいのか咲は笑った。
「最初の一匹だけは、モンスター倒さないといけないから危ないよ。
でも、3人くらい探索者さんがついてたから……怪我の心配はなかったかな」
その後も咲は言葉を続ける。
「鍛冶をしたら少しだけ、経験値を貰えるんだ。
だから怪我の心配は、今後は大丈夫だよ」
ホッとする。
とりあえず、今は危ない状況じゃないみたいだ。
「それでなんだけどね……」
咲が言いづらそうに、何かを伝えようとしている。
「こんなご時世だし……天音、多分ゲートに潜っているよね」
一瞬、部屋の空気が止まった。
こちらをじっと見てくる。
何か確信している様子だ。
どう返事するか迷う。
だが、できれば咲には嘘をつきたくない。
「……うん。潜ってる」
結局、素直に認めた。
ただ、どれくらい強いかまでは伝えない。
読心。
そんなスキルを持つ者が、いないとも限らない。
もし咲から、私の情報が抜き取られたら。
次に狙われるのは、私じゃない。
——咲だ。
人質の可能性を考えると、
私は、口を閉ざすしかなかった。
ただ、これだけは聞いておこう。
「……いつ、気づいたの?」
咲は私から目を逸らす。
「学校に行ってる時から。
授業中も、かなり疲れていたでしょ。
天音、分かりやすすぎて、もうバレバレ」
咲はそう言い、少し笑った。
「あー、やっぱりかぁ。
なんとなく、咲にはバレてる気がしてたけど」
私は軽く項垂れる。
「ホントは、言うか迷ってたけど、私も天音の力になりたかったから」
咲は言葉を続ける。
「武器とか作って、いつかプレゼントするね。
天音の武器、私が絶対に最高のを打つから」
そう言い、咲は満面の笑みを浮かべた。
その笑顔に見惚れる。
いつも、この笑顔には救われる。
昔から、こういうところは変わらない。
(咲には……本当に敵わないなぁ)
そんなことを思い、私も一緒に笑った。




