表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ゲート×ソロ成長】孤独な少女は、影を纏い最強へ 〜日常の底で、刃は静かに成長する〜  作者: ショーナ・レーベン
第2章 繋がる刃

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/34

第2話 厄介ファン

 夕方。


 車窓に倒壊したビルが流れていく。


 瓦礫の山。

 崩れた壁。

 まるで戦場の跡だ。


 ——今の私の心をそのまま表しているようだった。


 心臓が早鐘を打っている。


 これから会う相手は、大企業のトップ。

 正体がバレている可能性が高い。


(……どうしよう)


 でも、沈んでいる場合ではない。

 どうするか、思考を整理する。


 まずは重村代表の情報を集めないといけない。


 どのような人物か尋ねることを決めた。


「これから会う重村代表ですが、どのような人物なのでしょうか?」


 松田さんは助手席に座る私をチラッと見て、視線を戻す。


「……そうですね、非常に合理的な人物です。

 大企業のトップに相応しい優秀な経営者……ですね」


 少しため息が出る。


 企業のトップともなると、そのような人物になるか。


(やっぱり会いたくないなぁ)


 どうにか会えないで済む方法を考える。

 だが、やっぱりない。


「……何故か今は厄介ファンみたいになってますが」


 松田さんが、何か呟いた気がしたが、小さすぎて聞き取れなかった。

 ただ、同じようなことを言ったのだろう。


「こういう機会は、初めてなので緊張してしまって。

 ……企業の代表と会うなど普通はないと思いますが、何故呼ばれたのでしょう?」


 一番気になっていたことを聞いてみる。


「詳しくは代表が伝えますが、お礼……とだけ伝えておきます」


 ……お礼? 記憶を探ってもお礼を言われることをした覚えがない。


 ただお礼ならば、そこまで悪いことにはならないだろうか。

 少しだけ肩の力が抜けた気がした。


「教えていただき、ありがとうございます」


 勧誘などあるかもしれないが、その場合はどうにか切り抜けよう。

 

 周囲には、高級住宅街の景色が流れるようになってきた。

 この辺りは、被害が少ないんだな。


 そんなことを考えているうちに、重村商事の本社ビルに到着した。



*******



「こちらの先に代表がいらっしゃいます。 

 少々驚かれるかもしれませんが、危険はないのでご安心ください」


 松田さんにそう言われたが、何に驚くのだろうか。

 よくわからないが代表がいることは分かった。


 緊張をほぐすため、一呼吸入れて、扉を開く。


 案内された部屋は、広々としていた。

 窓からは高層ビルが立ち並ぶ景色が見える。

 重厚な調度品が並び、格式の高さを感じさせる。



 そして——机の上には、高級そうなスイーツが山盛りで積まれていた。



——思わず固まる。



 鮮やかなイチゴが乗ったショートケーキ。

 色とりどりのマカロンが、まるで宝石のように積まれている。

 香ばしいタルトの香りが、部屋に漂っていた。

 プリンの表面には、カラメルが艶やかに光っている。


 ……ケーキ屋さんかな?


 いや、ここは重村商事の社長室のはずだ。



 …………じゃあこれは、なんだろう。



 あまりのスイーツの数に目線を奪われる。

 何百種類あるのだろうか。


 一瞬、思考が止まりかけたが、

 すぐに重村代表の方に向き直り、挨拶をした。


「私が相沢天音ですが、重村代表が話したいとお聞きしました。

 どのようなことを話したいのでしょうか?」 


 重村代表は、私を上から下まで見た後、表情を緩めた。


「よく来てくれたな。ワシが重村十蔵じゃ。

 今日は天音ちゃんにお礼が言いたくての」


 ここでも、お礼と言われた。

 車でも考えたが、やはり思い浮かばない。


「勘違いではないですか? 

 特にお礼を言われるようなことをした覚えがないのですが」


 そこで、見覚えのあるものを見せられた。



——私の財布だ。



 どこで落としたのかと、頭を捻る。

 

「これはの、オークに襲われていた時に、ある黒い影を纏った人物に助けられてな。

 助けてくれた人物が、その場で落として行った物なんじゃ。 

 失礼じゃが中を確認し、学生証も見せてもらった」


 学生証や財布を手渡される。

 周囲のSPや松田さんは黙ったままだ。


 ……言い逃れはできそうにない。


 一呼吸入れ、腹を括る。


「……私がその人物と認めます」


 重村代表は嬉しそうにウムウムと頷いた。


「やはり、そうじゃったか。

 お礼にと思い、色々なスイーツを用意したんじゃ。

 これらを食べながら、色々と話を聞かせてくれないかの」


 重村代表にソファーへ案内される。

 漆黒のソファーですごくフカフカだ。


「……苺のショートケーキをお願いします」


 運ばれてくるものを念のため、鑑定する。

 安全と分かる。

 

(全部でいくらするんだろ)


 そんな場違いなことが頭によぎった。

 


*******



 学校での生活。

 ゲート崩壊をどう思っているか。

 今不自由な暮らしをしてないか。


 孫と話すように朗らかで、重村代表はとても楽しそうだ。


 緊張がゆっくり薄れていくのを感じた。

 そんな時に代表は提案してくる。


「これはお礼ではないが、うちの傘下のギルドに入らないか」


 少し考えるが、できれば多くの人には知られたくない。


「ありがたい申し出ですが、できれば辞退させてください」


 代表は残念そうな顔を浮かべた。


「ならば情報などを知れるようにワシのところと連携しないか?

 傘下に探索者ギルドなどを作り、場の対応に当たらせておる。

 そういったものと連携できれば、お互いに良いはずじゃが」


 一人だけで対処するのは、かなり厳しく感じていた。


 ただ、その人物が信用できるかも分からない。

 何より、情報はできるだけ広めたくない。

 

「連携はしたいです。

 ただ、ギルドの代表者とは、影を纏った状態で会ってもいいですか?」


 重村代表が、首を傾げる。


「影を纏った状態、とは?」


「はい。以前、そちらを助けた時に、影を纏っていた状態です。

 あの状態だと、私が誰か分からなくなります」


 不思議そうな顔をされる。


「ギルドの代表者は特に念入りに調査をしておる。信頼はできると思うが?」


 私は一呼吸入れ、会話を続ける。


「信頼できる人だとしても、正体はあまり知られたくないです。

 読心スキルなどで、その人から情報が抜かれる可能性もあるので」



 場が凍りつく。



「……その可能性を見落としていた。その状態で会っていいぞ」


 一度、重村代表は視線を落とした。


「先方には伝えておこう。 

 今後は、読心能力があることも考慮して動こう」


 重村代表は重々しく発言をするも、すぐに表情を緩めた。


「ところでだが何か欲しいものはないか? お礼に、なんでも用意できるぞ」


 表情がコロコロ変わる人だな……本当に大企業のトップなんだろうか。


 そんなことを思いつつ、返事をする。


「父親の職場が崩壊したので、何か父に仕事をもらえないでしょうか?」 


「そうか、お父上の職場か。……うむ、分かった!

 ビルごと買い取って最新の防衛システムを——」


 代表は、捲り立てるように一気に喋りだした。


 ビル?

 防衛システム?

 お父さん、ただの事務員なんだけど……?


「コホン」


 松田さんが大きく咳払いをする。


「……失礼、わが社の関連企業として再建を約束しよう。

 それ以外にも個人で、欲しいものはないか」


 今すぐは、特に思い当たる物がない。


「私の情報を広めないでいただければ、それで充分です」


 代表は顎に手を当てた。


「安心せい。天音ちゃんのことを知っとるのは、ここにおる限られた者だけじゃ。

 元より、外に漏らすつもりはない」


 しかし、代表は不思議そうな顔をする。


「……先ほども思ったが、何故そんなにも知られたくないのじゃ?」 


 重村代表が、問うようにこちらを見つめてくる。


「有名になると、身内や仲のいい人が拉致などされるかもしれない。 

 それなら隠れて、近くの人に被害が行かないようにするくらいがいいです」


 重村代表は、言葉を失ったように口を閉じた。


「……ご歓談の中、失礼します。

 そろそろ会議がありまして、代表の予定が詰まっております」


 松田さんに言われ、重村代表は表情を引き締め直した。


「分かっておる! 

 今日はありがとの……相談があったらいつでも連絡を入れるのじゃぞ。

 あとスイーツは全部持って帰るか?」 


 番号の書かれた紙を渡される。 


 ……この量のスイーツを全部は無理でしょ。


「……日持ちするものを、少しだけいただいていきますね」


 会話を終えて部屋から退出する。


 扉を閉める直前、重村代表が胸をギュッと握りしめるのが見えた。


「松田……ワシ、もうダメかもしれん」

「代表!代表! ……もう、しっかりしてください!」 


 そんな会話が聞こえたが、偉い人がそんなことを言うはずがない。

 きっと気のせいだろう。


 ……変な人だったな。


 もっと冷たい人だと思っていたけど。

 でも、嫌いじゃない。


 顔が緩むのを感じた。


 1〜2分ほど、その場で待機していると松田さんが社長室から出てくる。


「お待たせして申し訳ありません。すぐに案内しますね」


 そのまま傘下のギルドへと案内された。





後書き


※この後、余ったスイーツは松田秘書の手によって各部署へ配られ、スタッフ(社員一同)が美味しくいただきました。


 味が最高だったので、その日の社内の士気は爆上がりしたそうです。


 ……ホワイトでいいなぁ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
代表のキャラ好きなので、早速出番あって嬉しいです笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ