第10話 候補
夜。
静けさの中、ノートにペンを走らせる音だけが室内に響く。
まずは、一度今の自分を整理しよう。
強みは、『鑑定』で相手の大まかな強さや状態が分かること。
これにより、『気配遮断』を活かし、最も警戒すべき敵へ確実に先制攻撃を仕掛けることができる。
ペンを走らせる。
逆に弱みを書き出してみよう。
・察知能力が高い敵、もしくは複数で行動する
敵とは相性が悪い。
・単体で強力な敵を相手にする場合、
決定的な火力不足。
・物理攻撃が主体のため、
物理無効の敵がいた場合、手足も出ない。
・遠距離の攻撃手段が限られている。
書いてみて、あまりの弱点だらけさに肩の力が抜ける。 ただその分、伸び代が大きいのだとポジティブに考え直した。
ステータス画面を開き、これらの弱点を補えるスキルを探す。
候補は、五つ見つかった。
一つ目。
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【縮地】
消えるようなスピードで移動することができる。
移動できる距離や使用回数はスキルレベルに
依存する。
Lv.1では、
・移動距離:5m
・再使用可能時間:10分
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これは以前も習得を迷っていたスキルだ。
これがあれば、強力な単体相手の切り札になり得る。
欠点はやはり、再使用時間が長いこと。ただこれも、今後スキルレベルを上げていけば解消できるはずだ。
『第一候補』とノートに書き込む。
二つ目。
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【罠感知】
地面に設置された不可視の障害を
事前に察知できる。
感知距離はスキルレベルに依存する。
Lv.1では、
・感知可能距離:1m
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スキル一覧を見ていて気付いた。
このスキルが存在するということは、ゲート内には罠がある。 もしかしたら、即死トラップのようなものもあるかもしれない。
欠点は、これを選ぶと火力不足が解消できない点。
ただ、もし門の先に罠が溢れていれば——選択肢には入る。
三つ目。
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【足場生成】
空中に任意の足場を作ることができる。
Lv.1では、
・生成可能な足場:一歩分
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効果は地味だが、戦闘中に空中を一歩踏み出せる意味は大きい。
何より再使用時間がない点が非常に魅力的だ。
これが第二候補。
四つ目。
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【物真似】
相手のスキルを一つだけ模倣できる。
本来のスキルの7割程度の効果しか発揮できない。
一度そのスキルの発動を視認していることが条件。
Lv.1では、
・使用可能時間:5分
・再使用可能時間:60分
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『鑑定』を持つ私には、相手のスキルが分かる。相性はいい。
欠点は相手がスキルを持っていないと無意味なこと。
そして発動を見る必要があるため、どうしても受け身になる。
これが第三候補。
五つ目。
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【毒生成】
生成した毒液を武器に塗布、
または直接放つことができる。
武器に塗布する方が高い効果を発揮する。
Lv.1では、
毒の効果:微弱
飛距離:5m
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火力が通じない強力な敵が現れた時への対抗手段になり得るし、遠距離攻撃の手数が増えるのも魅力的だ。
欠点は仕留めるまでに時間がかかりすぎること。
これが第四候補。
ペンを止め、一度ノートを見直す。
候補としてはこんなものだろう。
——スキルは、まだ取らない。
扉の先で何が待ってるか分からない。
状況を見てから、最適なスキルを選ぼう。
ノートを閉じ、ベッドに潜り込む。
スキル一覧に、良さげな範囲攻撃がなかったのが悔やまれる。
ジョブ選択時の『魔術師』を思い出す。
やっぱり、魔術師になればよかったかな、と少しだけ後悔した。
(……火で周りを一掃する、みたいなスキルが欲しかったな)
色々と考えてしまい、その日はなかなか寝付けなかった。
*******
次の日、放課後。
ゲート前に立ったが、何かがおかしい。
特に大きさが変わったわけではない。
色が変わったわけでもない。
それでも、漠然とした違和感を覚える。
(……なんだろう、この感じ)
アニメや漫画でよくある、入ったら閉じ込められるパターンかな。
……あり得そうな気がして背筋がゾクッとした。
戻れるか確認するため、まずは木の棒をゲートに入れてみる。
……戻せた。
次に腕だけ入れて、戻れるか確認する。
……大丈夫だ。
大きく息を吐き出す。
身体を強張らせながら、ゲートの中へと入った。 最後に、外へ出られるか確認する。
……問題なく外へも戻れそうだ。
(……違和感は勘違いだったかな?)
首を傾げ、そのまま奥へと向かった。
*******
洞穴の奥を進む。
モンスターを倒しながら、あの門があった場所まで辿り着く。扉の前に立つと、足が止まる。
(……入ったら、多分すぐには戻れない)
おそらく、この門に入ったら、何かしらの条件を達成しない限り、外へは出られないのだろう。
大きく深呼吸する。
ナイフを確認する。
ポーチに上級回復薬が入ってる。
スキルポイントも、まだ使っていない。
準備は、できてる。
でも、手が震える。
(……なんで私は、潜っているんだろう)
頭にふと、そんな言葉が浮かび苦笑する。
最初は現実にファンタジー世界ができたことが嬉しかった。 でも、途中からは何かに追われるように潜っていた気がする。
選べるようになりたかった。
自分で、決めたかった。
それが、理由だったはずだ。
(この先を進んだら、何か分かるのかな……?)
扉の前で両頬を叩き、覚悟を決める。
(……行こう)
私は扉に手を置き、押す。
ゆっくりと開いた。




