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覚悟

「そのためなら……化物になっていい」


 瞳を怪しく光らせ、口元を歪める音姫歌。

 もはや太陽ひまわりが知っている親友ではない。

 魔女だ。

 歌と踊りで人々を狂わせる魔女だ。


「ウタ。ダメだよ……それはダメ!」


 必死な表情でひまわりは歌の肩を掴む。

 しかし歌は彼女の手を掴み、引き剥がす。


「ごめん。もう……決めたんだ」


 そう言って歌は定員が持ってきたコーヒーを一気に飲み、お金をテーブルに置いて、カフェから出て行った。


「ウタ!」


 ひまわりは手を伸ばす。

 しかし彼女の手はなにも掴めなかった。

 残されたひまわりは両手で頭を抱える。


「このままじゃあ……ダメだ。きっと大変なことになる」


 ひまわりは普通の人よりもバカだ。

 そんな彼女でもわかるぐらい、今の親友はヤバい状態だった。

 放置すれば、必ず災いが起きる。

 そう感じさせるぐらいひまわりの危機感知能力が警報を鳴らしていた。


「いや……まだ、まだ大丈夫。ウタを助けられる」


 覚悟を決めた表情を浮かべるひまわり。

 彼女は親友を魔女から普通の人に戻すために、考える。


「ウタが変になったのは、明らかにバイトしてから。バイト先の探偵事務所のことを調べればなにか分かるかもしれない」


 ひまわりは行動する。

 親友を助けるために。

 親友を化物にしないために。


<><><><>


 一か月後、ひまわりは自分の部屋でノートにペンを走らせる。

 ノートに書いたのはひまわりが調べた親友のバイト先。

 多くの友人にお願いして、一緒に調べたのだ。

 他にも自分の足で調べ、ネットで情報を探した。

 その結果、多くの黒い噂を知る。


「『依頼を出した友人が突然、人を殺害』『依頼を出した夫が何かにとりつかれたかのように狂いだした』『依頼を出した恋人が多くの人を連れて新たなイカレ宗教を作った』……どれも依頼した人がおかしくなってる」


 目を細めるひまわり。

 彼女の危機に敏感な勘が叫んでいる。

 この噂は全て真実だと。


「少なくとも黒い噂がこんなに出るってことは、狂狼さんには何かあるんだ。だけど……こっちも気にしないと」


 ひまわりは片手でスマホを操作し、SNSを開く。

 SNSに書かれているのは親友である音姫歌のことだ。

『彼女の曲、最高!』『神曲、誕生!』などの褒めるコメントが書かれている。

 だけど一部の人がこんなコメントが出ていた。


『私の友人が、彼女の新曲を聞いておかしくなった』

『彼女の歌を聞いてから、娘が暴れ出した』

『優しい妻が彼女の踊りを見てから、壊れたように狂いだした』


 普通の人なら音姫歌のアンチだと思われる。

 だがひまわりには分かるのだ。

 このコメントは嘘じゃない。


「やっぱりウタのあの曲には人を狂わせる力があるんだ」


 ひまわりの悪い予感が当たった。

 実際、ひまわりの友人の何人かも狂ったかのようにおかしくなっている。

 そして全員、音姫歌の新しい動画を見てからおかしくなっていた。


「でも……まだ間に合う」


 ひまわりが色々と考えていた時、スマホから着信音が鳴り響く。

 彼女は通話をオンにして、スマホを耳に当てる。


「もしもし?」

『あ、もしもし……ひまわりちゃん?アキだよ』

「アキちゃん。どうしたの?」


 アキ。

 狂狼のことを一緒に調べてくれている友人の一人だ。


『実は探偵の狂狼って人のことを詳しく知っている元刑事さんを見つけたの』

「!それ本当!?」

『うん。その元刑事さんもひまわりちゃんと話がしたいんだって』

「……わかった。予定を決めよう」



 読んでくれてありがとうございます。

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