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依頼

 バイトを始めてから一週間後、私は親友であるひまわりと一緒にカフェでお茶を飲みながら話をしていた。

 お茶をしていると言っても私はコーヒーを飲んで、ひまわりはオムライスを食べているけど。

 というかなんでそんなに食って太んないんだよ。

 こっちは少し喰うだけで腹に脂肪がつくのに、なんでひまわりは胸が大きくなるんだよ。

 マジでふざけんな。


「まぁ……変わった人でさ。狂狼さんは。ご飯を作っても肉しか食べないし、軽く注意したら飼い主に叱られた子犬のように落ち込んでさ……」

「ふ~ん」

「……なにニヤニヤしてんの?」


 私の話を聞いていた親友は、ずっと気持ち悪い笑顔を浮かべている。

 まるで面白いものを見つけた子供みたい。

 正直に言ってキモイ。


「いや~……ついに私の親友も春が来たかと思ってね~」

「ハァ?どういう意味?」

「だって……ウタ、そのキョウトウさん?」

「狂狼さんね」

「そうそう。そのキョウロウさんの話をしている時、ウタ……とても楽しそうだったなんだもん」


 その言葉を聞いて、ひまわりがなにが言いたいか分かった。

 つまり私が狂狼さんに惚れていると思っているわけね。

 ハイハイ、そういう勘違いね。


「まったく……なにを言っているの?私、これでもアイドルを目指しているんだよ?そんな人間が恋なんてするわけない」

「ふ~ん。今はそういうことにしてあげる」

「だから……違うってば」


 私は一口、コーヒーを飲む。


「それで?やっぱり探偵の助手をしているから、事件とか巻き込まれるの?」


 興味津々に尋ねてくる親友を見て、私はため息を吐く。


「そんなのないよ。ペット探しはしたけどね」

「なんだ~……つまんないの」


 メロンソーダに突き刺さっているストローに口をつけ、ブクブクと息を吐くひまわり。

 こいつ……私が事件に巻き込まれた方がよかったみたいに言いやがって。

 あとで̪シバく。


「あ!そろそろバイトの時間だ」


 スマホで時間を確認した私はお金をテーブルの上に置き、椅子から立ち上がった。


「じゃあ、私!バイトに行ってくるから!」

「がんばってね!バイトも恋愛も!」

「だから違うって!」


<><><><>


 探偵事務所にやってきた私は、ドアを開ける。


「失礼しま…す?」


 事務所の中には狂狼さんと知らない男の人がソファーに座っている。

 その男はパッと見て、どこにでもいそうな人だった。


「やぁ、()()()()


 狂狼さんは微笑みを浮かべる。

 おかえり。

 ここは私の家ではないはずなのにそう言った。

 その言葉を聞いて、私はなぜか嬉しいと感じてしまったのは内緒だ。


「依頼人の田中優助(たなかゆうすけ)さんだ」

「こんにちは」


 田中さんは頭をペコリと下げた。

 私も「音姫歌です。助手をしています」と自己紹介して、頭を下げる。


「音姫さん。今日の依頼はペット探しではなく、浮気調査だよ」

「浮気……ですか」


 浮気……か。

 正直、気分が落ちるな。

 でも仕事だから、しょうがないよね。


「どうやら田中さんの奥さんがここ最近、家を出ることが多いみたいなんだよね。だから僕達に依頼してきたみたい」

「そうなんですね」

「ということで今すぐ調査だ」

「え!?今から」

「うん。奥さんの写真は貰ったし、だいたいどこに行くかも聞いたから」

「わ、分かりました」


 ペット探し以外の依頼……緊張する。

 でも……そう簡単に証拠が手に入るのかな?


<><><><>


 翌日。

 狂狼さんは一枚の写真を田中さんに見せた。

 その写真にはそこそこ美人な女性が男と腕を組み、ラブホに行く姿が写っていた。

 それを見て田中さんは涙を流しながら、絶望した顔を浮かべる。


「ああ……はい。俺の妻です」


 私は田中さんに心から同情した。

 いや、マジで可哀そうだよ。

 まさかこんな簡単に浮気の証拠写真が手に入るとは。


「心中をお察しします。それで……これからどうするか聞いても?」

「はい……もう妻とは一緒にいられないので、離婚しようかと」


 とても悲しそうに顔を歪めながら田中さんは肩を落とす。

 もう見てられない。可哀そうすぎて。

 でも……離婚は仕方ないよね。

 浮気されたんだから。

 私がそう思っていたその時、


「本当に……それでいいんでしょうか?」


 狂狼さんは諭すようにそう言った。


「え?」


 私は狂狼さんの顔を見て……言葉を失う。

 全身が凍り付いたかと錯覚するぐらい、狂狼さんは恐ろしい笑顔を浮かべていた。

 口元を三日月に歪め、赤い瞳を怪しく光らせている。

 まるで獲物を見つけた狼のよう。


「どういう……意味でしょうか?」

「そのままの意味ですよ、田中さん。このままやられっぱなしでいいのでしょうか?」

「そ……それは」

「奥さんはあなたを裏切った。それを許せるのですか?」

「……許せないです」

「腹が立ちませんか?憎くないですか?」

「腹が立ちます……とても憎いです」


 田中さんの顔が少しずつ怒りで歪んでいった。

 ダメだ。止めないと。このままじゃあ不味い気がする。

 私はなんとか話を中断させようと思った。

 だけど……私はしなかった。

 恐ろしい笑顔で話す狂狼さんの顔を見ていたら、止めたくないと思ってしまったから。


「なら復讐しましょう。自分を裏切った女に。そして後悔させるのです」

「はい……でも、なにをしたら。あまり犯罪はしたくないのですが」

「ご心配なく……私が素晴らしい復讐を教えてあげます」


 私はこの日、気付いてしまった。

 狂狼さんはただの探偵ではなく悪魔だと。

 そしてその悪魔が美しいと思っている自分がいるのだと。

 読んでくれてありがとうございます。

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