探偵
バイト先である探偵事務所に来た私はスマホで確認する。
「ここで……いいんだよね?」
到着した場所はボロい小さなビル。
本当にここに探偵事務所があるのかな?
そんな疑問を抱きながら階段を上がり、二階に移動する。
そして扉を開けると、私の鼻を埃の臭いが刺激した。
「ゲホゲホ……すっごい汚い」
床の上にはペットボトルや丸まったティッシュなどが転がっており、天井には蜘蛛の巣が張っている。
もうゴミ屋敷じゃん。
本当に人が住んでいるの?
私がそう思っていると、汚れたソファーから男の声が聞こえた。
「んん……誰かな?依頼人?」
ソファーの上で寝っ転がっていたのは短い白髪の男。
血の如く赤く、鋭い目に白い肌。
少し痩せており、身体は細い。
まるで狼のような彼を見て、私は素直にイケメンだなと思った。
いや、マジでイケメンだなオイ。
こんな美形の男がこの世にいたとは。
テレビに出てくる人気男性アイドルよりもイケメンだ。
モデルとかやっていてそう。
「あ、私……音姫歌です。昨日、電話で―――」
「ああ、バイトの子か。よく来てくれたね」
ソファーから立ち上がった白髪の男は私に近付いた。
そして鼻と鼻がぶつかりそうなぐらいまで顔を近づけてくる。
ちょ、なに!?
なんで顔を近づけるの!?
驚いていた私は男の目を見て、一瞬だけ息を呑む。
男の血のような赤い両目は、まるで私の中にあるなにかを見据えているようだった。
そんな彼の目を見て、私は……恐ろしくも美しいと思ってしまう。
「へぇ~……君、僕と同じなんだね」
口元を三日月に歪め、目を細める白髪の男。
怪しい笑顔を浮かべる彼を目にした私は、胸が高鳴るのを感じる。
「あの……なにが同じなんですか?」
「ん?ああ、ごめんね。なんでもないよ」
優しい笑顔を浮かべる白髪の男。
先ほどの怪しい笑顔が嘘のようだ。
気のせい……だったのかな?
「僕は狂狼京介。探偵をしているよ。よろしく」
手を差し伸ばす狂狼さん。
私は彼の手を握る。
「音姫歌です」
「音姫さんだね。電話で話したと思うけど、ウチでは雑用を頑張ってもらうけど……大丈夫?」
「はい。掃除や洗濯、料理は得意です」
アイドルの道具や勉強の本を買うお金を稼ぐために、母の家事を手伝っておこずかいを貰っていた。
だから家事スキルには自信がある。
「そうか、そうか。なら……もう一つバイト内容を追加していいかな?」
「追加?」
「うん。君……助手をやってよ」
「え?」
今、この人……なんて言った?
助手?探偵の?私がやるの?
マジで言ってんのこの人?
「ムリムリムリです!」
私は頭と左手を左右に振った。
いや、絶対に無理!
雑用するならまだしも、探偵の助手なんて!
アイドルになるための勉強や動画投稿もしなくちゃいけないのに、そんなの……。
「バイト代、三倍は出すよ」
「やります」
私は即答した。
探偵の助手?気合と根性で何とかなるでしょ。
アイドルの勉強は?もちろんやる。
動画の投稿は?もちろんそれもやる。
大変だけど、死ぬ気でやるよ!
全ては……バイト代のために!!
「あの……因みに探偵の助手ってなにをするんですか?やっぱり謎の事件を解決したり?」
「あははは。違う違う。ドラマの観すぎだよ、それは。探偵ってのは浮気調査や人探し、ストーカー調査とかだよ。あとはペットを探したりするかな」
「そう……ですよね」
謎の事件を解決だとか、怪盗を捕まえたりだとかはフィクションだけの話。
現実の探偵なんてそんなもの。
いやむしろ変な事件だとかに巻き込まなくて、ホッと安心した。
「まぁ……フィクションよりも現実のほうがとても面白いけどね」
静かで、そしてどこか楽しそうな声でそう言った狂狼さんはまた怪しい笑顔を浮かべる。
その笑顔を私は……一生忘れることはなかった。
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