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2-3 まったく、世話がやけるわね





 ヴィジェから指示された清掃エリアに向かって歩きながら、俺の気分は次第に落ち込んでいた。

 これから始まろうとしている清掃業務。

 いまひとつ具体的なイメージが湧かないが、汚れるし疲れるし、ろくなことにはならないだろう。


「ちょっと~、レンマ、なんか暗いよ?

 もっとテンションアゲてこ~よっ!」


 少し先を行くロニャは、俺の複雑な思いとは裏腹に鼻歌交じりで楽しそうにしている。

 まるで遠足の朝に浮足立っている子どものようだ。


「こんな状況でアゲられるかっての!

 自分で望んだんならともかく、俺にとっては強制労働みたいなもんだからな」


 俺が嘆くと、ロニャは意外そうな表情をした。


「マジで?

 お仕事、楽し~じゃん!」


「どこが?

 ゴミを拾ったり、汚れを落としたりするんだろ?

 単調だし、汚れるし。

 どこに楽しい要素があるんだよ!」


「はぁ?

 きれ~になったら気持ちいいじゃん!

 それにぜんぜん単調じゃないよ!

 いろんな人と会えるし、いろんなことあるし、マジ退屈しないし!」


「お前は楽観的だからいいかもしれないが、俺は現実的だからな。

 そんなふうには考えられねぇんだよ」


 俺はため息をついた。


「ま!

 やってみればわかるっしょ」


 そう言うと、ロニャは地面をタンッと蹴って、ひときわ大きくジャンプしてみせた。

 そして軽い足取りで、まだ人通りの少ない商店街を進んでいく。

 いつもポジティブでいられるロニャを、俺は少し羨ましく感じた。


 アリチェはどうしているのかと思い振り返ると、彼女は淡々と掃除をしながらゆっくりと移動しているようだ。

 地面を注意深く見回しながら、ときおり掃除機の先端を向けてブォオンと作動させ、ゴミを吸引している。


 俺は自分の腰にもついている掃除機を、ホルスターから取り出してみた。

 折りたたみ傘ぐらいの大きさしかなく、掃除機とは思えないほどコンパクトだ。


「これ、どうやって使うんだ?」


 俺がドッツォに目線を送ると、ドッツォは掃除機についている大きなボタンを指さした。


「カンタン、カンタン。

 そこをポチッとするだけだよ」


「なるほど」


 俺は言われたとおり、手元のボタンを押す。


 すると――。


 ボボボボボッ!


 たちまち掃除機はけたたましい爆音を上げ、先端が俺のふくらはぎにギュッと吸い付いた。


「どわっ!」

 

 ただでさえ体のバランスをとるのに苦労しているのに、想定外の反動が発生して制御ができない。


「とめて、とめてくれ!」


 俺が叫ぶ。


 ドッツォは慌てて俺の掃除機をつかむと、ポチポチとすばやくボタンを押す。


 やがてモーター音は低くなっていき、暴走掃除機は沈黙した。


「なんだよこの掃除機!

 壊れてんじゃねぇのか?」


「最強モードになってたよ。

 最強モードは危険だから、あんまり使わないほうがいいと思う。

 踏みつけられたガムとか吸うときに便利だけど……」


「はぁ?

 そんな設定、した覚えはないぞ?」


 俺の脳裏に、ロニャの顔がちらりと浮かんだ。

 してやったりと勝ち誇った表情を浮かべている。


 あの小悪魔!


 今朝、俺が寝ているところに制服と掃除機を持ってきてくれたのはロニャだ。

 てっきり親切にしてくれたのだと思っていたが……。


「あのやろ!

 わざと初期設定を最強モードにしやがったな!」


 何の証拠もないが、間違いなかろう。

 俺ははるか先を歩いているロニャの背中を睨みつけた。


「まったく、世話がやけるわね……」


 いつのまにかアリチェが背後に立っていた。


 掃除機の爆音を聞いて放っておけなくなったのだろう。

 俺の手から掃除機を奪い取ると、操作パネルと思しき場所で、ちゃかちゃかと指を動かしてみせる。

 彼女はこういったハイテク機器の扱いに慣れているようだ。


「初心者がマニュアルモードを使うのは無謀よ。

 オートモードにすれば、ゴミの種類に応じて自動的にパワーを調整してくれるから」


 アリチェはそう言うと、呆れたような表情で俺の手に掃除機を戻してくれた。


「お、おぅ。

 ありがとな」


 俺はいちおう礼を言うと、掃除機を持ち直して先端を地面に向けてみた。

 この状態では小さなアイドリング音しか聞こえず、吸引力は働いていないようだ。

 しかし、糸くずらしきものに先端を近づけると、とたんにモーターの回転数が上がり、シュッ! と勢いよく吸引した。


「おぉ、すげぇ!」


 俺はすこし興奮した。

 いくつになっても、男の子はメカが大好きなのだ。


「高圧縮コンプレッサーを内蔵しているから、1日使ってもカートリッジはいっぱいにならないわ。

 さすがに質量は増えてしまうけど、溜まったら交換すればいい」


 アリチェが掃除機の腹部に親指を当てて力を入れると、掃除機本体とカートリッジがカシャッと分離した。


「おぉー!

 さすが月面基地の装備は進んでるなぁ」


「ふふ」


 え?


 アリチェが笑った?


 改めて彼女の顔を見たが、いつもの無表情に戻って路上のゴミを探している。


 気のせいだったのか?


 真実はわからないが、もしかしたら俺は極めて稀な、貴重な瞬間を目撃したのかもしれなかった。





=== 登場人物 ===


【レンマ=宮塚練馬ミヤヅカ・レンマ

 22歳。男性。日本人。生まれも育ちも秋葉原。高校中退の無職。人よりちょっとゲームが上手い。当然のようにアニメを見てきたので、自分がアニメ好きだという自覚は薄い。


【ロニャ・エレント】

 18歳。女性。ドイツ人。清掃課所属。楽観主義で行動派。社交的だがレンマに対してはなぜかとっても意地悪。


【ドッツォ】

 15歳。男性。ボサッコ人。清掃課所属。感情変化が激しく常に本音。アニメにハマっている。


【アリチェ・ブルネロ】

 16歳。女性。イタリア人。清掃課所属。幼く見られるのが嫌でクールを装っている。メカが好き。


【ヴィジェ】

 男性。人工人格。総務部のマネージャー。放任主義だがイザというときは頼りになる。


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