13 兄妹
離れて暮らしてはいるが、私と兄は仲の良い兄妹だと思うし、私は兄へ全幅の信頼を寄せていた。それは幼少期のとある出来事が起因していた。
幼い頃、私は一部の使用人たちにも「不必要な公女」と蔑まれていた。子供に意味は分からないだろうと目の前で告げるものもいた。
ある時、「不必要」という意味を侍女頭へ尋ねたことがあった。それは「いらない」という意味だと教えてもらった。
「わたくしは…。いらない子なの?」
侍女頭へ質問する。
「そんなことはありませんよ…」
「でも、じじょたちが言ってたもん!わたくしは『ふひつようなこうじょ』だって言われてるって!」
「そうですね…。残念ですが…。世間でそう呼んでいるものもいるようですね…」
「せけん?って何?」
「それは…。皆んなってことですかね…」
私は子供心に頭が真っ白になった。侍女頭の言葉を要約すると…。
「みんながわたくしのことをいらないって…。思ってるの…」
侍女頭は困ったような表情で私の様子を伺っていたが、私が泣きだすと静かに部屋を出ていった。
グラジオラス公爵家が後援している擁護院へ訪問のために母は留守にしていたし、いつも私の身の回りの世話をしてくれる兄の乳母も人手が足りないとのことで駆り出されていた。
母はやむなく侍女頭へ私を託したのだ…。
私は一人で途方に暮れ、部屋の片隅へうずくまり泣き腫らした。
「どうしたの?」
兄が一人で泣いている私へ声をかける。
後継者教育でいつも忙しそうにしていた兄だったが、時間を見つけると私の部屋へ訪れていた。
私だけが部屋へ残されているのを発見した兄は少なからず驚いているようだった。
温かな掌が私の頬を優しく撫でる。兄は私のしゃっくりが止まるまで辛抱強く待った。
「くっひっ…く…。くっ…。あにさま…。ふんっ…くっ…。エヴァは…いらない子なの?」
「誰がそんなことを言ったの⁉︎」
兄は父譲りの美形だ。その兄が凄い形相で叫んだ。紅玉の瞳がめらめらと燃えているを見て、幼い私は恐ろしくなった。
「ふっ…。ぐっ…。あにさまがこわい…」
「ごっ…。ごめんね…。エヴァ…。君は僕にとってかけがえのない大切な妹なんだよ。それにお母様もエヴァを愛している…。いらない子じゃないよ…。僕はエヴァが大好きだ」
私の言葉に兄が慌てふためく。その様子が少し可笑しくて笑うと、兄の表情が和らいだ。
「お母様と僕だけじゃないよ…。伯父様もエヴァは可愛らしいって、あの難しい顔が崩れるんだ…。伯母様は女の子が欲しかったらしくて、お母様を羨ましがっていたよ。それから…。エヴァのクローゼットは季節が変わるたびに新作のドレスが増えているでしょ?あれはお祖母様の仕業なんだよ…」
「ぐっ…。むっ…。ん…。おとうさまは?」
「エヴァは眠っているから知らないだろうけど…。最近、お父様は仕事を早く終えられて、エヴァの部屋へ何度も足を運ばれているんだ…。寝顔しか見れないとボヤいてはいるけど…。お父様もエヴァを愛している!愛されている君は絶対にいらない子じゃないよ!」
兄は力強く私を抱きしめた。兄の温もりが伝わり、強張っていた私の気持ちが解けていくのを感じた。
ただそれだけのことだったが…。
心ない言葉から救ってくれた兄は、私にとって今でもずっと英雄なのだ。




