クールっ!?〜文化祭最終日後編〜
文化祭完結編です
いや、まぁ、想像はしていたのだが・・・
「ねぇ、あの人ってさ、モデルの佐伯杏じゃない!?」
「えっ?うわっ、本物じゃん!!」
「ち、ちょっとここ!コスプレ喫茶だって!!寄って見ない?」
「あの子チョー可愛い!指名しようよっ!!」
上の台詞はお客さんの反応だ。初日、二日は大半が男性客ばかりだったのだが、今日来ている客の殆どは女性だ。上はおばさんから、下は中学生まで、中々幅が広い。
同世代(女子高生)の半数は杏さん目当てみたいだが、他のお客さんのお目当ては・・・
「ホントに女の子じゃないの?!」
「ねぇ、あの子すっごく可愛くない?」
「ナギちゃん、ご指名入りま〜すっ!」
「ありがとうございまーす!」
ナギが目当てみたいだ。指名数も、群を抜いて多いし、なにより幼さとかわいらしさを備えた表情が、母性をくすぐるのだろう。
「緋沙さん、ヘルプお願いします!」
「あ、は、はい!」
三日目ともなれば、やはり慣れが出るのだろう。お客に対する接客も、なかなか様になったナギ。ヘルプとして参加した私も、客同様に見惚れてしまう。
「え、緋沙さんって私らと同じ歳!?」
「うっそ?!めっちゃ色気があるんだけど!!」
「あ、ありがとうございます・・・」
話題は、ヘルプとして参加した私の事になっていた。矢継ぎ早に質問され、しどろもどろになりながらも言葉を返す私を、ナギは微笑みながら見ている。
「緋沙さんは、この学校の生徒会長さんで、僕たちの自慢の先輩なんです!!」「・・・こ、コラ!変な事を言うなっ!!」
「あーっ、緋沙さん照れてる〜!!」
ナギの言葉はあまりにも不意打ちだった。熱くなる頬が、照れと焦りを感じさせる・・・
「じゃあ、ナギちゃんは緋沙さんが好きなんだ!」
「はい!大好きですよっ!!」
恥ずかしげもなく言うナギに対し、私の身体はますます熱を帯びていく。
おそらくナギは、自慢できる先輩として、私の事が好きなのだろう・・・。じゃなきゃ、照れもなくそんな簡単に『好き』だと言える、わけがない。
(それはそれで、悲しいな・・・)
「アハハッ、ごちそうさま!!んじゃ、そろそろ出よっか?」
「そだね!」
過ぎて行く時間。時計の針は、正午に差し掛かろうとしている。なのに・・・
(ナギは、女性として私を見てくれてる?)
(私の気持ちを、受け止めてくれる?)
(もし、断られたら・・・)
不安ばかりが付き纏う。
⇒⇒⇒
休憩に費やした時間は、約10分ちょっと。その後はテーブルを綺麗にセットし直して、再び午後の部の準備でした。
更には・・・
「ナギちゃん、ちょーっといいかな?」
優先輩の声は、何かを企むような響き・・・いやーな予感がするのは僕だけでしょうか?
「まだ少し時間あるからさ、これに着替えてくんない?」
「えっ、これ・・・ですか?」
いやーな予感って、なぜかよく当たるんですよね!
差し出された衣装は、なんとスーツ!これなら、なんて思ったのもつかの間。女性用のスーツ(もちろん膝上スカート付き)でした。しかし、優先輩って何着くらい衣装を持ってるんでしょうか?
「ナギ、着替え手伝ってやろうか?」
円香姉は、いつも僕を子供扱いするんです。もう、高校生なんだけど。
やんわりと円香姉に断り、僕は着替えるために準備室へと入りました。
5分後
「えっと、着替えましたけど・・・」
「・・・さいっこう!やっぱ私の目に狂いはなかったわ!!」
優先輩の用意してくれたスーツは至って普通(?)だったんですが、中の白いシャツの、上から三番目までのボタンが無いんです。おかげで胸元がはだけてます。
「ナギちゃんって、何着ても似合うから、こっちとしても楽しいわ!ね、どう?ナギちゃんの格好」
「・・・・・・」
「緋沙?」
「・・・・・・」
「緋沙っ!!」
「ハッ?な、なんだ?」
会長さん、休憩前からちょっとおかしいです。優先輩の声にも反応しないし、ぼーっとしてると思ったら、なんかため息を吐いて落ち込んだり、思い詰めた顔をしたり・・・。
「秘書風にしてみたんだけど、どう?」
「あ、ああ・・・良いんじゃないか?」
優先輩の声にも、あんまりしっくりこない返事をする会長さん。やっぱり、ちょっと変です。
「会長、大丈夫ですか?なんか疲れてます?」
「い、いや、なんでもない!大丈夫!!」
無理、してるみたいです。何か言葉にだそうと口を開きかけた僕の肩を叩いた優先輩は、無言で首を横に振りました。
(緋沙の事は、心配しなくて大丈夫だから)
優先輩の目が、そう言っているように思えて、僕も開いた口を、真一文字に結び直しました。
「じゃ、そろそろ午後の部の仕度、はじめよっか!!」
「・・・ああ、そうだな!」
「はい!」
みんなで輪になって、気合いを入れます!
「午後の部も、頑張るぞーっ!!」
『オォーッ!!』
⇒⇒⇒
午後の部は、1時から4時までの3時間。立て札を『準備中』から『営業中』へと切り替えれば、待ってました!!とばかりに、客が生徒会室へ押し寄せてきた。ほんの数分で、午前の部と同様に、席は満席。なのに私は・・・
「緋沙、ちょっといいかな?」
優に呼び出され、準備室の片隅にいた。
「私が呼び出した理由、わかる?」
「・・・いや」
パァンッ!!!
「っ痛・・・」
「あんた、しばらくそこで頭冷やしてな!」
乾いた音が準備室に響き、冷たい声が、倒れ込んだ私の頭上から降ってきた。
頬を襲った、痛みと熱、そして優の顔・・・。
「何?ナギにフラれるのが怖いの?告白もしてないのに?まだスタートラインに立ってもいないのに?」
私の心を見透かしたように、優は言葉を投げかけた。冷たい声は、刺々しく苛立ちを含んでいる。
「今の緋沙、嫌い。悪いけど、失望したわ!ちょっとした事でうじうじしてるあんたに、ナギちゃんは勿体ない。あんたがいつまでもそうしてるなら、私がナギちゃんを貰うわよ!!」
「なっ!?」
「何?びっくりした?」
優は、ナギの事が好きだったのか?
「なーんてねっ!」
「ハッ?」
「うっそ嘘!じょーだんよ!」
「優、冗談も言っていいことと悪い事が・・・」
「やっと立ち直ったみたいね!」
何?
「どーせ気付いて無かったんだろうけどさ、ナギちゃん、かなりあんたの事を心配してたわよ」
「ナギが?」
「そ!何があったか知らないけどさ、ナギちゃんを心配させるような顔したまんまじゃ、接客も任せらんないから!!」
ハハッ・・・最低だな、私は。小さい事で落ち込んで、ナギや優に心配かけて。ホント、何やってんだろ
「悪かった。もう、大丈夫だ!!」
「そう?ま、まーた落ち込んでたら、もう一発、平手をプレゼントしてあげるわ!」
「そうならないように、頑張るさ!」
告白もまだ。スタートラインにも立っていない私が、なぜ悩んでいたのか・・・ダメで元々じゃないか!気負うな、私!!
パン!パン!と、ちょっぴり強めに頬を叩く。もちろん、小心者の自分を奮い立たせる為だ。
「よしっ!」
「ん、いい顔!んじゃ、ナギちゃんのサポートをお願いねっ!!」
背中を押され、私はナギのいる席へと足を向けた。
⇒⇒⇒
「お待たせしました、緋沙です!」
「会ちょ・・・じゃなかった緋沙さん、ほっぺた真っ赤ですよ!」
さっきまでの暗い雰囲気は消えた会長さんですが、両頬が(とくに右頬)真っ赤に染まっています。
「ちょっと、優に気合いを入れてもらってな。ナギにも心配かけたな、もう大丈夫だ!」
目尻を緩め、薄い微笑みを浮かべる会長さんは、とても綺麗です。思わず僕のほうが、赤面してしまう程・・・
それから、指名率の高いクーちゃんのサポートに玲。杏姉のサポートに、円香姉。宗先輩のサポートに、弥生先輩と、二人一組となっての接客をする事に。僕は会長さんとパートナーになりましたが、まさか優先輩が葵とパートナーになるなんて・・・
「葵ちゃん、よろしくね!」
「あ、は、はい!!」
あ、葵が照れてる!
「あの二人、中々良い雰囲気じゃないか?」
「ですね!」
指名が入るまでの間、僕と会長さんは、準備室で葵と優先輩を観察していました。そういえば、葵って背の低い女の子がタイプだとか言ってたっけ。
「なぁ、ナギ・・・」
「はい?」
「今日の夕方、この仕事が終わったら、時間を裂いて欲しいんだ。ナギに、聞いて欲しい事があって・・・」
神妙な顔つきの会長さん。何か重要な事みたいです。でも、なんだろ?僕、何か悪い事したかな!?
「はい、良いですよ!片付けが終わったらヒマですから」
「そ、そうか!」
「ナギちゃん、緋沙さん、ご指名でーす!!」
「「はーい!!」」
円香姉の声で、僕と会長さんはお客さんの元へと向かいました。
パーン!パパーン!!
午後の部が終了した事を告げる爆竹が、校内に響いた。
『ありがとうございましたー!!!!』
最後の客を全員で見送り、私は一つ、息を吐く。それは無事に終業を迎えた安堵勘と、不安になりつつある心を落ち着かせるために。手早く片付けを済ませようとした私の肩を、優は軽く叩き、首を横に振った。
「ここは私達がしておくからさ」
「優・・・」
「ナギちゃん!緋沙から重要な話があるから、緋沙と屋上に行っといで!」
「あ、はい!」
気を利かせてくれたつもりだろうが、おかげで他の役員にバレバレだよ。まぁ、敢えて私の逃げ道を潰したのだろうが、もう、その必要は無い。今は、自分の気持ちを、素直にナギに伝えるだけ・・・だから。
「ナギ、行こうか」
「はい!」
二人並んで歩く廊下。大勢の学生や一般客から発する喧騒が、何故だか妙に、心地良く耳に留まった。
本校舎屋上――
『立入禁止』と書かれた扉を開けて外へ出てみれば、そよ風が肌を撫でていきます。
「ナギ、こっちへ来い・・・」
「?はい」
屋上の中央まで足を進めた会長さんは、こちらに顔を向け、手招きしています。距離はどんどんと縮まるのに、会長さんは手招きを止めません。会長さんと僕の距離が1メートルまで近づいた時、ようやく手を下に下ろした会長さん。でも、今度は足を、僕に向かって進めたんです!お互いの息が、かかる程まで。
「会ちょ・・・えっ?」
突然、会長さんの両腕が伸びてきて、僕を抱きしめてます!えっ、な、なんで!?
「会長?ど、どうしたん「じっとしてろ!」」
言葉を遮って、ただ黙って会長さんに抱きしめられてる僕ですが、会長さんの行動と意図が読めなくて、頭の中が混乱してます!・・・あ、会長さん、いい匂い・・・じゃなかった!えっと、えっと・・・
「私は、お前が好きなんだ・・・お前の彼女になりたい。ずっと、側に居て欲しいんだ」
告白だよ、ね。でも、会長さんが僕の事を想ってくれてたなんて・・・。
「僕も会長・・・じゃなかった、緋沙先輩が好きです!でも・・・」
「でも、なんだ?」
「僕、緋沙先輩よりも背がちっこいし、女顔だし、力も弱いし―――」
「じゃあ聞くが、私は男顔だし、背は男子並に高いし、おまけにかなりのやきもち妬きだが、そんな私は嫌いか?」
「そんな事無いです!僕は、先輩が男顔だろうと、やきもち妬きだろうと、背が高かろうと、気にしな・・・あ!」
「その言葉、そっくり返すよ」
ようやく、緋沙先輩の言った意味が、理解できた。
「女顔だろうと私より背が低かろうと、力が弱かろうと、そんな所も含めて、私はナギが好きなんだ!」
「・・・僕も、同じ気持ちで緋沙先輩が好き、で・・・す」
言って気付いた、頬の熱。僕の頬は、きっと真っ赤に染まってるみたいです。
「僕でよかったら、緋沙先輩の、彼氏にしてください!!」
「ありがとう、ナギ!」
抱きしめられた先輩の腕が、微かに震えています。僕も、先輩を抱きしめようと腕を伸ば―――
ガタッ、ガッシャーン!!!
せませんでした。びっくりして振り返ったら、片付けをしているはずの優先輩以下役員全員が、扉の前で倒れていたんです。そそくさと立ち上がった皆さんですが、明らかに、のぞき見してましたよね?
「もう、いいとこだったのに!!」
「それは弥生が押すから!」
「はぁ?私のせい?あんたがぼーっとして―――」
みんな口々に言い訳してますが・・・あ、緋沙先輩からどす黒いオーラが!!
「き〜さ〜ま〜ら〜!!!!」
「あ、ヤバッ!逃げろ!!」
優先輩の声で、みんな蜘蛛の子を散らすように逃げて行きます。もはや鬼神顔負けの怒りを見せた緋沙先輩がみんなを追いかけていくなか、まだ僕だけは、緋沙先輩と恋人になれた実感が無く、その場で呆然と、みんなが出て行った扉を見つめてました。
あ、あれ?もしかして僕、おいてきぼり!?
「ま、待って下さ〜い!!」
傾きかけた夕日を背に、僕はみんなを追いかけました。
今作で文化祭編は完結しましたが、あれ?と思う皆さまもいる事でしょう。二人は恋人になりましたが、肝心の人気投票は?温泉は?・・・答えは次話に続きます!次話をもって「クールっ」シリーズの完結編となりますが、次話は、番外編として物語を進めていってる次第でございます。ここまでお付き合い下さった読者の皆さま、ありがとうございます!そして次話も、よろしくお願いします!!




