食欲の疼き
彼の指が、私の弱いところを、優しく攻め立てる──
「ほら、これがいいんだろう?」
皮を剥きながら、露出したそれを見せつけてくる。
「たまらないんだろう? ──この、顔を出す瞬間の、枝豆が? ほれ!」
私はジョッキの生ビールを片手に、思わず唾を呑み込んだ。
なんて焦らし方をするんだろう、この男は。
たまらなくなるじゃない。
「……欲しい」
私は正直に口にした。
「それが……欲しいのっ! 入れて……っ!」
開いた口に、しかしそれは入ってこなかった。
意地悪……! 早く入れてよっ!
すると彼が指に力を入れ、枝豆を飛ばしてきた。
ぽこんとそれは私のおでこに当たり、テーブルの上に落下した。
手でそれをつまみ上げ、慌てたようにじぶんの口に放り込む私を見て、彼がニヤニヤしながら言う。
「あさましいな、成美は。そんなはしたない格好を人前で見せるなんて」
構わなかった。
生ビールで火の点いた食欲は、もう止めることができなかった。
いつもは清純な外面を見せているけれど、今はどんなはしたないところを彼に見られてもいい。
「食べたいの……っ。いっぱい、欲しいの……っ! お酒のせいだよ、こんなの。お酒が私の本性をさらけ出させてしまうの。……ううん、違う。こんなのほんとうの私じゃない! お酒が私を狂わせているの……っ!」
「おかしいなぁ」
彼が私の乱れた表情を見ながら、嘲笑うように言う。
「外国じゃ、お酒って、食事中に飲むものじゃないところも多いって聞くよ? 食事は食事、お酒の時にはお酒だけを飲むってところも多いらしいよな?」
「な……、何が言いたいの?」
「隠すなよ、かっこ悪いぜ?」
彼が悪魔のような笑顔で私を見透かす。
「正直に言えよ。『私は食べることが大好きな、いやらしい女です』って」
違う……
違う……!
こんなの、ほんとうの私じゃないの! お酒の魔力がこうさせているだけなの!
そう心の中で叫びながら、しかし彼が差し出してきた焼鳥に、私の中からじゅわぁ! と熱いものが迸って出た。
「これが欲しいか?」
「欲しい……っ!」
「じぶんから咥え込んでごらん?」
「そんな……はしたないこと……っ!」
「じゃあ……これ、下げてもらうよ?」
「いやあっ……!」
私は恥も理性も捨てて、彼が手に持っているその串に、噛みついた。
口の中を鶏肉のうまみと肉汁が満たし、喉の奥を快感が貫いた。
私は思わずはしたない大声をあげ、絶頂に達した。
「なんて……うまいんだぁ〜っ! おちゃけを飲んでる時の食べ物は……なんでこんなにうまいんだぁ〜っ!」
居酒屋の、他のお客さんたちが、私のほうを呆れたような顔で見る。
構わない。
私は今、私の食欲を全世界に公開したって構わない気持ちでいっぱいだった。
明日になったら、自己嫌悪に襲われると、わかっていても──